「越前和紙の発達が『源氏物語』の誕生につながった」 大河ドラマ「光る君へ」の題字制作者・根本知氏らが越前和紙の魅力と未来を語る(後編)
OVO [オーヴォ] / 2024年5月16日 11時46分
福井県の主催により5月12日(日)、東京都内で「越前和紙のぬくもりと平安の息吹 ~福井に息づく『千年文化』を未来へ~」が開催され、「光る君へ」の題字制作者で書家の根本知氏による講演が行われた(前編)。後編では、第二部の模様を届ける。
第二部では、根本氏に加え、「千年未来工藝祭」のプロデューサーでHUDGE代表の内田裕規氏、越前和紙の魅力に引かれ、県外から移住した伝統工芸士の村田菜穂氏が登壇し、「福井に息づく『千年文化』を未来へ」と題した三者のトークセッションが行われた。
内田氏がプロデューサーを務める千年未来工藝祭は、2018年から毎年、越前市で開催されている工芸の魅力を伝えるイベント。その印象的な出来事として、招待した香港や台湾の職人たちから「お客さんが真剣に質問をしてくる。台湾や香港で展示をしても、あまりお客が来ない。この土地にはもの作りに興味のある人たちが多い」と驚かれたエピソードを披露。続けて「それまで当たり前だと思っていたことが、当たり前ではないことに気づいた」と打ち明けた。
さらに内田氏は、トヨタのレクサスやエルメスといった世界の一流ブランドが店舗やギャラリーの装飾に和紙を使用している例を挙げ、「日本を訪れる海外の人にとっては、和紙=日本という印象がある。今後、和紙はもっと見直されるのでは」と期待した。
その一方で、後継者不足という問題もあるが、その件に関しては村田氏が「卯立の工芸館に勤務していた頃、研修に来た女子学生が一度就職し、販売の仕事をしていたが、『紙を作りたくなった』と戻ってきた」という身近な出来事を語った。
内田氏は、千年未来工藝祭で行っている“若手チャレンジ”という企画を紹介。職人の弟子たちに自分で作ったものを値付け、販売させることで、経験を積み、独立後の商売がスムーズに行えるようにしているという。さらに、工房間の横のつながりを作るため、若手同士の交流の場を設け、ボウリングに行ったり、飲み会を開いたり、サークル活動のようなことを行っているとのこと。そして「これをきっかけに出会い、結婚し、産地に居ついてくれる人たちが生まれれば」と期待を寄せた。
また、根本氏からは「デザイナーはこうしたいけど、職人としては無理がある、という場合、両者を直接つなぐとけんかになるので、間に立ち、調整する人材が必要」という問題提起があった。
これに関しては、内田氏が「千年未来工藝祭では、福井県の協力を得て、建築家などを工房に案内する見学ツアーを行い、職人との間を取り持つ中間管理職的な役割を自分がやっている」と自身の取り組みを語った。
村田氏は「越前にはたくさんの技があり、その技をデザイナーが知ると、こんなことできませんかというアイデアが生まれる。そういうアイデアに応えられる職人が、越前にはたくさんいる」と明かし、両者をつなぐ人材の必要性を訴えた。
続いて、越前和紙や伝統工芸の未来について話が及ぶと、内田氏は「デジタル化の進行が、伝統工芸にとって追い風になるのでは」と見解を披露。その理由について「パソコンで書く文字は誰が作業しても同じだが、書道は一人一人、すべて異なる。だから、職人に会い、直接物を買うことが、より楽しくなってくるのでは」と述べた。
内田氏のこの意見に根本氏も賛同し、「イヤホンを作っても、最後は装着性やお客さんの服に似合うかという工芸の話をしていることが多いと話していた人がいる。これからはそういう身体性の時代、平たく言えば“手の時代”になると思う」と持論を展開。続けて、「パソコンの画面ばかり見ていると五感が働かなくなっていくので、これからは、香りや味覚を感じ、手を動かすなど、五感を生かしたまち作りを進めて行けば、未来は明るいのでは」と締めくくった。
(←前編)
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