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「君」と「さん」、「殿」と「様」 【馬場典子のコラム NEWS箸休め】

OVO [オーヴォ] / 2024年6月1日 10時0分

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 品川区議会が、2月下旬の第1回定例会から議員の呼称を「君」から「議員」へと改めました。昨年11月に区議会を見学した子どもたちが違和感を訴えたことがきっかけでした。3カ月で改称というスピードに感心しつつ、実は都内23区で最後の「君付け」見直しでもありました。他の特別区では、学校と同じように「さん付け」のところもあるようです。ちなみに都議会は、男性は「君」、女性は「さん」と使い分けているそうです。 

 そもそも、なぜ議員を「君」と呼んでいたかというと、吉田松陰が松下村塾で、老若男女・身分に関係なく対等に相手を敬う呼称として「主君」「君主」などの「君」を用い、1890(明治23)年の国会開設時、松蔭の門下生だった伊藤博文が使用して広まったとのこと。参議院先例録には今も「互いに敬称として『君』を用いる」と定められていて、衆議院規則では「互いに敬称を用いなければならない」と呼称が定められていないものの、同じく「君」です。

 本来「君」に性別の意味合いはなかったのですが、女性の参政権が行使されたのは1946(昭和21)年のことでした。半世紀余り男性に限られていたわけですし、昭和の学校では男性は「君」女性は「さん」付けが一般的でしたから、時代とともに「君=男性」というイメージが定着しても不思議ではありません。

議会イメージ

 

 呼称のイメージというと、個人的に印象深いのは「殿」。子どもにとっては「お殿様」の「殿」なので、小学校の卒業証書授与などの時に「大人(先生)が子どもに敬意を示してくれるんだ!」と感激したものです。が、対等な相手、もしくは目上から目下の者に使う呼称だと、社会人になって知りました。今思えば、対等に扱ってくれたのなら十分ですけど(笑)。

 ただ、ひも解いていくと、やはり「殿」は高貴な人が住む家屋という意味から、後にそこに住む人を指すようになった言葉。書簡の中では、平安時代、摂政・関白の地位にある人に付けたのが初めで、平安時代末には官職名に付けられ、鎌倉時代末には人名にも付けられたそうです。

 「議員」と並んで使用されている「さん」は「様」がくだけたものですが、元々の「様」が使用されたのは「殿」より遅く室町時代から。人を直接指すことを憚(はばか)り、方向の意である「様」で敬意を表したそうです。「逆さま」の「さま」が向きを表しているということを、初めて認識しました。

 公的な文書で慣例化している「殿」ですが、実は久しく変化が求められています。52(昭和27)年の国語審議会建議で、①「さん」を標準の形とする ②「さま(様)」は主として手紙のあて名に使う。将来は公用文の「殿」も「様」に統一されることが望ましいーなどとされました。70年ほどたった今も結局多用されているようですが、今後どうなるのでしょうか。歴史ある言葉がなくなるのは、それはそれで寂しい気がします。

馬場典子(ばば・のりこ)/東京都出身。早稲田大学商学部卒業。1997年日本テレビに入社し、情報・バラエティー・スポーツ・料理まで局を代表する数々の番組を担当。2014年7月からフリーアナウンサーとして、テレビ・インターネット番組・執筆・イベント司会・ナレーションなど幅広く活動中。大阪芸術大学放送学科教授も務める。

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