「福島」からの問いにアナタは 【サヘル・ローズ ✕ リアルワールド】
OVO [オーヴォ] / 2024年7月7日 8時0分
今年もあっという間に半年がたってしまいました。時の流れは早く、「今」に懸命になっていると忘れてしまうこともどんどん増えていきます。このコラムでも「平和の副作用」や「あたり前のない、今」について書いています。今回は「ワールド」ではなく、あえて国内に視点を当てたいと思います。なぜか? 先日、宮城県石巻市へプライベートで行きました。自分の目で確かめたかったのです。東日本大震災から13年という月日がたっていく中で、私は何を理解していたのか?と。
3月11日。確かに、現地にいなかった私には「その日」を思い続けることは困難ではあります。ですが、遺族、被災された方々、もちろん東日本大震災だけではなく、能登半島地震、阪神・淡路大震災、熊本地震など、被災された方々の傷痕が癒えるのはとても難しい。経験したくはないですが、私もいつ被災するかは分かりません。だからこそ、人ごとではなく、身近な教訓として何を得るかが重要だと思います。そう思ったキッカケは、1本の映画との出合いでした。
福島の原発事故から13年、今なお、福島で生きる人々が直面している孤独、闇、疎外感に向き合う精神科医。その記録を数年にわたり撮り続けた島田陽磨(しまだ・ようま)監督。現場の声、悲しげなまなざし、奪われた記憶を記録したドキュメンタリー映画「生きて、生きて、生きろ」。震災当初とは違い、被害に遭われた方々の存在を消し去るつもりはありません、はっきり言いますが、私の記憶の中で薄まっていました。地震、津波、そして原発事故。被災者であるにもかかわらず、福島というだけで偏見、差別に長年晒(さら)されてきた人々は今なお、同じ空の下で生きています。
この映画を通して真実のカケラを突き付けられました。残された人々が、時間が経てから発症してしまう遅発性PTSD。心に受けた傷がかさぶたにすらならないまま、13年の時は流れていきます。現実問題として悲しいことが起きていました。福島では若い人が自ら命を絶ってしまうことや、子どもへの虐待が残念ながら増えているのです。また、原発事故によって避難生活を余儀なくされ、大切な息子さんを自死で失ってしまったお父さん。残されたお父さんは、幾度も自殺未遂を繰り返してしまう。安易に「生かされた、その命を生きて。一緒に頑張ろう」と言いたくなるかもしれませんが、「これ以上何を頑張ればいいの?」と返ってくる問いかけに、アナタは何と答えますか? 生きていることが苦しみでしかない人々に対し、私たちは何と声をかければいいのか。この映画に答えがあります。
そして原発があの場所にできた理由とは? 原発で潤う人々がいる一方で、国から見放され、マスコミにもかき消された人々。もちろん、大きな力と闘いながら現場に耳を傾けるジャーナリストの方々はいます。ですが、果たして真っ当な報道はされているのだろうか? そう、今の問いにアナタはなんと答えているのだろうか。これは日本に限らず、報道の在り方は世界中の問題ではあります。真実の声を拾い上げ、発信することが今のジャーナリズムには必要不可欠ではないのでしょうか。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 27からの転載】
サヘル・ローズ /俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。
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