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世界最初の「コンピューター審判」【平井久志×リアルワールド】

OVO [オーヴォ] / 2024年7月13日 9時0分

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 韓国のプロ野球は今年、守備シフトの制限などさまざまな実験的取り組みをしている。特に注目されているのは、世界で最初に導入した、コンピューターによってストライク、ボールを判定する「自動ボール・ストライク・システム」(Automatic Ball-Strike System=ABS)だ。球場に設置したカメラでボールがストライクゾーンを通過したかどうかを、イヤホンを通じてビープ音で審判に伝えるシステムだ。

 ストライクゾーンは打者の身長の27・64%から56・35%の高さ内(身長180センチの選手なら地面から49・75センチから101・43センチ)、ホームベースの左右2センチ外までの内側となった。各選手の身長は事前にコンピューターに入力されており、打者の打撃フォームなどによるストライクゾーンの変更はない。ABSの判定は両チームのダッグアウトにあるタブレット端末に伝えられる。

 韓国野球委員会(KBO)によると、昨シーズンの審判の正確度は91・3%だったという。KBOでは、競技の透明性、公正性を高めるためにABSを導入したとし、既に2020年から2軍の試合でABSを試験導入してきたが、ABSの正確度は99・8%だったとした。

 ABS導入はおおむね順調だったが、「事件」が起きた。4月14日に大邱で行われたNCダイノス対サムスン・ライオンズ戦の3回裏で、NCの投手が2球目を投げた瞬間、一塁走者が盗塁を試みた。塁審はアウトと判定したが、ビデオ判定でセーフに覆った。そして、この投球はボールと判定された。しかし、投手がさらに3球を投げてフルカウントになった時点で、NC側が2球目のボール判定について抗議した。タブレットPCはストライクの判定をしていたからだ。ストライクなら打者は既にアウトになっている。審判団が協議したが「既に次の投球が行われており、アピールの時効が過ぎた」として抗議を退けた。NC側はタブレットPCへの表示が遅く出て、遅れて抗議するしかなかったと主張した。

 ところが、中継放送で音が拾われているのに気がつかず、審判団が協議で「『音声(ABS)はボールだと認識した』と言え、われわれが逃れる方法はこれしかない」などと、責任をABSに転嫁し、問題を隠蔽(いんぺい)するような発言をしたのが、そのまま流れてしまった。球審はストライクコールを聞き逃していた可能性が高かった。KBOは事態を重視し、審判団を処分すると同時に、4月23日からABSの判定を審判とほぼ同時に確認できる受信機をダッグアウトに提供するとした。

 6月20日までにABSが作動しない事態が2度発生し、一部選手から球場によってストライクゾーンが違うようだといったクレームが出ているが、球界全体としてはABSを受け入れる雰囲気だ。

 野球には一種の「人間ドラマ」のような面もある。審判の判定をめぐる葛藤や、バッテリーが「あの審判は高めをストライクに取ってくれる」といった審判の性向を読み取って配球を考えたりする面が面白かったりするが、そういう人間臭さが消えた。

 また、ストライクゾーンからわずかに外れた投球を、ミットや体の動きで審判にストライクだと判定させる「フレーミング」は捕手の技量の一つだったのだが、コンピューターが判断するために必要なくなった。これも何か寂しい話だ。やる前に弊害を考えるよりも、やってみて弊害があれば直すというスピード感は韓国の国民性のようでもある。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 28からの転載】

平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

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