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おしゃれなデコレーショントラック、街を走る 「業界のイメージアップ目指し採用増に」 三重県の裕進運輸・渡部社長

OVO [オーヴォ] / 2024年7月17日 11時56分

裕進運輸のデコレーショントラック(©裕進運輸)

 三重県の県庁所在地、津市の北部に位置する、約4万人が住む菰野(こもの)町。この町に本社を置く、1965(昭和40)年設立の裕進運輸(渡部裕之社長)はここ約10年間のさまざまな取り組みで「わくわくする会社」に変身した。職場内のカフェ、トレーニングジムの設置をはじめ、約3年前からは自社トラックの荷台側面にデザイン性の高い絵をプリンティングし街を走る。「トラック業界のイメージアップを目指し、若い世代の採用増につなげたい」と意気込む渡部社長に、生産性向上に役立つ、働きやすい職場環境づくりのヒントを聞いた。

▼「もれなく社員が辞めていく会社」

 父親が創業した裕進運輸の2代目の渡部社長は「現在、約80人のドライバーを抱え、若い世代の採用も手応えを感じている」とした上で「以前は、社員がもれなく辞めていく、面白くない会社だった」と正直に振り返った。危機感を覚えた渡部社長は「職場が面白くないから定着率が悪くなったのではないか。もっとわくわくする会社につくり替えなければいけない」と分析した。

 「9年前、社員のみんなに、10年後の理想の会社を考えてください、どんどんアイデアを出してくださいと呼びかけた」という。社員からは「男女別のトイレがほしい」「全員が集まれる会議室がほしい」「社内にカフェやバーベキュースペースがほしい」「トレーニングジムがほしい」「野球部などのクラブ活動がしたい」など、次々と提案があった。

 数多くのアイデアを渡部社長は徐々に具体化した。優先順位が高いと判断した男女別のトイレ設置はすぐに取りかかり、おいしいコーヒーなどが飲める「YUSHINカフェ」を社内にオープン。部活動では、料理部、野球部、軽音部が発足し、補助金を出すなど応援制度を導入した。

 裕進運輸の豊福竜大社長室室長は「異業種から転職した当初は、社長の取り組みは驚きの連続だった」と話す。トレーニングジムも設置したほか、トラックの座席をゲーミングチェアに買い替えたり、マッサージに行く時間が確保できないだろうと、会社に整体師を呼んだりと、ドライバーの腰痛メンテナンスを徹底した。自身もトラックドライバーの経験がある渡部社長が「ドライバーが何に困っているのかを吸収し、次々と実現させた」(豊福社長室長)。

 その結果、約50人だったドライバーは約1.6倍の約80人に増え、辞めていく人は減ったという。

 人手不足が叫ばれる中、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用する前に、社員と真正面から向き合い、「ホンネ」を丁寧に聞き、具体化していく――働きやすい職場環境につくり替えた実践例だといえる。言い換えれば、現場の一人一人の働きやすさを追求することで、結果として、職場の生産性向上につながっているだろう。

▼「バーベル持ち上げる社長」

 ただ、渡部社長の歩みは止まらない。約3年前に、デコレーショントラックを走らせることにした。地域に貢献したい、若い世代の応募増につなげたい、そしてトラック業界全体のイメージアップを図りたい、という願いを込めて、以前から付き合いのあった、アートなどを活用し企業のブランディング・PRを手がける「crack(クラック)」の大野陣社長に相談し、できあがった。

 裕進運輸の渡部社長は作品について「うちのトラックの絵を見ただけで、会社のイメージがわき、しかも、ちょっと会社を訪ねてみたいと感じてもらえるようにお願いした」という。さらに絵には「未来の裕進運輸を描いてもらうことで、地域の人がわくわくするとともに、トラック業界そのものが楽しく感じてもらえるような仕掛けも表現してもらった」(豊福社長室長)という。

 作品は、中央部に将来の裕進運輸の社屋が描かれ、渡部社長を含め、作成時に在籍していた約60人の社員が登場している。さながら、絵本の「ウォーリーをさがせ」のように、それぞれの社員が絵の中のどこかに描かれているという。大野社長は、「製作前に一人一人の社員の方へのヒアリングを丁寧に行い、どんな趣味をお持ちか、どんなことが好きなのかなどを聴いた」と語る。

 各社員への取材を反映させ、ゴルフ好きな社員、エレキギターを演奏している社員、ハイキングが好きな社員らを、一人一人描いている。絵の右上にひときわ大きくいる渡部社長は、「BIG BODY,BIG HEART」と書かれた黄色のベルトを巻き、重そうなバーベルを持ち上げている。

 この作品はトラックのデコレーションだけではなく、名刺、封筒、フード付きのトレーナー、携帯電話のカバーなどにも展開され、会社の統一したイメージをつくり上げている。

 豊福社長室長は「今の若い世代は、さまざまな情報に囲まれ、第一印象がとても大切だといわれている。運輸業界らしくないアート作品をきっかけに、なんだか楽しそうな会社、業界だと感じてもらいたい」と強調する。

 crackの大野社長は自社の事業目的について「若い世代に選ばれる企業になっていただく」をあげる。そのための対応策としては、①若い人には2秒以内に興味を持ってもらうようにする②そのためには、解釈が一人一人違うアート作品でひきつける③作品に触れることで、なんだろうと疑問がわき、興味を持ってもらえる――などを提案している。「(クライアント様への)興味までの導火線がまさにアートではないか」と指摘している。

 裕進運輸の渡部社長に、今後、どのような会社を目指すのかと尋ねると「社員のみんなには、人に好かれる人になってくださいとお願いしている。人に好かれるドライバーが多くなれば、自然と仕事も入ってくるからです。そして、会社も大きくなっていくはずです。ですから、人に好かれる練習をしてくださいと言っています」と答えた。

 アート作品も活用した裕進運輸の一連の取り組みは、経営者が先頭に立ち、社員の働きやすさを築き上げていく→その結果、職場の生産性が向上する→会社が成長するという好循環を生みだしているようだ。

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