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21世紀のモーツァルト 【コラム 音楽の森 柴田克彦】

OVO [オーヴォ] / 2024年7月21日 8時30分

イメージ(ブルガーテン公園のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト像)

 モーツァルトの注目盤の続編。前回はアンヌ・ケフェレックがソロを弾いたピアノ協奏曲をご紹介したが、今度は交響曲を中心としたCDを取り上げたい。マクシム・エメリャニチェフ指揮/イル・ポモ・ドーロが、交響曲第29番、第40番とオーボエ協奏曲を演奏したアルバムである。

 1988年ロシア生まれのエメリャニチェフは、おもに才気煥発(かんぱつ)な鍵盤楽器奏者として知られ、指揮者としてはバロック音楽を主軸に活動している。イル・ポモ・ドーロは、2012年に創設されたイタリアのピリオド楽器(作曲当時の古楽器)オーケストラ。エメリャニチェフは16年から同楽団の首席指揮者を務め、近年モーツァルトのプロジェクトを開始した。本盤は23年2月に録音されたその第2弾である。

 ここでは、生気に富んだエメリャニチェフの持ち味と、ストレートで歯切れ良いピリオド楽器の特徴が、よき融合を果たした、はつらつとして引き締まった快演が展開されている。

 交響曲第29番は、おなじみの第35番以降の交響曲以外では、第25番と共に演奏機会の多い作品。短調で厳しい第25番と好対照の、典雅で明朗な作品との見方が一般的だ。


 だがここで耳にするのは、キビキビと突き進む活発な音楽である。この曲は、成熟期の所産ではなく、18歳時に書かれた青年期の作品だ。本盤では、典雅な趣が特に強調されがちな第1楽章も、若き天才の心意気がはじけるように前進していく。第2楽章は緩徐楽章(遅い楽章)でありながら、常にリズムが意識されており、動的な中で歌が流れていく。第3楽章も同様で、第4楽章もエネルギー十分に疾走する。これは同曲のイメージを刷新する演奏と言っていい。

 交響曲の間に置かれたオーボエ協奏曲では、名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席奏者イワン・ポディヨーモフが、古いバロック・オーボエでソロを吹いている。ここも、明確に刻まれるバックのリズムが、ひなびた音色と伸びやかにして鮮やかなソロを巧みに盛り立てている。

 交響曲第40番は、悲哀に満ちたロマンチックなイメージのある人気作。しかし有名な第1楽章の冒頭から快速テンポで勢いよく進んでいく。第2楽章も、やはりリズムが強調される中で、各々の動きが明滅し、対話する。第3、4楽章もいつになく生き生きと進行。これまでの諸演に比べて、第2楽章以下が全く弛緩しない点も特筆される。

 これは、月並みな言葉で言えば“21世紀のモーツァルト”であり、既成概念に固執しないアプローチで“早世したモーツァルト”の若々しくフレッシュな魅力を再認識させてくれる、得難いディスクといえるだろう。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 29からの転載】

柴田 克彦(しばた・かつひこ)/音楽ライター、評論家。雑誌、コンサート・プログラム、CDブックレットなどへの寄稿のほか、講演や講座も受け持つ。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる!吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。

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