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銀座で消えた1万円 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

OVO [オーヴォ] / 2024年8月3日 10時0分

(C)2024 Nameko Shinsan

 休日の夕方、雨上がりの銀座を開放的な気分で歩いていたら、インド人のおじさんに声をかけられました。「You have a lucky face」。おじさんはさらに「あなたはとても良いカルマの持ち主だ」と言ってきて、ターバンを巻いた雰囲気があるインド人にそんなことを言われたらつい嬉(うれ)しくなって、立ち止まって話を聞きたくなりました。

 シルディ・サイババという聖人のカードを見せられて、信頼度がアップ。おじさんは私と同行者に、英語で好きな数字(1から5の中で)や好きな色、好きな花などを聞いてきました。その前に小さく折り畳んだ紙を渡してきて、手に握るように言われました。私が「5、Rose」と答え、もう1人が「3、Blue」などと答えてからその紙を開くと「3 Rose Blue」など、2人の答えを合わせたようなことが既に書かれていたのです。「あなたは占い師ですか?」と聞くと、おじさんはうなずきました。「人生の願いは何?」と聞かれたので「Health」と答えると、おじさんは何やら呪文を唱え出しました。そして、この願いは叶(かな)う、みたいなことを言われたので、プラシーボ効果も手伝って元気になった感が。

 ここまではちょっとした不思議な体験で良かったのですが、おじさんは手帳を開くと「この子たちのために寄付をしてほしい」と子どもたちの写真を見せてきました。これもご縁なので、とりあえず千円渡そうとすると「Big one! Big one!」と手帳に挟んだ1万円札を指さし、5千円札を出そうとしても首を横に振るばかり。さっき呪文を唱えられたので断ったら呪われるかもしれない…と思い、1万円を払ってしまいました。わずか数分間の占いで1万円。今まで経験したどのスピリチュアル系セミナーより高額です。

 そのあと検索したら、「ヨギ・シン」と呼ばれるインド人の占い師をなりわいとする方々がいて、世界各国で、確認できる限り100年以上も同じ手口でお金を巻き上げているそうです。一番多くの人が答える「3 Rose Blue」という答えをあらかじめ紙に書いていたり、途中で注意をそらして紙をすり替えたり、といった手品で相手に信じ込ませているとか。

 詐欺のニュースが横行している世知辛い世の中。詐欺とまではいかないですが、グレーゾーンの占いで1万円が一瞬でなくなってしまいました。インド人の一派のタフな処世術を学んだ勉強代ということに・・・。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.31からの転載】


辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「無心セラピー」(双葉社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。

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