次代のクリエーターに年間72万円を助成 上月財団による支援は延べ700人に
OVO [オーヴォ] / 2024年8月6日 10時10分
上月財団(東京都港区)は7月30日、次代を担う漫画家らのクリエーターを発掘・支援する「クリエイター育成事業」の2024年度助成金受給者30人を決定した。日ごろの創作活動を応援するため、8月から来年7月まで毎月6万円、計72万円を支給する。
この日は、助成希望の応募者137人のうち1次選考を通過した40人が、東京都内で行われた「実技審査」と「面接」の最終選考に臨んだ。審査したのは、松谷孝征・手塚プロダクション社長や漫画家・吉住渉氏、出羽昌司・コナミデジタルエンタテインメント専務執行役員、東尾公彦・上月財団専務理事らで構成する「選考委員会」の委員。
実技審査は、当日発表の複数のテーマの中から任意のテーマを選び、そのテーマを表現する絵を制限時間内に制作するもので、思案を形にする力やひらめきなどクリエーターに必須の能力を吟味した。選考委員会委員が見守る審査会場は、真剣な表情で制作に励むクリエーターの卵たちの創作の熱気に包まれ、その熱は制限時間終了まで冷めることなく続いた。
受給者に選ばれた田村優さん(26)は「助成金の応募資格は15~25歳ごろなので、今回の応募(応募時25歳)は最初で最後のチャンスだった。現在専門学校で学び、コンピューターゲームなどの完成イメ―ジを絵にしてゲーム開発メンバーに提示するコンセプトアーティストを目指している。助成対象に選んでもらい、とてもうれしく、コンセプトアーティストに近づく大きな後押しになる」と話した。
今回で4年連続4回目の受給となる京都市立芸術大4年生で、着物の新たな魅力を発信する染色作家を目指す新苗千怜(しんなえ・ちさと)さん(21)は「助成金は作品の制作費に充てている。制作で使う布やはけなどの価格は近年高騰しており、助成がなければ、満足いく制作はできなかったかもしれない。助成金は染色作家を目指す上で大きな助けになる」と語った。
受給者一人一人に受給「認定書」を手渡した選考委員会委員長の東尾専務理事は「助成は今年で21回目を迎える。いま映画が上映中の『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の漫画を描く藤村緋二(あけじ)先生をはじめ、これまでに助成金を受けた方の多くが現在トップクリエーターとして活躍している。皆さんも引き続き研さんを重ねて夢や目標を実現してください」とエールを送った。
講評を述べた選考委員会委員の松谷・手塚プロダクション社長は「選考はとても大変で、心を痛めながら40人を30人に絞った。今回選ばれなくても落胆する必要は全くない。差異はほとんどなく今後も頑張ってほしい。来年もぜひ応募してください」と今回受給者に選ばれなかった10人を励ました。
また“漫画の神様”手塚治虫氏が生前、赤塚不二夫氏ら後輩漫画家に「漫画家として大成するなら、漫画だけに学ぶのではなく、良い映画・小説・音楽にたくさん触れなさい」と常日ごろ伝えていた至言も紹介し、漫画以外の芸術に触れる大切さを指摘した。
来賓として認定書授与式に臨席した文化庁芸術文化調査官・椎名ゆかり氏は祝辞の中で「自分を信じてこれからも創作活動を続けてください。皆さんの中から未来の名作を生み出すクリエーターが誕生することを楽しみにしている。文化庁では海外での活躍を目指すクリエーターも支援しており、海外への飛躍を目指す方はこの支援制度を活用してほしい」と呼び掛けた。
最終選考終了後には、2018年、20年、21年の3回助成金を受け取った、人気漫画『白山と三田さん』の作者として知られる、漫画家・くさかべゆうへい氏(28)を招いたトークイベントも開かれた。実技審査と面接を終えて緊張が解けた40人は、漫画のキャラクターづくりや読者にストーリーを分かりやすく伝えるためのこつなどを説明するくさかべ氏の話に耳を傾けた。
くさかべ氏は「助成金に応募した当時は、漫画家のアシスタントの仕事で生活費を稼いでいた。助成金を得た20年、21年は新型コロナ禍の時期だったので、当時は1カ所に集まり作業していたアシスタントの仕事が密を避けるために減少し、収入が減る月があった。もし、この時期に助成金をもらえていなかったら、良い漫画を描くため、日ごろからたくさん読んでいた漫画の購入や映画館に足を運んで好きな映画を見る機会が減ったかもしれない」と語り、助成金を活用して漫画家としての感性を磨いていたアシスタント時代を振り返った。
また漫画の画面構成やコマ割りの仕方についての質問を受けた質疑応答では「キャラクターをアップで大きく描くコマばかりだと、キャラクターがどんな場所にいるのか、読者が分からなくなるので、キャラクターがいまどこにいるのか分かるように、キャラクターを小さく、背景を大きく描く引きのコマを各ページに入れるとよい」と具体的にアドバイスした。
中学生から漫画家になる夢を諦めたことが一度もなく、漫画の専門学校生、漫画家のアシスタント時代を経て夢をつかんだ、くさかべ氏は取材に「しんどくても結果が出なくても、好きな漫画をとにかく描き続けた。漫画を描き続けていればチャンスはやってくる。モチベーションが低下しても漫画を描く手だけはいつも動かしていた。ちょっとでもいいから毎日描き続けることが大切だ」と述べた。
上月財団は、コナミグループ会長の上月景正氏が1982年に創設。創設時の名称は「上月教育財団」で2013年に改称した。財団の運営資金はコナミグループの株式配当金を充てている。
漫画家やデジタルアーティスト、イラストレーターらクリエーターを目指す15~25歳ぐらいの若者を支援する「クリエイター育成事業」は04年度に開始。全国の応募者の中から、将来有望なクリエーターを毎年選び助成している。事業開始以来の受給者は、今回でちょうど延べ700人に達した。最近の物価高騰などを踏まえ、今回から助成額を毎月1万円増やし、年間で12万円増額した。
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