凍りついた地下鉄車内 【蝶花楼桃花 コラムNEWS箸休め】

　私が、落語家の最高位の「真打ち」に昇進したのが、2022年春。
　「蝶花楼桃花」に改名してから2年がたった。
　桃花師匠と呼んでいただくのにも、生意気ながら少し慣れてきた。
　桃花という名前から、桃の贈り物をたくさん頂戴するようになった。
　とてもありがたい! 桃は子どもの頃からの大好物。

　さらにピンク色が大好きなので、ビジュアルもめちゃくちゃ好み♡ この間教えてもらった裏技ですが・・・。実を食べた後の種と皮を一晩ミネラルウオーターに漬けておくと、なんともフレッシュな桃の天然水になるのです。

　水が甘くなるのではなく、果実の風味がしっかりと染み出して、鼻に抜ける桃の香りが非常にリフレッシングな飲み物に！　果物から自然に抽出された味わいが、まるでオシャレな人になった気分にさせてくれます。お試しあれ！　あとは、食べ物でなく桃のモチーフのグッズなどもたくさん頂戴致します。

　この間いただいたのは桃のピアス。ガラスでできている桃がプラーンと垂れ下がって、耳元揺れるかわいいピアスだ。ルンルンで着けて仕事に向かう。

　空いている地下鉄の中で座ってメールを返していたら、隣におばあちゃんとお孫さんらしき男の子の2人組が座った。　

　私のピアスを見て、私に話しかけるでもない2人の会話が聞こえてくる。「あら、隣のお姉さんのイヤリングかわいいわね。桃かしらね？　林檎（りんご）かしらね?　あぁ、ピンク色だからやっぱり桃ね」「違うよ、おばあちゃん」。私は心の中で「え？ 桃なんだけど、林檎に見えるのかなぁ」と思っていると「え？ いやいや。ピンク色だし、形が林檎じゃないから、これ桃よ」とおばあちゃんが否定した。それを聞いた男の子が「違うよ、おばあちゃん。お姉さんじゃなくて、おばさんだよ」と。

　静かな車内に響き渡る、澄んだ声。空いた平日昼の地下鉄内は、ピーンと気まずい雰囲気が流れた。
　皆さま、どうですか？　桃か林檎かを言っていたのではなかったのです！ ババアか否かを彼は言いたかったんです。私はメールを打つふりをして顔を上げられず、乗り換え駅でそそくさと電車を降りました。
　お気に入りのピアスだから、意地でも着けちゃうけど、この出来事は桃の天然水に流します!

【KyodoWeekly（株式会社共同通信社発行）No. 33 & 34 からの転載】

ちょうかろう・ももか　東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入り。7月1日から池袋演芸場で31日間連続ネタおろし独演会「桃花三十一夜」を開催。