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女性たちが捨て身の行動を取る時 【舟越美夏×リアルワールド】

OVO [オーヴォ] / 2024年8月31日 10時38分

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 ある問い合わせがきっかけで、西アフリカの国、リベリアの女性たちが行った「祈りと歌」による非暴力運動を思い出した。約20年前、凄惨(せいさん)な内戦を終わらせようと首都モンロビアで始まった活動は、当初は地元男性からもメディアからも無視された。だが炎天下で祈る女性たちの数が2500人以上に膨らむと、独裁者テーラー大統領も女性たちと面会し、その声に耳を傾けた。

 政権と反政府勢力が顔を合わせた和平交渉会場。ここでリーダーのリーマ・ボウイーさんが取った行動が印象的だ。金と権力を優先して交渉を進めない男性たちに絶望し、男性たちの前で肌をさらそうとしたのだ。アフリカのこの地方では、女性が裸になることは対象への「呪い」を意味する。男性の一部が逃げ出し、リーマさんは制止されたが、こう着状態だった交渉はこの後、動き始めた。リーマさんは、内戦終結に道筋をつけた女性運動を率いたとして2011年、ノーベル平和賞を受賞した。

 愛する者を守る時、女性たちは捨て身の行動を取り、時には歴史を変える。リーマさんたちを取材して、そう感じ入った。もっとも女性たちの行動に感銘を受けたのはリベリアだけではない。

 ロシア連邦チェチェン共和国。激しい内戦が起きた時、チェチェン人の母親たちは、ロシア軍の戦車や兵士の前に立ちはだかった。銃に怯(ひる)まない母親たちに、兵士たちは戸惑い、時には要求をのんだという。

 ミャンマーの女性たちの例は最近、知った。国連が7月に発表した文書には、強大な国軍の武力と対峙(たいじ)する女性たちの姿が報告されている。

 3年前の軍事クーデター後、全国に広がった抵抗運動の最前線に立ったのは「若い世代の女性とLGBT」。「市民的不服従運動」参加者の8割ほどが女性だった。

 最大都市ヤンゴンで、地区に侵入しようとする国軍を女性たちは大胆な手法で阻止した。国軍は男性優位の「家父長制」を土台とし、兵士たちは「男性の特別な力」を信じているが、これを逆手に取ったのだ。

 通りにヒモを張り、女性の民族衣装「タメイン」や下着、生理用品を吊(つ)るした。こうしたものの下を通ると男性は特別な力を失う、という迷信があり、実際に大半の兵士がタメインバリケードの通過を拒否した。国際女性デーには、全国でタメインが吊るされたという。

 一方で報告書は、抵抗勢力の中にも「家父長制が根強い」と指摘している。

 国軍に虐殺される市民が増えたことで、多数の女性が男性と共に戦闘訓練に挑み、民主派などの武装組織に入隊した。しかし「女性は弱くて臆病」といったステレオタイプの男性たちに阻まれ、料理担当を押し付けられたり、性的嫌がらせを受けたりした女性も多い。そのためか、女性だけの武装組織も生まれた。

 ここまで書いて気付いた。男性優位が色濃い社会ほど、究極の場で女性たちは捨て身の行動を取る傾向があると言えないか。だとすれば、日本でも、だ。予想外の手法で女性たちが日本社会の転換点をつくる時が来るかもしれない。

舟越美夏(ふなこし・みか)/1989年上智大学ロシア語学科卒。元共同通信社記者。アジアや旧ソ連、アフリカ、中東などを舞台に、紛争の犠牲者のほか、加害者や傍観者にも焦点を当てた記事を書いている。

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