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比人金メダリストの「憂鬱」 【水谷竹秀✕リアルワールド】

OVO [オーヴォ] / 2024年9月7日 10時0分

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 金メダルは人を幸せにするのかー。パリ・オリンピックの体操種目別床運動、跳馬で2冠を達成したフィリピンのカルロス・エドリエル・ユーロ選手(24)が8月13日夜、帰国した。飛行機のタラップを降り、レッドカーペットを歩く勇姿が、国旗を手にした子どもや関係者たちに出迎えられた。

 オリンピックにおけるフィリピン人選手の金メダルは、東京オリンピック女子重量挙げに続いて2人目だ。報道陣に囲まれたユーロは、興奮冷めやらぬ様子で語った。

 「これは全員の勝利だ!」

 大統領府で開かれた歓迎会では、ユーロを含む選手団がマルコス大統領から祝福された。

 「あなたがたはわが国の地位を高めた。あなたがたが(オリンピックで)見せた演技は、応援していた私たちに大きな意味をもたらした」

 マニラ出身のユーロが体操を始めたのは7歳の頃。すぐに才能を開花させ、日本の釘宮宗大(くぎみや・むねひろ)コーチとの出会いを機に2016年に来日した。帝京大などでトレーニングを積み、19年の世界選手権の種目別床運動で優勝、21年には跳馬でも世界の頂点に立った。そして今回、パリで改めてその実力が証明された。

 金メダリストのユーロには政府から2千万ペソ(約5200万円)、下院からは1400万ペソ(約3600万円)、出身地のマニラ市からは200万ペソ(約520万円)がそれぞれ供与される。このほか民間企業からはマニラの高級コンドミニアム、一生分のランチとディナー、国内線と国際線の無料チケットなども贈呈される。

 祝福ムードに沸き立つ裏で、ユーロと母の間では確執が深まっていた。母がユーロの銀行口座から無断で現金を引き出したことが発覚したためだ。さらにユーロが交際している女性にも難癖をつけ、ラジオ番組で「私の息子を搾取している」などと発言した。

 ユーロはメダル獲得後、動画共有アプリ「TikTok」でその詳細を打ち明けた。

 「世界選手権優勝で(政府から)7万ペソの報奨金があったことを母は知らせてくれなかった。だから私は受け取っていない。さらに母は私の銀行口座にアクセスし、体操選手としての月々の手当も引き出していた」

 この動画でSNSが炎上。母は急きょ、謝罪会見を開き、涙ながらに自身の行動を釈明した。

 「母として、息子が将来、経済的な問題を抱えるのではないかと心配した。だから私の名前で(息子の)お金を投資に回した。息子よ、申し訳なかった。あなたに許しを乞いたい。私は完璧な母ではない」

 アフリカ南部ボツワナの陸上選手、レツィレ・テボゴ選手(21)は男子200メートルで金メダルを獲得した。その快挙を讃(たた)えた政府はメダル獲得の翌日を半休日に決定し、国民に金銭供与を求めて反発が相次いだ。

 金メダルは「重い」といわれる。だがその重さは、良くも悪くも選手の人生を変えてしまうのだ。(敬称略)

水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

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