物流を起点に事業改革を探る 官民のキーパーソンが議論 2024年問題克服で、「物流フォーラム」開催
OVO [オーヴォ] / 2024年11月15日 9時20分
共同通信グループの株式会社共同通信社と矢野経済研究所は「物流の2024年問題」を克服し、輸送の効率化を事業改革につなげる「物流フォーラム 2030年の物流―未来をつくる協力と革新―」を10月30日、共同通信本社で開いた。
物流産業を巡る官民のキーパーソンが講演し、物流施設などへの設備投資や、荷主企業の行動変容が欠かせないことを指摘した。その後のパネル討議では、在庫・輸送情報の共有化、サプライチェーン(供給網)全体の物流を管理できる高度人材の育成などの課題が浮かび上がった。
▽「物流統括責任者」を配置
フォーラムには物流関連企業やコンサルタント、研究者らが集い、会場で63人、オンラインで280人が参加した。
講師として、国土交通省物流政策課長の紺野博行氏、SGホールディングス執行役員兼経営企画部長の吉田貴行氏、三井倉庫会長の久保高伸氏、流通経済大学の矢野裕児教授、味の素冷凍食品の飯島賢次執行役員ロジスティクス部長、矢野経済研究所の田中里奈主任研究員、熊谷悠紀研究員が登壇した。
冒頭の基調講演で紺野課長は、トラック運転手に積み降ろし作業まで担わせるような商慣行の見直しを急ぐべきだ、と強調。荷待ち時間の短縮や積載率向上などを目指す中長期計画の策定を大手企業に求め、経営陣に「物流統括責任者」を置くよう促していると説明した。
続いて登壇した矢野教授は、トラック運転手の高齢化は深刻で、「これから一気に人手不足が深刻化する恐れがある」と警告した。「これまで勘に頼ってきた作業を定量的に分析できるようにして、企業間で連携する必要がある」とし、情報化やデジタル化を加速するよう訴えた。
これまでは顧客の需要に物流企業が応えてきたが、今後は物流サービスの供給側の能力に需要を合わせていく発想が必要になるとも指摘した。
▽ムリ、ムダ、ムラを平準化
物流の最前線を担うSGホールディングスの吉田氏は、費用や業務をIT技術によって可視化することの重要性を強調した。「宅配便のコストを1個単位で管理している」と語った。宅配便だけではなく、大型物資や重量物など荷主の要望に応じたオーダーメード型のサービスを強みにしているという。
車両部分と荷台を分離できる「スワップボディ車」の導入をドライバーの労働時間短縮につなげた。東京都江東区に大規模物流センター「Xフロンティア」を建設したのを皮切りに、2026年には関西でも中継センターを稼働させるという。自動搬送ロボットなどの先端機器を利用し、一層の省人化につなげる考えを示した。手書きだった配送伝票のフルデジタル化を実現し、最短の配送ルートを見つけやすくし、荷物の積み込みを効率化した取り組みを報告した。
三井倉庫会長の久保氏は「輸送頻度を増やしていけば在庫は削減できる」と主張した。「組み立て作業などの仕事量のムラを抑えることで、無駄な設備や人員を減らせる。在庫量に一定の基準を設け、その変動を見れば生産ラインなどに起きている問題点を発見しやすくなる」と説明。「平準化と異常検知ができれば、生産効率は高まる」と、物流を起点にした改革を求めた。
国内に6工場を持つ、味の素冷凍食品からは飯島賢次執行役員が参加。船舶、鉄道、トラックを組み合わせたモーダルシフトを中長距離で導入している。関東から仙台まで400キロの鉄道輸送によって二酸化炭素(Co2)の排出量を30%削減したという。
飯島氏は「商品数が多く温度管理が必要なため、ばら積みが多かったが、パレット輸送を全面的に導入し、積み込み時間を減らすことができた」と語った。冷凍食品5社による共同物流も、北東北、北陸、山陰、南四国、南九州で拡大を目指している。
▽荷主の意識に変化も
講演に続き、一般社団法人共同通信社の永井利治論説委員長をモデレーターにして、「物流危機が生む変革と未来」をテーマにパネルディスカッションを開催。今年4月から実施されているトラック運転手の労働時間短縮の影響を点検し、紺野課長は「いまのところ大きな混乱は生じていないが、年末の繁忙期に問題が起きないか見守りたい」と述べ、企業ごとに策定している物流効率化のための自主行動計画の着実な実行を促した。
SGホールディングスの吉田執行役員は、運転手をはじめ現場で作業する人たちが働きやすい職場環境を確保することを課題に挙げた。「荷主企業の意識も変わってきた」と述べ、効率化にチャレンジする事例が増えているとの見方を示した。具体例として、パン製造会社4社が共同輸送によってトラックの積載率を80%に引き上げたことなどを紹介した。
三井倉庫の久保会長は、物流の専門人材育成は①サプライチェーン全体の物流管理②効率化のための技術開発③台車サイズの工夫やパレット化など現場での実践-という3段階に分けて考えるべきだという考えを示した。「物流関連の企業だけでは頑張りきれない」とし、荷主企業や消費者ら顧客側との連携をもっと深めることが、物流事業の改革につながると語った。
▽成功事例をヨコに展開
流通経済大の矢野教授は「物流の専門人材を企業内できちんと位置付けてほしい。物流を研究する学部は非常に少なく、米国や中国に比べ見劣りする」と述べた。
討議の中では、「自分たちのやり方を変えたくないという気持ちだと物流の共同化は進まない」「モーダルシフトは長距離中心だったが、中距離でも増えている」「洗剤、食品などで見られる成功事例のノウハウを紹介し、他の業種でもヨコに展開できるようにしたい」などの助言やアイデアが次々に出された。
人口減少が進む地域では、物流をライフラインとして機能させねばならないという意見も出た。電子商取引による購買が過疎地で増えていくと予想し、「いずれドローンを使った配送が必要になる」との指摘もあった。
矢野経済研究所の田中主任研究員は、講演や討議の中で、2000年に約97万人いたトラック運転手は30年には59万人に減少する見通しを示し、「トラック輸送量は人口減少と強い相関関係があり、徐々に減っていく」と説明した。
その一方で物流分野のロボティクスは急ピッチで進んでおり、23年度に4兆円だった市場規模は25年度には6兆円に拡大すると予測した。
同時に田中主任研究員は「これまでの人海戦術は転換を迫られる。ロボットを効果的に利用するには作業やパレットの標準化が欠かせない」と強調。共同配送を拡大するには「業種や業界の枠にとらわれず、輸送データを共有化することが鍵になる」との見方も示し、商品コードの統一や、サプライチェーン全体の作業の可視化を訴えた。
紺野課長は「物流を変えていく先進事例を特に支援したい」と強調した。物流企業と荷主、消費者の協力による改革を呼びかけ、この日の全体の討議を締めくくった。
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