最高権力から遠かった石破総理 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】
OVO [オーヴォ] / 2025年1月10日 10時4分
昨年と違い、今年は穏やかな年明けで始まったものの、石破政権浮揚の兆しは一向に見られない。だが、都議選や参院選など、今年は政治日程が目白押しだ。1月20日にトランプ氏が米国大統領に正式に返り咲けば、さらなる難題が突きつけられる可能性もある。いくら酒豪の石破茂首相でも、さすがにこの正月はおとそ気分さえ味わえなかっただろう。大好きなカニ鍋も食べられなかったようだ。
石破政権の支持率が低水準で推移している理由はいくつもある。自民党そのものへの逆風も影響しているし、石破首相の政策が期待されていないこともある。先月の共同通信社の世論調査では、石破政権を「支持しない」理由は「経済政策に期待が持てない」(26.2%)がトップを占めたが、2位は僅差で「首相にふさわしいとは思えない」(23.7%)であった。
箸の持ち方やおにぎりのほおばり方、握手の仕方などもあるかもしれないが、“首相不適格”と見なされているのは「影響を十分に考えない発言」(野党中堅)も大きい。そしてそれは「長きにわたって政権中枢に近づけず、最高権力のすごさや怖さを肌で知らないため」(閣僚経験者)だと考えられる。麻生太郎元首相のような“純粋な失言”の類でない分、余計に厄介なのだ。
例えば弱音の吐露だ。一国のリーダーたる者、決して軽々に口にしてはならないはずだが、石破首相はテレビ番組やあいさつで「大臣の5倍、10倍しんどい」「褒められることはない」などと愚痴った。努力を評価してほしい思いも見え隠れするし、もともとの性格もあるのだろうが、弱音を吐けば周囲も、そして国民も白ける。思えば、安倍晋三元首相は持病が悪化しても、退陣表明の直前まで笑顔をつくっていた。
衆参同日選挙を示唆する発言もしかりだ。国民民主党の榛葉賀津也幹事長などは「言葉遊びが激しい」と憤る。可能性を指摘したにすぎないとはいえ、歴代の首相の多くは衆院の解散については十分すぎるほど慎重に言葉を選んだ。先輩や長老議員から「“宝刀”は決して振り回したり、見せびらかしたりしてはならない」と教えられてきたのだ。
わずか数日後に打ち消したものの、元旦のラジオ番組では野党との大連立の可能性も口にした。本人は“評論家的な正論”を唱えているつもりかもしれないが、裏付けのない発言は間違いなく首相の信頼度を低下させる。「権力を間近で見てこれば、身をもってタブーがわかる」(前出・閣僚経験者)のだが、残念ながら石破首相にはそうした機会はなかったようだ。こじつけの類になるかもしれないが、伊勢参拝に際して一礼を欠いた所作からも、これまで最高権力と距離があったことがわかる。
昨年10月の衆院選で大敗を喫し、石破政権は少数与党となった。もっとも、国民、維新、立憲の各党と巧みに付き合う森山裕幹事長の野党対策が功を奏し、今や自民党が国会運営の主導権を握っている感さえある。「あの芸当は森山さんにしかできない」(自民国対関係者)といわれるが、もしも石破首相が何かしらの勘違いをし、誤った余裕や安心感で言葉遊びをしたり、軽々な発言を繰り返したりすれば、もともと脆弱な政権は瞬く間に瓦解する。
本人に問題や改善点があるのであれば、本来は側近や周辺に諫言・苦言の役割が期待される。多くの歴代首相にはそうした側近がいた。だが、「石破さんには虎の威を借りて周囲に威勢を張る側近はいても、長けたバランス感覚で諫言する側近などは見当たらないし、諭してくれるような先輩・同僚議員もいない。それに、そもそも石破さんは諫言に反発するタイプ」(全国紙デスク)だという。これでは万事休すかもしれない。
再来週、通常国会が召集される。企業団体献金の見直しや「103万円の壁」の大幅引き上げ、教育費無償化などに道筋がつくかどうか、そして2025年度の予算が無難に成立するかどうかが決まる重要な国会だ。各党の“戦いぶり”は夏の都議選や参院選の勝敗にも影響をもたらす。ならばこそ、石破首相は“雄弁”を誇るのではなく、「沈黙は金」のことわざ通り、まずは余計なことを口走らないようにすべきだろう。今も、そしてこれからも石破政権が薄氷の上に成り立っていることに変わりはないのだから。
【筆者略歴】
本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。
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