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戒厳令に「新しいデモ文化」 【平井久志×リアルワールド】

OVO [オーヴォ] / 2025年1月18日 12時9分

2016年11月ソウルでの集会の様子(ゲッティイメージズ)

 韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が昨年12月3日、突然「非常戒厳」を宣言した。軍を動員して反対派を排除する事実上の「セルフクーデター」だったが、国会は2時間半後に非常戒厳解除を決議し、14日には尹大統領の弾劾訴追案を可決した。罷免の可否は憲法裁判所の判断に委ねられたが、弾劾を求める市民の集会やデモが続いている。世論調査では韓国国民の75%が弾劾に賛成している。興味深いのは今回、新しい「デモ文化」が生まれつつあることだ。

 弾劾訴追案が可決された後にソウルを訪れた。20日には弾劾賛成派、反対派が大規模な集会やデモを行った。

 弾劾を求める集会の雰囲気はこれまでとはかなり異なっていた。参加者は20代の女性の多さが目立った。2016年に朴槿惠(パク・クネ)大統領の弾劾を求めた時は、人々は「ロウソク」を掲げた。やがて実際のロウソクよりも便利な乾電池を使った「ロウソク灯」が登場した。それが、今回は韓流スターたちを応援するためのカラフルな「応援棒」(ペンライト)が主流になった。

 歌われる歌も様変わりした。金敏基(キム・ミンギ)さんの「朝露」のような抵抗歌が姿を消し、少女時代の「Into The New World(また出会った世界)」がよく歌われていた。この歌は07年に作られたが、16年に梨花女子大で社会人を対象にした生涯学習単科大学の設立計画が発表された時、在学生や卒業生が座り込み闘争をする中で歌われ注目された。これが交流サイト(SNS)などで拡散し、当時、少女時代のユリはインタビューで「映像を何度も見て胸が熱くなり泣いたりもした」と共感を示した。彼女は弾劾訴追案可決前日の12月13日に集会に向かうファンに食べ物を差し入れ「『また出会った世界』しっかり歌って」と訴えた。

 この歌の歌詞にある「この世界で繰り返される悲しみにもうさようなら」といった内容が人々の心を捉えたようだ。1番の歌詞「また出会った私の世界」が、2番では「また出会った私たちの」と変わり、「私」が「私たち」に広がるつながりにも意味を見いだす声もある。

 集会に参加できない市民や芸能人が、厳寒の中で参加する人々のために集会場近くの飲食店などに「先払い」して、無料で温かい食べ物や飲み物を提供する「先払い」連帯運動も生まれた。

 筆者の知人は「弾劾を求める中心になっている若い世代は2014年の高校生ら300人以上が死亡・不明になったセウォル号事件や、2022年の梨泰院(イテウォン)の雑踏で150人以上の若者が犠牲になった事故を経験した世代。こうした事件に真剣な対応をしなかった政府への怒りが下敷きにある」と述べた。

 一方で、極端な保守陣営側では、SNSなどで弾劾を支持する芸能人などのリストを作り米中央情報局(CIA)に通報しようとか、そうした芸能人が宣伝に出ている企業の不買運動を呼び掛ける動きが出ている。

 ソウル市は、米動画配信大手ネットフリックスのドラマ「イカゲーム」シーズン2とコラボし、光化門(クァンファムン)広場にイカゲームのキャラクター「ヨンヒ」の造形物を設置した。今回の弾劾騒動とは無関係な企画だが、韓国では今、保守と進歩が生存をかけた「イカゲーム」を繰り広げているようにも見えた。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 2からの転載】

平井久司(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

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