高知の山あいに伝わる「いざなぎ流」静かに注目 伝統文化の継承に保存会が活動、宿泊施設も
OVO [オーヴォ] / 2025年2月6日 12時1分
高知県といえば誰しも「カツオ」「よさこい祭り」「坂本龍馬」などが思い浮かぶのではないだろうか。観光スポットとしては高知城や龍馬像が建つ桂浜、近年では「仁淀ブルー」で知られる仁淀川や北川村の「モネの庭 マルモッタン」が人気だ。
高知県で今、ひそかに注目されている町がある。県東部の香美市物部町(旧物部村)だ。日本各地の民間信仰の多くが失われていく中、物部川上流の徳島県に近い山あいの地域に伝わる「いざなぎ流」は、貴重な伝統文化だとして関係者が熱い視線を送っているのだ。
▽「光る君へ」でも注目
「いざなぎ流」は、巫女(みこ)信仰、神道、陰陽道(おんみょうどう)、修験道、密教などが混在する民間信仰。起源は定かではないが、平安時代ごろにさかのぼるとされている。2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の呪いの場面で、いざなぎ流の呪文を参考にしたのではと話題になった。
神格を表すとされる御幣。(左から)山の神、水神和合、水神。御幣は200種類以上あるという=「物部いざなぎ流神楽保存会」製作
いざなぎ流には神の由来などを記載した「祭文(さいもん)」のほか、神々の精霊が宿る和紙でつくった「御幣(ごへい)」、舞神楽、仮面といった要素があり、全国的にも貴重だとして1980年に国の重要無形民俗文化財に指定された。
▽「太夫」が消滅危機
いざなぎ流を研究している高知県立歴史民俗資料館の学芸員・梅野光興さんは「日本各地に伝わる民間信仰でも、神楽や病人祈禱(きとう)、狩猟に関する呪術といった多種多様な祭儀が、数多くの祭文や御幣とともに残っている所は全国でも珍しいのではないか」と話す。
いざなぎ流の伝承に重要な役割をするのが「太夫(たゆう)」と呼ばれる宗教者だ。いざなぎ流には集落の地区ごとに太夫がいて、口伝を中心に伝えてきたという。ただ、毎年決まった日に行う祭りがないことに加え、過疎化で各家庭の依頼で行われてきた祈禱などの祭儀が次第になくなっていった。太夫も世襲ではないため、現在は物部町にほとんどいなくなり、文化消滅の危機にひんしていた。
▽保存会を立ち上げ
国の重要無形民俗文化財に指定されたことをきっかけに、物部町を中心とした有志で「物部いざなぎ流神楽保存会」が結成され、舞神楽などの伝統文化を継承する活動を始めた。中学生や高校、大学生を含む12人の保存会メンバーが週に一度集まり、舞神楽の練習をしているという。
会長の佐竹美保さんは、地元出身ながら「30代になるまで、いざなぎ流を知らなかった」という。友人の家に太夫の知り合いがいたことから、舞を見る機会があり、熱心に通ううちに太夫から「弟子になれ」と言われ本格的に学ぶようになった。
佐竹さんに会長を引き継いだ半田敏張さんは、親類に太夫がいたことから太鼓をやらないかと誘われたという。「別府(べふ)」といわれる地区のいざなぎ流「別府伝」を受け継いで伝えている。
▽宿で体験
いざなぎ流は毎年決まった日の祭りがないため、披露する機会が限られている。物部町にある築80年の一棟貸し宿泊施設「まきの宿」は、「いざなぎ流のこころを伝える宿」をコンセプトにする。2024年1月にオープンした「まきの宿」では、これまでも畳の座敷で保存会の人たちによる舞を披露していたが、25年から本格的に「いざなぎ流」を知ってもらう催しを開催する。披露する日程を決め、宿泊者に限らず舞神楽や御幣づくりを体験できる。
保存会では地元の小中学校の特別授業でいざなぎ流について解説し、舞を披露する。保存会発足時からのメンバー半田琴美さんは「子どもたちは『いざなぎって何?』『何で舞をするの?』など関心を持ってくれる。他の地域の人たちにも知ってもらいたい」と話す。
高知県は、定番の観光地だけではない県の魅力を伝えようと「どっぷり高知旅」キャンペーンを展開しており、県内各地への旅を推奨している。歴史民俗資料館学芸員の梅野さんは「いざなぎ流を昔のまま伝えることは難しくなっているが、現代や未来のために伝統文化に接することは重要」と指摘した上で「今は動画やインターネットで知ることもできるが、現地を訪ね風景を見たり空気を感じたりすることが大事だ」と強調している。
保存会の中心メンバー(左から)佐竹美保さん、半田琴美さん、半田敏張さん
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