車いすバスケ男子日本代表、新チーム本格始動!初陣へ準備着々
パラサポWEB / 2022年5月10日 15時24分
東京2020パラリンピックで銀メダルを獲得した車いすバスケットボール男子日本代表が、新チームの初陣に向け本格始動だ。東京大会から引き続き指揮を執る京谷和幸HCは、東京大会の中心メンバーに新たなメンバーを加え、総勢20名の新チームを結成。旧メンバーと新メンバーの融合と強化を図る男子日本代表が目指すバスケットボールとは。強化合宿から垣間見えた現在地をレポートする。
新チームは個性派揃い⁉17名が一堂に会し、戦術の理解を深めていた
4月末に一部公開された今回の強化合宿。招集されたのは強化指定選手20名中、ドイツのプロ車いすバスケットボールチームで活動中の香西宏昭と藤本怜央、そして体調不良によりAOCの参加を辞退した古澤拓也を除く17名。うち10名はパラリンピック未経験者ということもあり、合宿の様子もフレッシュというのが第一印象だ。
直近の5月に行われるIWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC/タイ)には、この中から12名が派遣されるのだが、今回、招集可能な全17名で合宿を行った意図を京谷HCが説明する。
新体制でもチームを指揮する京谷HC「10月には杭州2022アジアパラ競技大会(中国)、翌11月にはIWBF車いすバスケットボール世界選手権(ドバイ)と、大きな大会が2ヵ月連続で行われるのだが、これらを12名だけで乗り切るのは厳しい。2年後のパリパラリンピックも見据え、若手選手を育てて日本チーム全体の底上げとレベルアップにつなげたい」(京谷HC)
豊富な運動量とスピードが武器の川原が新キャプテンに東京大会で現役を引退した名キャプテン豊島英の後を引き継いだのは、アグレッシブなプレーで銀メダル獲得に貢献した川原凛。「2028年のロサンゼルスパラリンピックまでつなげていける世代であり、年齢の上下関係なくコミュニケーションが取れるすばらしいキャラクターで、キャプテンに適任。いつか豊島を超えてほしい」(京谷HC)と見込まれての就任だ。昨年12月に京谷HCから電話でキャプテン就任の打診を受けたという川原は、即答で引き受けたと明かす。
「最初は自分にできるかなと思いびっくりしましたが、自分がキャプテンとして日本チームを引っ張っていけるならがんばってみたいと思い、引き受けさせていただきました」(川原)
同じ長崎出身の新キャプテンをよく知る鳥海連志が、「かなり気をつかう性格で、まわりを楽しませよう、雰囲気を明るくしようと考えてくれる選手」と評する川原は、自身の役割を「ベテランと若手のつなぎ役」と自認する。
「新チームは、性格もプレーも個性が強くて、長所も一人ひとり異なり、ユニットごとの特長に合わせたバスケができる。個性派の若手とベテランをうまく融合させて強いチームを作り、パリ大会までに完成させたい」(川原)
メンバーの組み合わせを変えながら、ゲーム形式の練習が行われた惜しくも東京大会では日本代表から外れてしまったものの、再び強化指定選手に選ばれた村上直弘も、若返ったチームに期待を膨らませる。
「今回のチームは皆年齢が近くて、コートの外でも仲がいい。(だからといってなれ合うのではなく)例えばシュートを外した場合、以前なら『切り替えていこう』と言っていたところを『ここ決めようぜ』など、厳しく要求し合えている。相手に求めたら自分は絶対にミスできない。自分にプレッシャーをかけながら仲間に要求していくことで、チームが強くなっていっている」(村上)
練習中も、チーム最年少の赤石竜我が人一倍大きな声を出してチームを鼓舞していた姿が印象的だった。
トランジションバスケットを研ぎ澄ますために新チームが目指すのは、東京大会でも披露した「トランジションバスケット」の進化と深化だ。相手にプレスをかけながらディフェンスし、ボールを奪ったら素早くオフェンスへと切り替え、アグレッシブにゴールへと向かう。東京大会をテレビで観ていたという村上も、「戦術も技術も日本が世界を上回っていると感じた。これをもっと磨いていけば絶対結果が出る」と確信をもって取り組んでいるという。
ただし、このバスケットを実現するには、相手に走り勝つことが大前提であろう。実際、今合宿でもフィジカルの強化を重点課題の一つに掲げ、取り組んだという。東京大会での活躍も記憶に新しい秋田啓も、速いバスケットに追いつけるように体を絞った。
「2021年の年明けから比べると、15kgほど体重を落とした。僕より速く走る選手ばかりで、まだそのレベルには至っていないが、動けるようになったという評価をもらえている」(秋田)
副キャプテンの秋田は「みんながいいプレーができるよう目を配りたい」さらに、京谷HCが力を入れて取り組んでいることがあるという。
「東京大会ではあまりお見せできなかったが、ラインで持ってくるディフェンスを浸透させていきたいと思っている」(京谷HC)
ゲーム形式の練習で、その一端が垣間見られたシーンがあった。メンバーの組み合わせを変えながらゲームを行う中、鳥海、赤石、村上、岩井孝義、髙柗義伸がユニットを組んだ際、5人がコートのセンター付近の横幅をふさぐように斜めのラインを作って、相手チームをブロックしたのだ。そのときは結局、相手チームがブロックを破り、制限時間ギリギリでシュートを決めた。しかし、このディフェンスが成功すれば、相手のシュートチャンスを奪えるのはもちろん、よりクイックに攻撃に転換することが可能になるだろう。目まぐるしく攻守が入れ替わる中で完璧なラインを形成するのは、容易ではないはず。その分、それが実現したとき、私たち観る者は、日本男子車いすバスケのち密さと美しさに新たな感動を覚えるに違いない。
日本代表経験者のプレーは、スピードや技術などあらゆる面で一日の長を感じさせた「日本が常に世界のトップで戦える力があることを知らしめたい」と語る京谷ジャパンが今年目指しているのは、世界選手権ベスト4以上だ。その第一歩目となるAOCが目前に迫っている。世界選手権出場枠をかけた戦いがどのように展開されるのか、新チームの初陣に注目だ。
東京組6名を含む計12名でAOCでの初陣に挑むedited TEAM A
text by Masae Iwata
photo by JWBF/X-1
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