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全米オープン、国枝慎吾が準優勝。年間グランドスラムならずも悔しさを「次」の原動力へ

パラサポWEB / 2022年9月15日 14時23分

全米オープン最終日のルイ・アームストロング・スタジアム。雨で蒸し暑い中、国枝慎吾とアルフィー・ヒューイット(イギリス)による車いす部門男子シングルス決勝が行われた。

昨年の東京2020パラリンピックで金メダルを獲得した国枝は、その後の全米、そして今年の全豪、全仏、全英を制しており、ここで勝てば、自身6度目となる年間グランドスラム達成(*)となる。2ヵ月前、全英でシングルス初優勝を果たし、4大大会制覇とパラリンピック金メダルを合わせた「生涯ゴールデンスラム」の偉業を成し遂げた国枝に注目が集まっていた。

年間グランドスラムのかかる全米の決勝に臨んだ国枝 敗北をバネに準備してきたヒューイット

一方、「グランドスラムでは難しい1年だった」と振り返るのは、ヒューイットだ。

シングルス初優勝を目指して臨んだ全豪、全英決勝では、それぞれファイナルセットまで持ち込みながら、あと一歩のところで国枝に敗れている。その悔しさを糧に、「勝つためにとても頑張ってきた」。そして、試合後の優勝会見に現れたのは、ヒューイットだった。「シンゴにとって、年間グランドスラムがかかったすごく意味の大きな試合だったのはもちろん知っている。今日はコートで少しだけリベンジできた」と達成感を口にした。

これまで幾度となく対戦し、手の内を知り尽くしている。それだけに国枝に対して「深い分析はしない」とヒューイット。最近は、むしろ自分のプレーをすることに集中してきた。そして、この日、それを十分にできたことが勝利のポイントになったという。「(リードされていた)第1セットは、本当に厳しい戦いでした。僕たちのレベルはとても高かった。彼が勢いに乗れば、僕がそれに対応し、僕が勢いに乗れば彼がそれに対応しました」

まさに死闘といえる第1セットをタイブレークから奪取すると、ヒューイットは雄叫びを上げ、興奮した様子で胸をたたいた。その姿は、タイブレークで敗れた全英決勝のリベンジを果たした、とアピールしているかのようだった。

ヒューイットは語る。

「全英であと一歩のところで優勝を逃したことが確実にモチベーションになりました。その後、体調を崩して少し苦労しましたが、勝つために毎日、毎分、コートに戻って練習してきました」

その練習から生まれた質の高いショットの数々は、国枝をして、「あのプレーをされたらしょうがない」と言わしめた。第1セットで自分のテニスができたことで、第2セットのヒューイットの勢いは止まらない。みなぎるエネルギーは、ヒューイットが放つボールに吸収されるかのようだった。

雄叫びで圧倒するヒューイット。「第2セットでの自信は別次元にあった」

準決勝まで順調に勝ち上がってきた国枝も、決して隙があるようには見えなかった。試合前の練習では、リラックスしつつも、引き締まった、強い決意を感じさせる表情をのぞかせていた。試合に入っても、「プラン通りに進めた」第1セットは、序盤でリード。しかし、ヒューイットのストロークに翻弄され始め、じりじりと追い上げられる。

グランドスラムに強い国枝もオーラ全開

それでも、5-6で迎えた第12ゲームの0-40という場面で見せ場をつくった。「リスク覚悟で放った」というサーブを3本立て続けに決めるなど、国枝らしい鋼のようなメンタルの強さを見せつけ、スコアを6-6に並べてみせる。「『ここからだぞ』っていう、自分自身のメンタルの強さで、最近のグランドスラムは勝ってきたところもある。その匂わせを醸し出したとは思うけど、ちょっと及ばなかった」と国枝。

むしろ好調のヒューイットに対して、「こうしないと、取れないのか」という気持ちが生まれ、ロングラリーの場面は「体力的に、『しんどいな』と一瞬よぎってしまった」と話すなど、プレーに迷いが生まれていたと明かした。

「質の高いヒューイットのレベルに上げようとして、無理をさせられたり、ミスをさせられた。今日は彼がよかった」と国枝

試合は6-7、1-6でヒューイットが勝利、国枝の全米3連覇を阻み、優勝カップを高らかに掲げた。

シンゴは車いすテニス界の「大使」

ヒューイットは国枝についてこう話す。

「1年にグランドスラム3大会を制するなんて、並大抵なことじゃない。シンゴは僕らの競技にとっては素晴らしい大使だし、悪いなという気持ちもある。でも残念ながら、彼はこれまでのグランドスラム大会の中でも最もハングリーになっていた僕と対戦することになった」

そして、国枝は「どれだけ勝ちに対して貪欲になれるかというところは、心を引き締めますから。そこはちょっと緩かったかな。これでハングリーにならなかったら、その時なので。帰って、もう一度見返して、さらに強くなって帰ってきたい」と話した。

国枝は東京パラリンピックを終えた後に燃え尽き症候群のような状態となり、何度も引退を考えていたという。その後、意欲を取り戻し、勝ち続けてきたのは周知の通りだ。

試合直後、清々しい笑顔を見せた国枝。「来年は勝ちたい」とスピーチした

今シーズンを締めくくる全米は準優勝に終わったが、表彰式のインタビューでは、「Next year」と次なるステージへの挑戦をはっきりと口にした。

「表彰式の最中ぐらいに、悔しさが出てきて……。悔しくてよかったと思います」

グランドスラムの負けは重たい、と国枝。久しぶりの大舞台での敗戦に「勝ち続けるのもいいことだけども、負けたときに、いかに自分自身を変えるか、改善するかというところが、楽しみでもあるはずなので、この負けを次に活かしたい」と涼やかな表情を見せた。

そして、ヒューイットも当然のように国枝との次戦を見据えている。

「自分たちが今のレベルで戦い続ける限り、グランドスラム決勝で対戦していくことになると思います」

最近10試合での2人の対戦成績は、5勝5敗。次のシーズンのツアーでも、24歳のヒューイットと38歳の国枝が車いすテニス界の中心でライバル争いを繰り広げる。

*全英の車いす部門・シングルスは、2016年に採用されたため、2015年までの年間グランドスラムは全豪、全仏、全米の3大会を制すことだった

edited by TEAM A

text by Shintaro Tanaka

photo by AP/AFLO

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