世界一のチームに欠かせないスパイス、車いすラグビー・小川仁士の素顔
パラサポWEB / 2022年10月11日 9時31分
パリ大会でブレイク必至のスター候補を紹介するシリーズ「TOP PROSPECT(=トップ・プロスペクト。「有望株」の意味)」。第2回は、世界ランキング1位の車いすラグビー日本代表、小川仁士選手です。
小川 仁士(おがわ・ひとし)|車いすラグビー高校3年時にモトクロスのレースで頚髄を損傷し、入院先で出会った車いすラグビーを始める。障がいの程度によって与えられる持ち点は、2番目に重度の1.0クラス。東京2020パラリンピックは日本代表に選出され、銅メダルを獲得。今年は世界選手権メンバーに初選出された。
ヤンチャに見えるけれど……⁉――サプライズ選出された東京2020パラリンピックでは、キラキラと輝くブリーチカラーが印象的です。
小川仁士選手(以下、小川):以前はフルタイムで働いていたのですが、車いすラグビーで世界一を目指している現在はアスリートとして企業に雇用してもらっています。それで「今しかできない!」と思って、髪をブリーチしたんです。大会を迎えるたびに、髪色を変えていて、今ではそれが欠かせないルーティンになっています。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002702/tanopara_ogawa06.jpg)
小川:うれしかったのと同時に、驚きました。誰も自分が選ばれるとは思っていなかったんじゃないですか。東京パラリンピック期間は、家族旅行をする計画を立てていたくらいです(笑)
――その後も、日本代表として定着。コートの中での判断力や、常に動き回ることができる走力を磨いています。小川:日本代表の実感がなかった東京大会とは違って、2022年10月の世界選手権はそこに照準を合わせてトレーニングをして、勝ち取った日本代表。その分、「やってやるぞ」という強い気持ちが湧いています。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002657/tanopara_ogawa08.jpg)
――リハビリで出会った車いすラグビーの印象はどうでしたか?
小川:これは“車いすラグビー選手あるある”エピソードなのですが、入院中に車いすラグビーを題材にした映画『マーダーボール』を観ました。幼いころからバスケットボールは苦手意識があったので、新たに始めるなら車いすラグビーの一択でした。同じ施設で行われていた、日本代表の合宿も見学し、激しい攻防戦に心奪われました。でも、始めた頃は、ラグビーつまんねぇって思っていました。今振り返ると当然なんですが、教えてもらったのは、地味な車いす操作技術ばかりでしたから。
――すぐに夢中になることはなかったのですね。小川:自分の障がいは、モトクロスの草レース中の事故によるものです。モトクロス選手はケガが多く、鎖骨の骨折はかすり傷といわれます。実際に自分も毎年のように腕や脚を骨折していました。だから、今回のケガも治るだろう。当時はそう思っていたので、車いすスポーツもほどほどに取り組めばいいかなと考えていたんです。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002634/tanopara_ogawa04.jpg)
小川:リハビリのために、施設に行ったとき、体の大きい車いすの男性が通ったんです。理学療法士の先生に、「あれが島川選手だよ」と教えてもらいました。すごいの一言でしたね。もう、一目惚れです。自分と同じ障がいだと聞いてびっくりしたことを覚えています。その後、しばらくして、その島川選手らに施設にある体育館の裏に呼び出されたんです。「何だろう」とびくびくしていたら、チームへの勧誘でした。それで強豪クラブのBLITZに入ることになったんです。
――車いすラグビーにハマったきっかけは何ですか?小川:最初はつまらないと思っていた車いすラグビーですが、入院仲間とプレーしていくうちに楽しくなっていきました。もともとフットサルやサッカーをやっていたこともあり、チーム競技は好きでしたしね。リハビリ施設から卒業した後も、当時、選手数の少なかったBLITZに入ったおかげで、競技歴の浅いうちから日本選手権にフル出場できました。やはり試合は楽しくて。日本代表の池崎大輔選手とか、障がいの軽いハイポインターに立ち向かっていくのが面白くてハマっていきました。
ローポインターとは何か――車いすラグビーの選手は、障がいの程度に応じて0.5〜3.5点の持ち点が与えられており、障がいが重い選手ほど持ち点が低く、コート上の4人の持ち点が合計8点を超えてはならないルールがあります。小川選手の1.0クラスはどのような役割が求められるクラスですか?
小川:一番重度の0.5クラスよりはボールを扱える分、最後にトライで得点を取るシチュエーションが少なくありません。一方、ボールを持ちながら走る場面は、障がいゆえ、リスクがあるのであまりないです。1.0クラスの選手は(1.5クラスなどと比べると)スピードがないので、相手より先回りすることが求められます。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002653/tanopara_ogawa02.jpg)
小川:本当に、そうですね。自分たちローポインター(持ち点の低い選手のこと)はボールを持つことも少ないし、到底メイン料理にはなれません。でも味付けは料理には欠かせないですからね。自分ですか? 例えるなら、「一味唐辛子」かな。好きな人は好きだけど、合わない人は合わないみたいな……。
――「一味唐辛子」ということは、周囲の選手と合わせつつも、自分の味をはっきりと出したいということですかね。そういう意味では、自分の特性を出すために、コート内の状況を分析しなければならないですし、プレー中も頭の内はフル回転ですね。小川:はい、常に選択肢の中から正解を考えてプレーしなければならないので、頭はけっこう疲れます。
――ところで、疲れたときに食べるものがあれば教えてください!小川:日本代表の合宿後は、脂っこいものを食べたくなります。同じクラブチームの菅野元揮くんと焼肉屋に寄って帰るのが定番です。ホルモンのミノが好きで、焼肉奉行の元揮くんに焼いてもらいます。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002644/tanopara_ogawa05.jpg)
小川:3人家族で、妻は高校の同級生です。ケガをする前からつきあっていて、入院時は毎日お見舞いに来てもらっていたし、感謝しているんです。もうすぐ3歳になる娘は、まだ競技について理解していませんが、いつか日本代表として試合をしている姿を見せたいですね。
趣味はつり。それから、1年前くらいに「車いすでも、できるじゃん」と思ってやるようになったのがボウリングです。家族でワイワイ盛り上がれるからいいですね。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002709/tanopara_ogawa01.png)
小川:同じ親の元に生まれたいです。バイクレーサーだった父の影響を受けながら、モトクロスをやっていたのもありますし、小さいときからどこに行くにも「くっつき虫」のようについていきました。モトクロスも自由にやらせてくれていて……ある程度のレベルまでは行くけど、中途半端だった自分が車いすラグビーで日本代表になった。日本国内で行われる国際大会は会場に来てもらい、活躍している姿を見てもらいたいですね。
![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/10/05002630/tanopara_ogawa03.jpg)
* * *
飾らない素顔が魅力の28歳。小川選手を始めとする個性豊かな車いすラグビー日本代表は、パリ2024パラリンピックで悲願の金メダルを掴むために、今この瞬間も戦っています。text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
寝たきりから奇跡の復活…3kgの握力で繰り出す正確なパスでメダルを持ち帰る 車いすラグビー中町俊耶
集英社オンライン / 2024年7月17日 11時0分
-
【パリパラリンピック】3大会連続のメダル獲得へ「一人の目標じゃない」 マラソン日本代表の道下美里選手 支えるのは“チーム道下” 仲間とともにゴールを目指す 福岡
FBS福岡放送ニュース / 2024年7月16日 19時54分
-
書籍「新時代 車いすラグビー日本代表 池崎大輔が見つめる未来」7月17日発売
PR TIMES / 2024年7月6日 2時40分
-
池、橋本らがパラ日本代表に内定 「金」狙う車いすラグビー
共同通信 / 2024年7月1日 16時13分
-
夏も冬もバイブスを共有! 世界で活躍するスノーボーダーたちの注目は?
パラサポWEB / 2024年6月28日 7時55分
ランキング
-
1体操・宮田笙子問題に露メディア「厳格ルール」と仰天 蘭の〝前科者〟選手と対比も
東スポWEB / 2024年7月22日 21時0分
-
2巨人・坂本勇人「一軍に居場所なし」…球宴前最終戦は出番なし、後半戦は二軍で“塩漬け”も
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月23日 6時12分
-
3衝撃の一発に頭抱え…“アングリ硬直”の24歳が「完全に驚嘆」 大谷特大弾の反応が話題
Full-Count / 2024年7月22日 18時3分
-
4《性的暴行で逮捕》佐野海舟容疑者、オンラインサロン上に“新規メッセージ”でファンが騒然「僕はひたすら待ち続けます」
NEWSポストセブン / 2024年7月23日 11時15分
-
5トロント地元紙 菊池雄星はトレード濃厚と報道「来週以降もブルージェイズで投球する可能性はゼロに近い」
スポニチアネックス / 2024年7月23日 10時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)