銅メダルの車いすラグビー日本代表、パリパラリンピックに向けて若手4人の奮起に期待
パラサポWEB / 2022年10月21日 16時50分
2022年10月10日から6日間にわたり、デンマークのヴァイレで開催された車いすラグビー世界選手権。パラリンピックに次ぐ4年に一度のビッグイベントで、日本代表は銅メダルを獲得した。だが、前回優勝の日本選手たちにとって、世界3位という成績は、決して満足できる結果ではなかった。東京パラリンピックと同じ12人のメンバーのうち、若手と呼ばれる4選手は、今大会で何を掴んだのか。パリに向けてさらなる成長が期待される日本代表の奮闘とともに振り返る。
パリではエースに。最年少の橋本は悔し涙若手の中で唯一、前回の世界選手権を経験しているのが、20歳の橋本勝也(3.5)だ。この4年間、世界一のハイポインター陣、池透暢、池崎大輔、島川慎一の3人の背中を見て育ってきた。東京大会の銅メダル獲得を経て、世代交代の必要性から「40代の先輩たちから早く吸収しなければ」とトレーニングを積み、今大会はコートで活躍するイメージで乗り込んだ。
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だが、現実は厳しかった。12ヵ国が2プールに分かれて行う予選。日本は初対戦のコロンビア、開催国のデンマーク、格下のブラジル、車いすラグビーの母国であるカナダ、そして宿敵のオーストラリアに全勝した。ケビン・オアーヘッドコーチ(HC)は、ディフェンスに定評のある乗松聖矢らの組み合わせ(3-3-1.5-0.5)、オフェンスで3人がボールを扱える(3-3-2-0.5F)、長年の息の合ったプレーが光る(3-3-1-1)を多用。東京大会以降の新しいライン(3.5-3-1-0.5の組み合わせ)は、重要な場面では使われなかった。
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「ケビンの信頼を得ることができなかった。自分自身にすごく悔しさといら立ちを感じています」
試合後の報道エリアで橋本は、珍しく感情を言葉にした。
日本は準々決勝で、ディフェンスの強さが増したニュージーランドを撃破。だが、準決勝で対戦経験の少ないアメリカに5点差をつけられて敗れた。連覇の夢が途絶えた瞬間だった。
橋本は、涙をこらえながら言葉を振り絞る。
「大会中、自分の調子が上がらず、チームに対して迷惑をかけてしまっていた。多彩なラインナップを使えることが日本の強みであり、(従来のハイポインターに)自分がどれだけ加われるかがキーになってくると思っていたので……」
アメリカ戦の後半、チームが意気消沈する中、体格で勝るアメリカ相手に立ち向かい、堂々とした姿でコートを駆け抜けた。それが今の橋本ができる、せいいっぱいのプレー。「橋本はグッドプレーヤー。彼の自信を壊さないように丁寧に育てていきたい」とはオアーHC。今大会優勝したオーストラリアも、準優勝のアメリカも、注目すべき選手として、ポテンシャルの高い次代のエース、橋本勝也の名を挙げていた。
日本は3位決定戦でデンマークに勝利し、銅メダルを獲得。チーム最年長47歳で、今大会も大車輪の活躍だった島川は、橋本についてこう語る。
「僕の個人練習にもつきあってくれていて、最年長と最年少だけど刺激をしあえるいいライバル。(最終戦は出場できず)悔しかったと思うけど、彼はすごく伸びていますよ。次、楽しみにしていてください」
自信を持ってプレーする難しさを実感その橋本と同じラインの一角を担う小川仁士(1.0)も28歳の若手だ。東京パラリンピックは、1.0の3番手としてサプライズで選出された。当時は、日本代表の実感がなかった小川にとって、今回の世界選手権は初めて狙って手に入れた日本代表であり、世界一になりたいという気持ちを抱いて大会に臨んだ。
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だが、世界の激しいプレッシャーを受けて、小川の自信は日に日にしぼんでいく。最強の組織力を誇るアメリカとは初対戦。「圧倒はされていない。でも少し気が小さくなってしまい、プレーのミスが生まれてしまった」。オアーHCから交代を告げられると、肩を落として悔しさをあらわにした。
「何をしに来たんだろうという思いでいっぱい。チームに貢献できなかった悔いが残ります」
チーム力では負けていない。自信を持って本来のパフォーマンスを出せれば、強い日本の1ピースになれることを小川は知っている。課題は明確だ。次の国際大会では、ベンチでもコートでも人一倍大きく声を張る小川の姿を見られることだろう。
ミッドポインターは国内で底上げを図るそんな小川に誘われて競技を始めた中町俊耶(2.0)は、東京大会後に日本が進化した、(クラス分けの)ミッドポイントの若手だ。同じクラスの羽賀理之らと国内で底上げを図り、オフェンス時にボールを奪われることも少なくなった。
熾烈な代表争いを潜り抜けて世界選手権に出場した中町は、カナダ戦ではターンオーバーを奪うなどチームの勝利に貢献。予選のブラジル戦ではさまざまな組み合わせ(3-2-2-1や3.5-2-2-0.5)のバランスラインが起用され、「合宿で連携を深めてきた成果」と胸を張った。
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とはいえ、バランスラインはまだ発展途上。オアーHCは「中町と羽賀がよいプレーをしてくれて、バランスラインがうまく回っている。世界的に見てもハイローとバランスラインをうまく使い分ける傾向にあり、日本としても改善の余地があるので、今後の国際大会でもっと磨いていきたい」と語った。そのバランスライン成長のカギを握っているのは間違いなく中町だろう。2019年のワールドチャレンジ、2021年の東京パラリンピック、そして2022年の世界選手権の準決勝で敗れた悔しさを糧に、前に進んでいくだけだ。
日本の強みを支えるローポインターの存在感今大会を通して、日本のラインは実に22パターンあった。「ラインに広がりがあって深みがあるのが日本の強み」(オアーHC)だ。準決勝で敗れたものの、エース頼みの各チームと比べて、決勝トーナメントを総力戦で挑める強みも示した。
その中でも「変わりのいない存在」が0.5クラスの長谷川勇基。障がいの最も重い0.5クラスながらボールも扱い、大会を通して長い距離を走った。
「日本はメンバーチェンジがいくらでもできるチーム。自分がいなくても、疲れたら交代できるので、出ている間だけ頑張って走れるっていうところで、そこは安心して全力で走ってます」
世界のローポインターの中でフィジカル面での手ごたえを感じた一方で、スピード不足などの課題は残った。日本帰国後、何かしたいことはあるか尋ねると、「国内の0.5クラスの選手とコミュニケーションを取って高め合いたい。(今大会の0.5は、女性選手の)倉橋香衣選手と2人なので、全体の底上げをしていきたい」と意欲的だ。
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3位決定戦の後、長谷川は決勝の舞台を見やり「あそこにいる予定だった。悔しいですね」と語り、こう力強く述べた。
「日本の伸びしろは、若手4人。パリパラリンピックまであと2年でしっかり経験できる時間はある。この結果が次につながると信じています」
今大会で日本代表が手にしたメダルは、パリでは金色に輝く。
text by Asuka Senaga
key visual by Asuka Senaga
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