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現役サッカー選手が、サッカー以外のキャリアへ挑戦する理由

パラサポWEB / 2022年11月4日 7時0分

多様性の時代、ひとつの仕事に邁進するのもいいがキャリアを柔軟に、多角的に考えておくことも重要だ。時代に呼応するように、現役サッカー選手をしながら、二刀流としてもう一つのキャリアをスタートさせた人たちがいる。それがプロサッカー選手の多々良敦斗氏(JFL・ラインメール青森)、久保田和音氏(J2・ザスパクサツ群馬)、ロービジョンフットサル選手の中澤朋希氏の3人で立ち上げた団体「Refio」(リフィオ)だ。「サッカー×農業」を掲げ、耕作放棄地の有効活用や障がいのある子どもたちの支援など幅広い活動を予定している彼らだが、現役サッカー選手でありながら、なぜ他のキャリアへのチャレンジを始めたのか?前編では久保田氏と中澤氏に話を伺った。

セカンドキャリアを考え始めた、オファー待ちの4カ月間
久保田和音氏(J2・ザスパクサツ群馬)

J2・ザスパクサツ群馬に所属し、現役プロサッカー選手として活躍している久保田和音氏。2015年に名門、鹿島アントラーズに入団後、2019年にファジアーノ岡山FCに期限付き移籍をして活躍するが、契約満了となり退団。次のオファーもすぐに来るだろうと思っていたが、約4カ月何の音沙汰もなしに。ひたすら待つ日々を送った、その時期の心境をこう語る。

「それまでサッカーしかしてこなかったので、もし他のチームからオファーがなかったときに自分は何ができるんだろうと不安になりました。その後、ありがたいことに松本山雅FCからオファーをもらえて、なんとかサッカー選手を続けられるという状況になり、今はザスパクサツ群馬に移籍してサッカーをしています。そういう期間があったので、そのうちにやってくるセカンドキャリアに向けて、自分は何ができるだろうと考えるようになったんです」(久保田氏)

サッカー選手を続けられる喜びを実感しながらも、セカンドキャリアの可能性を広げておくことの重要性を実感した久保田氏。いろいろな人の話を参考にしようと精力的に交流を持つようになり、その中で多々良氏と中澤氏と知り合うことに。充実した日々を送る中、チームに加入してから約1年後に新たなターニングポイントがやってくる。それが多々良氏と中澤氏からの「Refio」への誘いだった。

苦悩と葛藤の中で掴んだ光明。三者が集まり誕生したプロジェクト
多々良敦斗氏(JFL・ラインメール青森)

「Refio」の発起人である多々良敦斗氏は、現在JFL・ラインメール青森に所属している。現役選手として活動する中で、JFLの選手たちがサッカーだけで生計を立てるのが難しいことを知った。そんな現状をどうにか打開できないかと思った多々良氏は、様々な業種の人に話を聞いていき、耕作放棄地の現状を知ることに。食がアスリートのパフォーマンスに大きく影響するからこそ、サッカーと農業を掛け合わせて耕作地を何か有効活用できないかと思い立つ。そこで同じマネジメント会社を通して知り合い、交流を深めていた中澤氏と久保田氏を誘い、「Refio」を立ち上げることを決意した。

ロービジョンフットサル選手の中澤朋希氏

小さな頃からサッカー好きで、フットサルを楽しんでいた中澤氏は高校2年生のとき、突然目が見えにくくなった。病院での検査の結果、難病である「レーベル遺伝性視神経症」と診断を下される。絶望の日々の中で、TV中継していた日本代表の試合を観ることに。ぼやけてよくは見えなくても画面越しに伝わってくる熱狂に感動し、前向きに生きることを決意した。大学進学後は、ロービジョンフットサルを始め、日本代表となり国際大会にも出場。社会人になってからもロービジョンフットサルを広めるために、イベントなどを開催して精力的に活動していく中で、多々良氏や久保田氏と出会い、みんな東海地方出身ということですぐさま意気投合。その後、「Refio」をスタートすることになった。

「最初は多々良さんと農業を軸に何かできないかと話していたんです。そのすぐ後に久保田くんに連絡して、『これこれこういうことを考えているんだけど、一緒にやらない?』という感じで始まりました。いろいろ話していく中で、農業だけではなく、障がいのある人たちの支援もやろうというアイデアも出てきて、現在の方向性になりました」(中澤氏)

別キャリアを意識することで濃密になったサッカーとの向き合い方
「Refio」は特別支援学校で障がいのある子どもたちとのスポーツの開催や、サッカー好きへの恩返しイベント、オンラインコミュニティの発展などのためにクラウドファンディングを行った。およそ1カ月半という短い期間にも関わらず、多くの支援が集まった。久保田氏がザスパクサツ群馬所属ということで、群馬県からの支援者も多かったそうだ

今年2月にスタートした「Refio」は本格的に活動していくにあたり、クラウドファンディングを実施。それぞれ役割分担をして進め、SNSでの発信など地道な広報活動を久保田氏が率先して行った。そういったサッカー以外の活動は、まわりの一部の人からは「サッカーに集中していないんじゃないか?」と見られることもあるという。

「自分のプレーや成績、コンディションが落ちたりすると、サッカー以外の活動をしているからだと言う人もやはり少なからずいます。だからこそ、サッカーをやるときは本当に集中してやるようにしています。「Refio」を立ち上げたことで、オンとオフのメリハリをきっちりしようという気持ちが強くなりましたね」(久保田氏)

毎日やることが増えたことによって時間を大切にするようになり、よりサッカーへの取り組みも熱心になった。そしてサッカーへの愛情と同じくらい、「Refio」を軌道に乗せたいという強い想いが生まれた。

「何か人のために役立つことをやってみたいと思いましたし、障がいのある中澤くん自身が、みんなの先頭に立って何かをやろうとする姿に、僕自身が強く惹かれました。僕も何かお手伝いできるんじゃないかと。農業に関しては、僕は元々食事にこだわっていて、無添加やオーガニックに関心があったので自然と興味が湧きました。農耕放棄地や農家の高齢化など、様々な問題に対して、何か僕たちアスリートだからこそできることはないだろうか?と常に考えています」(久保田氏)

次に何をする? セカンドキャリアを見つけるヒント
笑顔でインタビューに応じてくれた中澤氏

久保田氏は、セカンドキャリアについて考えるようになってから、自分自身の変化も感じているという。

「サッカー業界以外の人との関わりが増えましたね。いろいろな業種の人に話を聞くと、本当に今まで知らなかったことだらけで、人間としての幅が広がるのを実感しています」(久保田氏)

ただ、セカンドキャリアを実際に考えていくというのは、今まで自分の人生をかけてきたものと全く別のことを始めるということでもあり、精神的にハードなアクションであるはずだ。スポーツ選手でなくとも、こうして新たなキャリアに挑戦する人は、どのように前へ進めばいいのだろうか?中澤氏はこう語る。

「プロサッカー選手が現役を終えた後に、監督やコーチ、キャスターとして、その後のキャリアもサッカーに関われるという人はほんの一握りだと思います。それは何のスポーツでもそうですよね。でもみんな人生をかけてきたスポーツへの想いは強いはずなので、例えばサッカー×〇〇〇といったように、何かを掛け合わせてやってみると力を発揮できるのではないかと思います。その掛け合わせるものが、僕ら「Refio」は農業や食、共生や子どもの教育でしたが、自分がそれまで打ち込んできたスポーツ以外に何が好きかをまず探してみる。そこでその掛け合わせがうまくいくかトライしてみるといいと思います。またサッカーのようなチームスポーツをしてきたからこそ、個人でやるよりも仲間と一緒にチームで何かを立ち上げてやっていくと、すごく力を発揮できるのではないでしょうか。スポーツで培ってきたスキルは、意外とビジネスに通ずる部分も多いので、僕らもその強みを活かせるようなビジネスを目指して行きたいですね!」(中澤氏)

自分の想いが強い分野はどこか、自分が培ってきた強みがどんなものかを知り、トライしてみる。スポーツ選手でなくとも、中澤氏の言葉に現れる姿勢はヒントになるのではないだろうか。

自身の経験を交え、キャリアの考え方や「Refio」の取り組みについて答えてくれた久保田氏と中澤氏。企業での働き方も多様になってきたが、アスリートの生き方も多様に変化しつつある今、職業に限らずセカンドキャリアの可能性について模索しておくことの大切さを教えてもらった。

後編は、「アスリートだからできる」SDGsとは? 現役サッカー選手3名が立ち上げた【サッカー×異業種】から学ぶアイデアについてお話を伺う。

text by Jun Nakazawa

写真提供:J2・ザスパクサツ群馬、JFL・ラインメール青森、Refio

PROFILE 久保田和音

1997年生まれ、愛知県豊橋市出身のプロサッカー選手。2015年に鹿島アントラーズに入団後、ファジアーノ岡山FC、松本山雅FCを経て、現在J2・ザスパクサツ群馬に所属。ポジションはMFで、豊富な運動量を活かしたプレースタイルに定評がある。

PROFILE 中澤朋希

1997年生まれ、三重県鈴鹿市出身。高校2年生のときに難病「レーベル遺伝性視神経症」を発症し、視覚障がい者となる。大学進学後にロービジョンフットサルと出会い、技術を磨いていく中で日本代表強化指定選手に。2019年にスペインやトルコの国際大会に出場。ロービジョンフットサルを広く知ってもらうためにイベントや講演なども行っている。

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