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ダイバーシティ推進。個人でできる取り組み

パラサポWEB / 2022年12月23日 7時0分

男女の別や障がいの有無、人種や性のあり方などにより差別されることなく、一人ひとりが尊重される、多様性、すなわちダイバーシティのある社会をつくる重要性が語られる昨今。ビジネスにおいては、競争力を高めるために多様な人材を採用するといった観点で語られるが、個人でダイバーシティ社会の実現に貢献できることはないのだろうか? ひとりで取り組める身近なこととなると、LGBTQや障がいのある人への理解、コミュニケーションについて学ぶことも一つだ。

そこで今回は、多様性の中でも「障がい」にフォーカスし、障がいのある人とどのように接したらいいかわからないという人に知っておいてほしいことを、パラスポーツを通して日頃から障がいのある人と接している日本ブラインドサッカー協会スタッフの小島雄登さんに伺った。

1.障がいのある人とどんな心持ちで接すればいいのか?

ゴールキーパー以外の選手は視覚に障がいがあり、アイマスクを装着し音の出るボールを用いることで、ボールの音や仲間の声によって状況を把握し、競技するのがブラインドサッカー(ブラインドフットボール)。小島さんは2009年にインターンとして日本ブラインドサッカー協会(以下、協会)に関わり、福祉系専門学校の福祉スポーツ科 幼児体育コースを卒業して児童養護施設で働いた後、現在は協会スタッフとしてブラインドサッカーに関わると同時に、チーム“パペレシアル品川”で監督を務めている。

YouTube“ブラサカ会議(仮)”過去の配信「【新企画スタート!選手の素顔やブラサカの裏側を発信していきます】LIGA.iについてのお話(前編)〜ブラサカ会議(仮)001〜」より。右が小島さん、左がチームメイトの寺西さん

今回、小島さんにお話を伺いたいと思ったのは、YouTubeで発信されている協会の広報プログラム“ブラサカ会議(仮)”での、チームメイト・寺西一さんとの掛け合いが何とも絶妙で楽しそうな雰囲気に満ちあふれていたからだ。小島さんは普段、どんな心持ちで視覚に障がいのあるチームメイトと接しているのだろうか?

以前は小島さん自身、障がいのある人は普通ではない人、見えなければサッカーをするのは難しいのではないかと考えていた。もしブラインドサッカーに関わらなかったら、障がいのある人に対して偏見を持ち続けていたかもしれないと語る。

「実は僕は昔から人見知りが強くて、人と視線を合わせて会話することが苦手でした。そういう意味で、視覚に障がいがある人たちとは、自分が目線を合わせられなくても、そのことについて相手から触れられずに会話できるので、気軽に話せるという側面はあったとは思います。でも、それ以上に大きかったのは、協会の先輩たちが、何の垣根もなく接していたということですね。当たり前のようにふざけ合い、冗談を言い合い、当たり前のように一緒に食事をする。本当に楽しそうにみんなが笑顔で過ごしているのを見てきたので、自然と自分も馴染んでいくことができました。先輩たちにはとても助けられたと思っています」

YouTubeのチャンネル“ブラサカ会議(仮)”で、視覚に障がいのある寺西さんと何の垣根もなく、冗談を言い合い、突っ込みあう姿からは、二人が障がいのあるなしの違いに遠慮をしたりすることはなく、本当に仲の良い友人同士であると感じられる。そのような関係性はどのように生まれたのだろうか。

「寺西とは年齢も近くて、最初から友だちみたいな感覚でした。仕事のことやサッカーのこと、人生のことでも同じように悩み、一緒に考えたりできる仲間だったことが大きかったですね。ひとくちに視覚に障がいがある人といっても、話好きだったり家でひとり過ごすことが好きだったり、いろいろな人がいます。“障がいのある人=こういう人”と、ひとまとめにしないこと。それが多くの人と関わらせてもらって、僕が今強く実感していることです」

普段「障がい者」と聞くと、必要以上に構えてしまう人が多い。“違い”を意識しすぎるあまり、緊張してしまうこともあるかもしれない。ただ、一度コミュニケーションをとってみると、それまで普段自分がしていた会話と変わらないのに気づく。どう接するべきか? と疑問がわくこと自体が、私たちが”違い”に対してつくっている無意識の壁を示しているのかもしれない。

2.疎外されている人がいない、誰ひとり取り残されない世界をつくるためにできること
ブラインドサッカーとの出会いによって「良い仲間が得られたんだね」と両親も喜んでいると語る小島さん

ブラインドサッカーのチームで監督を務める小島さん。普段、チームメイトと接する中で心掛けていることはあるのだろうか? 複数の人が集まって何か話していたりするとき、話題についてこられず、黙ったままの人がいることがある。小島さんはそれが気になるのだそう。

「みんなが和気藹々としている空間が好きなんですね。だから、目が見える見えないにかかわらず、みんながその場に馴染んでほしいという気持ちがあって、話題に入ってこられない人がいるのに気づいたら、話題を変えたいと思うタイプです。本来なら、視覚に障がいがある人と接するには、“クロックポジション(位置情報を時計の短針の位置にたとえる方法)”や、“同行援護(視覚に障がいのある人の外出に同行して援護すること)”についてしっかり勉強しておいた方がいいのでしょうが、その点について僕はまだ弱い。今後、そういうことについて学ぶ機会はあるとは思いますが、僕にとっては、疎外されている人がいないようにすること。それが一番大事であることに変わりはないですね」

難しく考えすぎず、小島さんが実践しているようなちょっとした配慮が大切なのではないだろうか。こんな気遣いなら、相手に障がいがあるかないかに関わらず、私たちにもすぐにできるだろう。

また、小島さんが語った「疎外されている人がいないようにすること」「障がいのある人はこうだと決めつけてひとまとめにしないこと」。私たちが個人でダイバーシティに取り組むには、そのあたりがキーポイントになりそうだ。

3.ダイバーシティ社会の実現につながる子どもたちへの教育とは
日本ブラインドサッカー協会が行う「スポ育」は、ブラインドサッカーをベースにした様々な体験をアイマスクをつけた状態で行ってもらう。ボールを蹴ったり止めたりといった簡単な動作も、目が見えないととても難しいことがわかる(写真提供:日本ブラインドサッカー協会)

「障がい」に対する見方や考え方について、私たち大人は残念ながら長年アップデートする機会がないままきてしまった。だからこそ、ダイバーシティの実現には子どもたちの教育も重要になってくる。

日本ブラインドサッカー協会では、子どもたちを対象に行っている体験型ダイバーシティ教育プログラム“スポ育”を実施している。スタッフや選手が小学校・中学校に出向いていって、子どもたちにアイマスクをつけてもらい様々なワークを行うというものだが、子どもたちの反応はどうなのだろうか。ダイバーシティや障がいに関して、どのように子どもたちへ伝えていくべきか、小島さんに伺った。

「今の日本は、社会構造的にどうしても障がいのある人に出会いにくいということがあると思います。探さないと出会えない。だから子どもたちも最初は視覚に障がいのある選手にどう話したらいいかわからないようで、“あの人は本当に見えないの?”“いつから見えないの?”などと僕にばかり話しかけてきます。でも、寺西がYouTubeと変わらずざっくばらんに喋っているのを見るうちに、子どもたちも普通に話して良いんだと思うようになるんでしょう。その結果、体験後に一緒に給食を食べる時間になって僕が教室に行くと、明らかに残念な顔をされることがあります(笑)。寺西の方が良かったって。まあ、いいんですけど、僕なんか見向きもされなくなるんですよ(笑)」

私たちが、障がいのある人たちに対してどうしても垣根を感じてしまうのは、会ったことがない、一緒に過ごす機会がないことが大きいのだろう。

「視覚に障がいのある人のことを知りたいと思ったら、まずブラインドサッカーを体験し、共に練習して汗を流してみたらどうでしょうか? 一緒に身体を動かし、今はコロナ禍で難しくはあるんですが、ご飯を食べたりお酒を飲んだりすることが生活の一部になっていけば、障がいのある人に対する垣根もどんどんなくなる。ブラインドサッカーで活躍する選手は本当に輝いているし、同じような障がいのある子どもたちにとってはもちろん、“スポ育”を体験した子どもたちにとってもヒーローになってほしいと思っているんです」

ブラインドサッカーの選手と触れ合い、一緒に給食を食べたいという子どもたちは、その経験をきっと楽しんでくれるはずだ。それは、誰でも一緒にプレーすれば、選手たちの競技にかける思いや行動がストレートに伝わってくるからだ。

「彼らは純粋に、めっちゃ楽しそうにサッカーをしているんですよ。こんな言い方をしていいのかはわかりませんが、いい歳をした選手も多いんですけど(笑)、“おじさんたち、そんなに楽しい?”って言いたくなることもありますし、時間になってもまだ練習をしている若い子(チームメイト)には“もう時間だから、帰るよー”なんて声かけたりして、まるで小学生相手か? という感覚になります。目が見えないということは、ともすればネガティブに捉えられがちですが、選手たちはブラインドサッカーによって、自分で判断して、好きなように動き、主体的に取り組める、そんな自分たちが活躍できるフィールドが得られるということなんです。その喜びが楽しさに繋がり、周囲をも楽しくさせているのではないかなと思います」

できないことに目を向けるのではなく、できることに向かって取り組んでいる彼らの姿を見ることで、勇気をもらえるだけでなく、きっと子どもたちにとっても自分のあり方を考えるきっかけになるだろう。

4.ダイバーシティを大切にする取り組みが個人にもたらすもの 〜小島さんの場合〜
サッカーをすることが楽しくてたまらないといった明るい雰囲気のチームのみなさん(写真提供:鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会)

人見知りの傾向が強かったという小島さんの周囲には、彼を通してブラインドサッカーと出会うことになった人も多い。特に一番近くにいて、生まれた時から見守っていた両親は、ブラインドサッカーと関わるようになってからの小島さんの変化を実感しているようだ。

「この競技に出会ったことは、僕にとってよかったんじゃないかと、両親によく言われます。僕は欠点の多い人間ですし、自己肯定感もそれほど高くないんですが、ブラインドサッカーに出会って、少し自分のことが好きになりました。できることを認めてもらって、前向きに取り組めるような環境に身をおけたことがよかったのでしょう。日々学び、成長させてもらっている僕の様子を見ていて、両親は“いい仲間ができたんだね”と言ってくれます。たとえ、平均的にできないことがいろいろあっても、できるところ、得意な面を生かしながら大切な仲間と一緒に働いていく、支え合っていくことができているのを見て、そう思ってくれたんじゃないでしょうか」

小島さんをきっかけに、視覚に障がいのある人たちと出会った友人は、「なんか、抱いていたイメージと全然違った」と言うのだそう。それも、小島さんの言う“障がい者=こういう人”というひとまとめのイメージに囚われていたからだろう。私たち一人ひとりが、ダイバーシティが尊重される社会の実現に取り組むには、こういった固定観念に囚われず、積極的に知っていくことが大事なのではないか。

「協会にはボランティアの方もたくさんいますが、みんな最初はどうしていいかわからなかったんだと思います。でも、一緒に過ごすうちに自分のやれることが見つかっていきますし、そこから学べることもある。とにかく年齢や性別、障がいの有無は関係なく、まずは練習や試合を見に来てほしいですね。ここに混ざってもらえれば、視覚に障がいのある友だちがひとり、ふたりと増えていって、他に障がいのある友人もできる。そうして友だちの輪が広がっていくのがこのスポーツの魅力でもあるので、ひとりでも多くの人に興味を持ってもらいたいと思います」


「ダイバーシティ」というと、つい我々は大袈裟に考えがちだ。しかし、視点を広げ多様性を認めることで、自ずと世界は広がっていく。さまざまな人との出会いによって自分の可能性や長所に気づき、それを生かす世界が見つかることもある。小島さんの話からわかったのは、ダイバーシティは自分とは違う背景をもつ誰かのためだけではなく、自分のためにもなるものなのだということだ。

【視覚に障がいのある人との接し方をもっと詳しく学ぶ】 【導入編】盲導犬は撫でて良い?白杖とは?いま知っておくべきサステナブルな行動 https://www.parasapo.tokyo/topics/29465 【実践編】視覚障がいの方の腕を掴んではいけない? いま知っておくべきサステナブルな行動 https://www.parasapo.tokyo/topics/29547 【応用編】視覚障がいの方は点字ブロックが無い場所はどう歩く? いますぐできるサステナブルな行動 https://www.parasapo.tokyo/topics/29557

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)

key visual by Shutterstock

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