パラ柔道・東京国際で日本は4種目を制し、パリパラリンピックに向けて明るい兆し
パラサポWEB / 2022年12月15日 13時53分
東京2020パラリンピック後、国内では初となるパラ柔道の国際大会「東京国際オープントーナメント大会2022」が12月11日に東京の講道館で開催された。IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)公認大会であり、パリ大会の出場権獲得に向けたポイントランキングの対象大会ということもあって、国内からは16人、海外からも9ヵ国から36人の選手が来日。国際大会らしい、レベルの高い試合が繰り広げられた。
パラ柔道は、東京大会以降、J1(全盲)とJ2(弱視)にカテゴリー分けされ、それぞれ4階級で実施されている。新たなカテゴリー区分と、東京大会(男子7階級、女子6階級)より階級が減ったことで世界を相手に闘った際に、どこまで結果を残せるか。今大会パリへ向けての試金石となる大会だ。
還暦を迎えた松本義和が国際大会で初優勝柔道歴40年で初の国際大会優勝は「長い間やってきた勲章みたいなもの」と松本(写真中央)
新たなカテゴリー区分ができたことで、気を吐いたのがJ1の90kg級に出場した松本義和。柔道歴は40年を超えるベテランは「東京大会でやめるつもりだったが、J1とJ2が分かれたことでパリ大会でメダルに届く可能性があるかもしれない。それならチャレンジしたい」と現役を続行することを決意。今年還暦を迎えた年齢だが「歳に負けないスタミナだけはつけよう」と週に4回の道場での稽古と2回のフィジカルトレーニングを重ねてきたという。
試合は、まさに積み重ねてきた練習が出たような内容。リーグ戦を4試合全勝で優勝を決めたが、どの試合も勝利への執念が上回ったような結果で、楽に勝負を決めたような試合はなかった。とくにゴールデンスコア式の延長に突入した3試合目では、投げを放ちお互いに体勢を崩しながらも引き手を畳にこするように引き切って、相手の背中をつけさせて技ありを奪取。パラ柔道ならではといえる執念の投げで、勝利を決めた。
この優勝を「1つの勲章」と噛みしめる松本だが、「パリ大会でメダルを獲ってパラ柔道に対する恩返しをしたい」とその目はすでにパリに向いていた。
“日本のエース”瀬戸が73kg級を制す終始、落ち着いた試合運びを見せた瀬戸
東京大会では66kg級で銅メダルを獲得した瀬戸勇次郎だが、その階級がなくなってしまったため、現在はJ2カテゴリーの73kg級の試合に出場している。今大会の初戦では同じ66kg級でしのぎを削ってきた藤本聰と対戦。試合開始前の襟の取り合いから緊張感を放つ攻防を繰り広げるが、最後は仕掛けてきた藤本を小内返でひっくり返し、一本勝ちを収めた。試合を終えた藤本が「(瀬戸は)毎回強くなっているが、またさらに強くなっている」と舌を巻く勝利だった。
藤本(写真右)との対戦では力の差を見せつけた瀬戸自身が今大会で「一番の強敵」と目していたカザフスタンのOrazalyuly Olzhasとの一戦では、「狙っていた」という試合開始と同時に仕掛けた背負投で見事な一本勝ち。試合時間わずか1秒という、数ある競技の中でも組み合った状態で始まるパラ柔道以外ではあり得ないような短時間で試合を決めた。11月の世界選手権で3位に入っている相手だけに、鮮やかな勝利は新たな種目での活躍を期待させるに十分なものだった。
73kg級に対応するための増量も順調に進んでいると語るが、パリ大会へ向けては「東京大会と違って開催国枠がないので、しっかりとランキングを上げることが重要。結果はもちろんだが、試合に出て出場ポイントを獲ることも大切」と気を引き締めていた。
ライバルとの激戦に勝利した廣瀬順子女子のJ2の57kg級を制したのは、先月、アゼルバイジャンで行われた世界選手権で銅メダルを獲得している廣瀬順子。参加4選手のうち3人が日本選手という国内では層の厚い階級だが、最後は本人が「毎回ゴールデンスコアまでいく」と語る工藤博子との激戦を制し、優勝を決めた。
新たなライバル対決として注目を浴びる工藤(写真左)と廣瀬一本勝ちを収めたほかの2試合でも投げた後に、そのまま動きを止めずに寝技に移行する動きが光った。ともに東京大会に出場した夫であり、コーチでもある廣瀬悠と磨いてきた動きだが、さらにスムーズさがアップしている印象で、寝技の種類も関節技で相手をコントロールしてから固め技に移行するなどバリエーションが豊かになっていた。
「最近の合宿で相手をしてくれる学生が、本気で向かってきてくれることで寝技の強化にもつながっている」と語る廣瀬。この日、夫の悠は所用で会場には姿を見せていなかったが、この日は7回目の結婚記念日とのことで、最高の形で花を添えることができたようだ。
11月の世界選手権で日本唯一のメダリストだった廣瀬(写真中央)が優勝した 藤原由衣が初の48kg級を制す減量に苦しんだものの、48kg級で手ごたえを掴んだ藤原
東京大会では52kg級に出場していた藤原由衣は、今大会初めてJ2の48kg級に出場。高垣治監督によると減量はかなり厳しかったようで、初戦ではその影響も感じられた。藤原の強みは一本軸が通ったようなバランスの良さだったが、この試合ではやや足が地についていないように見える。ただ、それでも尻上がりに調子を上げ、延長戦で背負い投げを決めて一本勝ち。
背負い投げを得意とする藤原。2度目のパラリンピック出場に向けて決意を新たにした続く2戦目では、この体重での感触をつかんだようで、わずか16秒で得意の背負い投げで一本を奪い優勝を決めた。試合後、「相手が速いだけでなく、自分の体が軽くなって試合をするのも初めてだったので探り探りになっていた」と語った藤原。「スピードが速くキレが求められる階級だなと感じた」とのことだが「勝っていくイメージは持てた」と、この階級でパリ大会を目指す決意を示した。
パリ大会に向けて、ポイント争いもますます激化してくるパラ柔道。2023年にはIBSA柔道グランプリ東京大会が東京で開催されることも決まっており、日本チームはこの勢いを保ってパリ大会に向かうつもりだ。
text by TEAM A
photo by X-1
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