Jリーガーが本気で「公園遊び」をする理由
パラサポWEB / 2023年2月17日 11時40分
近年、日本の子どもたちの運動不足が問題視されている。一方で、街の公園では「ボール遊び禁止」「大声を出さない」といったルールが増え、子どもが体を動かして遊べる場所が減っているという話も耳にする。そんな中、サッカーJ3のクラブチーム・ガイナーレ鳥取が約20年にわたって続けているのが「復活!公園遊び」だ。この取り組みは、子どもたちの運動不足の解消だけでなく、コミュニケーションスキルの育成やスポーツの発展にも貢献しているという。詳しい話をチームの担当者に伺った。
20年近くも続く「復活!公園遊び」とは?米子市ホームタウン・デイイベントでガイナーレ鳥取の選手と遊ぶ子どもたち
鳥取県をホームタウンとするサッカーのクラブチーム・ガイナーレ鳥取は、1983年に「鳥取教員団」として創設され、2011年にJリーグに入会している。そんな同クラブがJリーグに入会する前の2003年から続けているのが「復活!公園遊び」。その名の通り、ガイナーレ鳥取の選手やコーチ、クラブスタッフなどが地元の子どもたちと公園で遊ぶというもの。
「私は立ち上げから関わっていたわけではないので、当時の詳細な事情はわかりませんが、公園にいくと不審者がいるといった安全面に関する不安や、ゲームが普及したという時代的な背景から、子どもたちが外遊びをする機会が減ったということが、地域や行政で問題になっていたようです。そこで、現在のガイナーレ鳥取の前身であるNPO法人やまつみスポーツクラブの専務理事だった現株式会社SC鳥取代表取締役社長の塚野真樹が、『このままではいけない』と、クラブに所属するサッカー選手や職員と協力して公園遊びを始めたのがスタートです」
と、この取り組みのきっかけを教えてくれたのは、小学校の元教員でもあり、子どもたちを取り巻く環境の変化に危機感を覚えているという野口功さん。当初は、告知をせずにゲリラ的に選手が公園に行って子どもたちと鬼ごっこやめんこ遊びなどをしていたそうだ。それが徐々に子どもや保護者の間に口コミで評判となり2021年までの18年の間に、延べ60,000人以上が参加した。
楽しく遊ぶことが、スポーツの発展の道筋をつくるオンラインで取材に対応してくれた、ガイナーレ鳥取のスタッフ内間安路さん
「復活!公園遊び」は、鬼ごっこ・ろくむし・だるまさんが転んだ・中当て・めんこなど、昔は公園で当たり前に行われていた遊びをするのが基本で、サッカーなどの本格的なスポーツはしない。あくまでも「遊ぶこと」が目的だ。だから、「いつ来てもいつ帰っても良い」「誰が来ても仲間に入れる」「準備いらず片づけいらず」がモットー。その理由を、サガン鳥栖やガイナーレ鳥取などで活躍した元プロサッカー選手で、現在はガイナーレ鳥取のスタッフとして働く内間安路さんは次のように分析する。
「今は小さい頃から習い事としてスポーツをしている子どもは増えていますが、単純に遊びとして体を動かす機会は少なくなっています。幼稚園に通う頃から、親にサッカースクールに連れてこられて、いやいやサッカーをやっているような子どもも少なくありません。子どもが体を動かす最初の入口に楽しさがない。でも最初は単純に楽しく遊んで体を動かす経験をして、その延長線上に初めてスポーツがあると思うので、根底となる遊びの文化は絶対に絶やしてはいけないと思うんです。それがゆくゆくはスポーツの発展に繋がるのではないかと僕は思っています」
鬼ごっこやめんこ遊びならば、スポーツが得意でない子も気軽に参加して楽しむことができる。特別な道具もいらないので費用もかからない。誰もが平等に遊ぶことができるのだ。
子どもを成長させる「ガキ大将スキル」オンラインで取材に対応してくれた、ガイナーレ鳥取のホームタウン事業部部長の野口功さん
ガイナーレ鳥取の「復活!公園遊び」の重要なキーワードのひとつが「ガキ大将」。参加する選手やクラブスタッフがガキ大将となって活動し、そのスキルを子どもたちに伝えていく。もちろん、ガキ大将と言っても、「ドラえもん」に出てくるジャイアンのように横暴な存在を目指すわけではない。
「公園遊びでは、自分たちだけ楽しい遊びをするのではなくて、そこにいるいろんな人を巻き込むこと、みんなが楽しめることを考えてしてほしい。そして解決すべき課題があれば、みんなをまとめて解決するといったことを、遊びを通してできるようになってくれるのが理想です。子どもたちが、人との距離感や関わり方を学べるのは、学校の道徳の授業などではなくて、遊びの場だと思うんです。いじめや揉め事があっても、子どもたちは遊びを通して友達関係を回復していく。地域の大人は子どもたちが、そういうことができる場を作ることが大切なんじゃないでしょうか」(野口さん)
公園は、年齢や性別、住んでいる地域や通っている学校も違う子どもたちが集える場所。そんな中さまざまな人間の中心となり、ときにはケンカを仲裁したり、みんなが楽しく遊べるように場合によっては遊びのルールを自分たちで作ったりするといった「ガキ大将スキル」を、楽しく遊びながら身につけて欲しいと野口さんは言う。そのスキルは、将来「他人との上手な関わり方」「相手の気持ちを考える力」「問題を率先して解決する力」「何かをやり遂げる力」となって、子どもたち自身を助け、そして地域の活性化にも繋がるはずだからだ。
地域を支える人材は地域みんなで育てる今年、初めて鳥取県外で行われた「復活!公園遊び」。沖縄県のウミカジテラスにて
「復活!公園遊び」を行うようになって、サッカーに興味がなかった子どもたちが、ガイナーレ鳥取の試合を見るためにスタジアムに足を運んで応援をしてくれるようになったという。また、公園で一緒に遊んだ選手を街中で見掛けると声をかけてくれる子どもが増え、ガイナーレ鳥取のファンを増やすことにも繋がっているそうだ。
「弊社の社長が、営業先のある金融機関に挨拶に行ったところ、担当者が子どもの頃、社長と公園遊びをやった経験がある方でした。その人は、当時社長が渡しためんこを今でも持っていて、それを見せてくれたそうです。ガイナーレ鳥取の選手の中にも子どもの頃に公園遊びをしたという人もいます。たった1回参加しただけなのに、会った時に『幼稚園の頃に公園で一緒に遊びました』と嬉しそうに話す小学生もいました。たった11回でも、そうやって覚えていてくれるということは、子どもたちにとって、『公園遊び』が特別な時間になっているんだろうなと思います。20年近くも続けていると、単にガイナーレ鳥取のファンを増やすということだけでなく、いろんなところに影響を及ぼしているなというのを実感しています。将来、鳥取出身の人はみんなリーダーシップがあるなと言ってもらえたら嬉しいですね」(内間さん)
約20年の活動の間には、Jリーグに入ってプロ化するのだからサッカーに専念しようと、公園遊びを中止する話も出たそうだ。それでも話し合いの末続けてきたのは、このプロジェクトが単なる遊びやファン集めではなく、人材の育成、地域の活性化に繋がっているから。2022年の11月には沖縄で県外初の「復活!公園遊び」を行った。FC琉球の選手と合同で行った公園遊びは子どもはもちろん、保護者たちからも好評だったそうだ。内間さんは、将来的には日本中の都道府県、さらには海外にも「復活!公園遊び」が広まって欲しいと今後の展望を語ってくれた。
野口さんはガイナーレ鳥取の関連会社・株式会社GTベンチャーズが行っている「しばふる」の事業にも関わっている。「しばふる」は芝生のある生活を応援するWEBメディア。そこで野口さんは子どもたちに芝生の上で遊んでもらうため、幼稚園や小学校の園庭や校庭を芝生化する案件に取り組んでいるそうだ。園庭や校庭の芝生化は、子どもたちの運動の促進や体力の向上、怪我の防止といったさまざまなメリットがある。鳥取では地元のサッカーチームが環境を整え、人材を投入して、地域と一丸となって未来を作る子どもたちの育成に取り組んでいる。こうした活動は一見難しそうに思えるが、内間さんは「公園遊びはお金も手間もかかりません」と笑っていた。子どもたちの未来を作るのに必要なのは、野口さんや内間さんのように、真剣に子どもたちの未来について考え行動にうつす大人たちの覚悟なのかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:ガイナーレ鳥取
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