新時代到来を告げるパラ神奈川の優勝と宮城MAXの敗退~天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会~
パラサポWEB / 2023年1月30日 16時12分
車いすバスケットボールのクラブチーム日本一を決める「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」。1月21日、東京体育館で行われた決勝は、パラ神奈川スポーツクラブ(関東)とNO EXCUSE(東京)のカードに。応援に駆け付けた観客はこれまでの天皇杯と違って有料チケットを購入して入場した。両チームも観客用のハリセンを用意し、ベンチ裏はパラ神奈川スポーツクラブの赤とNO EXCUSEのチームカラーであるオレンジにそれぞれ染まった。華やかな雰囲気の中、試合を制したのはパラ神奈川スポーツクラブ。男子日本代表が銀メダルを獲得した東京2020パラリンピックを経て、日本一有名なパラアスリートになった鳥海連志がMVPを獲得し、新時代が幕を開けた。
赤とオレンジを身につけた観客でにぎわった決勝戦 四半世紀ぶりの戴冠51-44でNO EXCUSEを下し、優勝したパラ神奈川スポーツクラブ
2021年に自国開催された東京2020パラリンピックの後、ファンの熱をつなげようという動きが高まる中、昨年から再開予定だった天皇杯。新型コロナウイルス感染症の影響で、大会2日前に中止することを余儀なくされた。それだけに、3年半ぶりの今大会に期待が高まっていたのは言うまでもない。
2日間のトーナメントを戦ったのは、全国10ブロックの第1次予選、東西で分けられた第2次予選を勝ち抜いた6チームと2022年12月の高崎大会優勝チーム、そして2019年2月の前回大会優勝チーム。学校観戦の子どもたちでにぎわった初戦は、各チームともに硬さが見られたものの、出場8チームの選手たちは試合後、「楽しかった」と口をそろえた。
「なかなか開催されなかった天皇杯がようやく開催され、一戦一戦を仲間と戦い抜けたことは宝物でした」
こうヒーローインタビューでスピーチした、鳥海の言葉にも実感がこもっていた。
鳥海がキャプテンを務めるパラ神奈川スポーツクラブは、前回大会で4位だった。1990年代に3度日本一に輝いた実績こそあるが、チーム内のほとんどの選手にとって初めての決勝だった。頂上決戦ならではの雰囲気にのまれると思いきや、「プレッシャーで初戦から緊張していて決勝も変わらない」(堀井幹也ヘッドコーチ)、「やってきたことをやるだけ」(鳥海)、「準決勝とか、決勝だとか意識しないように戦っていた」(古澤拓也)というそれぞれの言葉からもわかるように、チームが同じ優勝という目標に向かって、同じように目の前の試合に集中して勝ち上がった。
プレスディフェンスで東日本王者を圧倒スピードで他のチームを圧倒しパラ神奈川スポーツクラブが四半世紀ぶりに日本一に
古豪のワールドBBCに74-47、勢いのある埼玉ライオンズに61-49。余裕を持って勝ち上がったように見えても、落ち着ける時間帯は少なかったようだ。決勝では、序盤はオフェンスでリズムが掴めず、第1クォーター終了時で4点のビハインド。第2クォーターでディフェンスから流れを呼び込んで試合をひっくり返し、第2次予選大会で敗れたNO EXCUSEに51-44で勝利した。
鳥海は、ディフェンスへのこだわりを勝因に挙げる。
「ディフェンスでプレスに行く場面、ハーフコートはしっかり守るというシステムの切り替えと、相手が(シュートを)打ちたい場面で打たせない点で、いいディフェンスができたと思う」
そして、オフェンスでは「誰か一人がたくさん点を取るのではない」意識を徹底させた。チームは存在感のあるハイポインターがいるわけではなく、障がいクラス2.5の鳥海、丸山弘毅、3.0の古澤がアウトサイドから打ち、相手に的を絞らせない。前半決めることができなかった丸山も前を向いて打ち続けると、後半はしっかり決めてチームの優勝に貢献した。
決勝戦でNO EXCUSEのエース香西にプレッシャーをかける丸山弘毅東京パラリンピック、そして過去2回のU23世界選手権で活躍した若手スターたちを擁するパラ神奈川スポーツクラブが優勝し、これまで日本代表をけん引してきた藤本怜央らが獲ってきたMVPを鳥海が手にしたことは、時代の移り変わりを感じさせた。
「これから連勝するチームを作り上げる」と鳥海が話すパラ神奈川スポーツクラブも、変化してきたという。
「プロを目指すチームになり、モチベーションの高い状態が続いていた」と鳥海。
決勝で22得点。ディフェンスだけでなく、オフェンスでも存在感を示したかつてチームが日本一に輝いたときの中心メンバーで、1992年バルセロナ大会などパラリンピックに3度出場した土屋武司は、若手選手たちに称賛の拍手を送る。
「ベンチで見ていたが、ディフェンスが素晴らしかった。僕らの頃と比べ、選手の技術も車いすも進化している。来年は連覇も期待できると思う」
チームには、日本代表経験のあるハイポインターも加入予定。パラ神奈川スポーツクラブが一時代を築くかもしれない。
宮城MAXは11連覇でストップ世代交代を象徴するもうひとつ大きな出来事は、宮城MAXの連覇が途切れたことだ。この大会で11連覇していた絶対王者の宮城MAXは、東京パラリンピック後、日本代表キャプテンの豊島英、藤井郁美が引退。さらに、過去5回MVPを獲得したエースの藤本怜央がドイツリーグ参戦中で、「皆さんの知っている(強い)宮城MAXではない」(アシスタントコーチ兼選手の萩野真世)。
今大会を「ゼロからのスタート」と話していた、東京パラリンピック女子日本代表の萩野真世チームは「まずは一勝」を目標に大会に挑んだが、一回戦で千葉ホークスに敗れて姿を消した。
「前半はなんとか食らいついたが……。ディフェンスが崩れてしまった」
そう振り返る萩野は、この日不在だったヘッドコーチに代わってベンチワークもこなしながら40分間出場した。悔しさを押し殺しながら、「新しい成長ができた。今できる自分たちの100%をコートで出せて、やり切れたことはチームの誇りです」と話して前を向いた。
昨年のU23世界選手権で世界一になった伊藤明伸を中心とするチームは、厳しいチーム状況を乗り越え、いつか再び日本一に返り咲くつもりだ。
天皇杯のレベルは上がったか?多くのメディアで報道され、スポットライトを浴びた天皇杯だが、各チームともに万全の状態で戦ったわけではない。伊丹スーパーフェニックス(西日本1位)やワールドバスケットクラブ(西日本2位)は、メンバーが揃わなかったことで理想のユニットを組むことができなかったと言い、コロナ禍の影響が色濃く映った。
活動拠点のドイツから帰国した香西宏昭(左)と指揮官の及川監督(右)東京パラリンピックで男子日本代表監督を務め、6年ぶりにNO EXCUSEの監督に復帰した及川晋平氏は言う。
「大会を通して日本代表選手のハイレベルなプレーが光った一方で、それ以外の選手の技術レベルは決して上がったとは言えないと思う。それは、ロースコアゲームが多かったことが示しているのではないか」
比較的練習環境に恵まれている日本代表と比べ、練習場所の確保に苦労しているのがクラブチームの現状だ。コロナ禍で体育館の利用時間が制限されたり、練習拠点がワクチン接種会場になったりすることで練習ができないこともある。さらに、車いすは床を傷つけるから貸し出さないという体育館もまだまだ多い。
東京パラリンピックは終わったが、さまざまな課題が残されている。
決勝で40点台のスコアと苦しい戦いを強いられたNO EXCUSEは、大会を通して苦しい試合が続いた【天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会 リザルト】
1位:パラ神奈川スポーツクラブ
2位:NO EXCUSE
3位:埼玉ライオンズ
4位:千葉ホークス
5位:LAKE SHIGA BBC、伊丹スーパーフェニックス
7位:宮城MAX、ワールドBBC
成長著しい赤石竜我率いる埼玉ライオンズが3位にtext by Asuka Senaga
photo by X-1
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