え!運動のしすぎは老化を早める? 正しい運動の仕方とは
パラサポWEB / 2023年3月22日 7時0分
いつまでも若々しく生きられるようにと、運動を習慣にしている人は多いだろう。アンチエイジング、ダイエット、健康促進など良いことずくめに見えるスポーツも、やりすぎると老化を防ぐどころか早めることになるのだという。運動のしすぎによる弊害に関して警鐘を鳴らし、よりよい運動術・食事術を提言しているのが、自身もアスリートとして活躍する医師・黒田愛美氏だ。私たちはどのように運動し、どんな食事をすれば良いのかについて伺った。
体を老けさせる活性酸素は、運動のしすぎで過剰に発生黒田愛美氏
美容・アンチエイジング専門医としてさまざまな症状の患者に日々向き合っている黒田愛美氏は、小学校から大学まで競技スキーの選手として活動していたが、医師になってからスキーから離れていた。しばらくしてスポーツへの情熱が再燃し、トライアスロンに挑戦したところ、2017年、38歳でITU世界トライアスロンシリーズの日本代表選手に選出されるまでになった。現在はそんなアスリートとしての経験を活かしながら、医師として患者に向き合っている。
「私自身、トライアスロンという結構体に負担のあるスポーツをしているので、運動が体に与える影響は、自分の身を通して理解することができます。私は、アンチエイジング専門医として日々患者さんを診ていますが、みなさんアンチエイジングというと、どうしても美容的な、体の“外側”の若返りのイメージが強いんですね。でも、医師としては“内側”を美しくすることも大事な役目です。病気の原因となり得るものを除去し、体の状態をできるだけ引き上げ、生活や仕事のパフォーマンスをアップする。これが体の内側からのアンチエイジングで、食事と運動が大きく関わっています」(黒田氏、以下同)
そして、冒頭の運動のしすぎがアンチエイジングに悪影響があるという話だ。黒田氏は、フルマラソンや、フルのトライアスロンなど苛酷な運動をしている人は、同年代の人と比較して、どうしても老けている印象があることが多いと言う。
「原因は、活性酸素です。活性酸素は、私たちが生きていく上で欠かせない酸素が体内に取り込まれ、代謝される過程で自然に発生するもの。自然発生するぐらいの量なら問題ありませんが、激しい運動をすると個人差はあるものの、過剰発生につながります。すると、活性酸素は細胞を酸化、つまり“サビ”させて体中を老化させ、見た目の老いだけではなく、がん、動脈硬化、高血圧、糖尿病などさまざまな病気を引き起こす原因にもなります。このよう活性酸素が体内で過剰になるとさまざまな悪影響を及ぼします」
運動のしすぎが老化どころか深刻な病気を引き起こすと聞けば、穏やかではいられない。どうしたらいいのだろうか。
「運動は過剰に行うのではなく、適度なものをするということです。ただ、この適度というのが人によるため程度を言うのが難しくて、一般的な話をすれば、ランニングだったら1日に3~5kmぐらい、テニスとかバスケットなどのスポーツだったら1時間ぐらい。人によって活性酸素の量、それを分解する酵素の量が違いますし、生まれつきの体質だとか生活習慣も関わってくるところなので一概には言えないのですが、体を動かしていてちょうどいいぐらいの汗をかいて気持ちいいと感じる程度と思っていただければと思います。やりすぎて疲れてしまうというのは、活性酸素を処理しきれていないということですから、すごく疲れるちょっと手前ぐらいがいいのではないでしょうか」
免疫を司る腸が、小麦粉や砂糖で傷つけられている!?黒田氏の著書『アスリート医師が教える 最強のアンチエイジング 食事術51 運動術26』(文藝春秋社刊)には、食事術にも多くのページが割かれている。それは黒田氏の母親が料理教室の教師をしていて、幼い頃から食事に気をつけて生活していたこともあるだろうが、食事もアンチエイジングや日々の活動のパフォーマンスに影響するのがわかっていることも大きい。
「活性酸素は体の細胞を酸化(老化)させますが、女性にとってはもっと深刻な問題があります。それは卵子の老化です。私たちの体を作っている細胞にはミトコンドリアという小さな器官があって、卵子には一番多く含まれています。ですから活性酸素による細胞の老化は卵子の機能にも直結して、不妊の要因にもなり得るので、ミトコンドリアの機能には気をつけなければいけない。大事なミトコンドリアの機能を左右するのが食事です」
黒田氏が体を老けさせない、パフォーマンスを上げる食事術を考えるに当たってポイントにしたのは体の炎症だ。炎症と言っても、目に見える体の外側の炎症ではない。見た目にはわからない体内の炎症。特に注意したいのは腸の炎症なのだという。
「人間の体内にはいろいろな炎症があります。潜在的な喉の炎症や胃の炎症、いわゆる胃炎ですね。そういういろいろな炎症がある中で一番気をつけなければいけないのは腸の炎症。というのは腸は免疫を司っているからなんです。腸の炎症には食事によるものが多いので注意する必要があります」
よく“これを食べるといい”というような健康法がネットなどで勧められるが、むしろ注目すべきは“食べてはいけないもの”だと黒田氏は言う。
「腸の炎症を引き起こす食べ物はいくつかはっきりわかっていて、その筆頭は小麦粉に含まれるグルテン、その他に乳製品や砂糖、アルコール、食品添加物などがあります。グルテンの粘りは腸壁にくっついて腸粘膜を傷つけます。また砂糖は成分となるショ糖が胃液や酵素をたくさん使ってもなかなか分解されにくいため、腸内や血管を傷つけるのはもちろん、消化しきれないショ糖は悪玉菌や真菌などを繁殖させることに。これらは運動しているしていないに限らず、全ての人が避けるべきものですね」
なんとなく体調がよくない……その原因は食事にあるのかも私たちが毎日生きていく中で、病気というところまではいかないまでも、何となく不調だと感じることはないだろうか。ちょっとした疲労感や倦怠感、消化器官の不快感など。もし自覚があるとしたら、遅延型のアレルギーを疑った方が良いかもしれない。
「一般的にアレルギーというと、食べてすぐにかゆみがでたり呼吸困難に陥ったりする“即時型アレルギー”を思い浮かべると思いますが、実はもうひとつ“遅延型アレルギー”というものがあります。これは食べてから6~24時間ぐらい経過してから徐々に症状が出てくるものなので、みなさん知らずに食べていることが多いんです」
しかもこの遅延型アレルギーを引き起こす要因になる食べ物には、好きでよく食べているもの、毎日食べ続けているものが多いのだそう。自分でも気がつかないうちに、腸に炎症を与える食べ物を摂取しているとは……かなり衝撃的な話だ。
「よく自分は頭痛持ちだとか、生理痛が酷い体質だとか言ってあまり気にしない方がいるんですが、実は食べるものを変える、食事法を変えるだけで治るケースも多いです。私たちの体は食べているものからできているのは紛れもない事実。それを疎かにしてしまうと肌がトラブルを抱えたり病気になったりはもちろんですが、性格まで変わってしまいます。食べることはものすごく大事なことなので、みなさん自覚的になっていただきたいと思いますね」
黒田氏は、自身も医師ではあるが、医師に頼り過ぎてはいけないと語る。仲間と話していると、食や栄養に関する知識が一般レベル、あるいはそれ以下の人が多いのだそう。医学部では栄養学にあまり重点をおいていないことが多い。つまり、医者は「体の仕組みを理解して薬を症状で軽減してくれる人」ではあるものの、食や栄養が関わる体の調子を根本的に治してくれる人ではないということだ。
そこで黒田氏は、栄養学に基づいて患者の腸内環境をきちんと調べて、その人の症状に適した食事法を指導する。それによってみるみるうちに体調が回復していく人は少なくないのだそう。鬱で不登校だった高校生が体の健康どころか、精神の健康も取り戻し、初診から1年数ヶ月後には海外に留学できるほどになったというケースもあるのだとか。食事は本当に大事だということが分かるが、小麦粉や砂糖、乳製品を全く摂ってはいけないと言われると、果たして自分にできるだろうかと、最初から諦めてしまいそうになる。そんな、トライしてみたいけれどちょっと不安……という人のために、アドバイスもいただいた。
「さきほど言った体によくない食べ物、たとえば小麦粉や砂糖、乳製品を摂るのをいきなりやめてゼロにするというのはハードルが高いと思うのも当然だと思います。外食したら、グルテンフリー、乳製品フリーというのはなかなか難しいですから。なので、ゼロにしようと思わず、まずは減らしていくということを目標にしたら良いのではないでしょうか? 私も外食するときは気にしないようにしています。自分が店を選べる場合は焼鳥とかお寿司、会席などの和食。友人がイタリアンを選んだら、もう気にせず美味しくいただきます。ただ、家には砂糖や牛乳などの乳製品は置きません。買うのをやめることから始めても良いかもしれませんね」
今回黒田氏にお話を伺って、自分は食事にしても体にしても、まだまだ知らないことが多いことに気づかされた。皮膚の炎症などは目に見えるので自覚することができるが、腸の炎症というものがあることは、ある意味衝撃的だった。ただ、食べ物というのは私たちの文化や生活に深く根ざしたもので、いきなりそれを変えなさいと言われても正直難しいと感じる人も多いだろう。もし、日頃の体調に不安を感じているなら、少しずつやれることから始めてみたらどうだろうか。体調に改善が見られたら、それがきっとさらに続けるモチベーションを生み出すことになるはずだから。
PROFILE 黒田愛美(くろだ・あいみ)
美容・アンチエイジング専門医。トライアスリート。1979年東京都生まれ。2003年獨協医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学内分泌乳腺外科に入局。2007年品川美容外科へ入職。2011年同グループの美容皮膚科部門を立ち上げ、品川スキンクリニック新宿院の院長に就任。2013年には同クリニック表参道院院長に就任するも、新たな分野への挑戦と技術向上のため退職。その後は予防医学と分子栄養学を改めて学び、美容外科、美容皮膚科、アンチエイジング内科の非常勤医師として都内の複数のクリニックに勤務。体の内側と外側のアンチエイジング、両方に精通する医師として、多くの文化人、芸能人、アスリートからの信頼も厚い。趣味はトライアスロンでトライアスロンチーム「zippy’s」に所属。2012年ロタ島で開催されたロタ・ブルー・トライアスロンでは女子4位に入賞、’17年ロッテルダムで開催されたITU世界トライアスロンシリーズグランドファイナルの日本代表選手に選抜された経験も持つ。現在も日々トレーニングに励み、年に3~5回、国内外の大会に出場している。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
ダイエットで「カロリーゼロ飲料」を選ぶ人の盲点 医師が説明「代謝が落ち太りやすくなる危険も」
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 8時50分
-
寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月21日 17時35分
-
管理栄養士の「3つの“食ルール”」で10歳若返り! 髪・肌・体形の老化を抑制
週刊女性PRIME / 2024年11月10日 7時0分
-
【田中律子さん】53歳、更年期症状は?腸活は、沖縄ならではの「抗酸化作用」の高いもの【インタビュー】(前編)
OTONA SALONE / 2024年11月1日 18時1分
-
生理になると、なぜお腹がゆるくなるのか?...女性ホルモンと消化器の関係について専門家に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月26日 8時40分
ランキング
-
1【侍ジャパン】ベネズエラに逆転勝利で無傷の7連勝&国際大会26連勝 2大会連続決勝に大きく前進 牧が決勝満塁弾など13安打9得点
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月22日 23時2分
-
2侍ジャパンは2次ラウンド2連勝、決勝進出の条件は…23日昼の試合結果で決定の可能性も
読売新聞 / 2024年11月23日 0時20分
-
3育成出身のヤクルト・岩田が倍増の1000万円でサイン 昇給分の使い道は「貯金です」
スポニチアネックス / 2024年11月22日 19時39分
-
4ベネズエラ・ロペス監督「夢であり、これぞベネズエラだという試合をやろう!」 日本戦敗戦も前を向く
スポニチアネックス / 2024年11月22日 23時44分
-
5王貞治氏 大谷翔平は「百何十年の歴史の中でただ一人の人」歴史的快挙にこれ以上ない称賛の言葉贈る
スポニチアネックス / 2024年11月22日 23時28分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください