ノルディックスキーで世界初!? オールコンバインドのレースで会場が沸いたアジアカップ札幌大会
パラサポWEB / 2023年3月31日 12時13分
カザフスタン、韓国、モンゴル、日本、そしてウクライナ。5ヵ国の旗が翻る白旗山競技場。例年より雪解けの早い札幌で約300人の観客が見守る中、場内アナウンスが響く。「日本の選手が帰ってきました!」。一気に沸く会場で、選手たちがラストスパート。ゴール前の直線で順位が入れ替わるデッドヒートは、見ごたえ十分だった。
白熱したスプリントレース!3月19日に行われたパラノルディックスキーのアジアカップ札幌大会2日目。クロスカントリースキー・スプリント(クラシカル)が立位、座位、視覚障がいに加え男女も一緒に滑るオールコンバインド形式で行われた。
アジアカップで全3種目表彰台に上がり、強さを見せつけた新田予選には30人(組)が出場。障がいの種類や程度によってクラス分けされた選手たちにはそれぞれ係数が設けられ、実際のタイムに係数をかける「計算タイム」で準決勝に進む12組を決めた。
2レースに分けて行われた準決勝は、係数を元に時間差でスタートし、速くフィニッシュした3人(組)が決勝に進出する。カテゴリーごとに「下りが速い」「上りが速い」などの特徴があり、また雪の状況も刻々と変わるため、途中で大きく変わるレース展開から目が離せない。日本選手は2人が出走し、ノーストックで走る川除大輝、クラシカルを得意とする新田佳浩がそれぞれの組のトップで観客のいる会場に戻り、ゴール前に陣取る所属企業の応援団を盛り上げた。
全てのカテゴリーと男女を統合したオールコンバインドで実施決勝に残ったのは視覚障がい2組、立位2人、座位2人。レースは、最後の直線で抜きつ抜かれつの激戦になり、座位のバル・パブロ(ウクライナ)が優勝。新田が2位、シン・ウィヒョン(韓国)が3位、川除が4位だった。
観客の声援の中でデッドヒートが繰り広げられた決勝レース「コースの苦しい場所で多くの観客がいたことで励まされた」と新田。今季最後になる本大会に照準を合わせて臨んだ日本の第一人者は、充実した表情で汗をぬぐった。
ラスト30mで韓国選手に抜かれた川除は「直線でシット(座位)の選手に抜かれたらもう抜き返せないので必死でした。熊に追いかけられているような感じですかね」。悔しさをにじませつつも「負けて学ぶものもある」と前を向いた。
収穫を手にしたのは、決勝に進んだ選手ばかりではない。予選で敗退した日本の選手たちも、初のオールコンバインドを楽しんだ。
「体のキレもよかったので、シン選手とのタイム差を考えながらペース配分したが、予選突破できずに悔しかった。鍛え直さなくてはならない。トップ層の選手は後半にも強くて学ぶところが多かった」(座位の森宏明)
日本チームの座位をけん引する森は、スプリント力に定評がある「ウクライナを招待して行う親善大会という意味合いもある大会。もちろん、それぞれのカテゴリーでの熱い戦いがあるが、オールコンバインドのレースは見ていてシンプルに面白いのではないか。みんなで楽しみ、パラノルディックスキーを好きになってもらう機会としてすごくいい。視覚障がいはガイドもいるので、障がいの有無も含めて混ざりあったレース。一体感があって楽しかった」(視覚障がいの有安諒平)
「パラノルディックの最速を決めるのがオールコンバインド 。選手とガイドが入り乱れるので、危険性もはらむが、そこをガイドがいかに誘導するか(が醍醐味)。風よけを使うのもブラインド特有のものなのでそれを使って立位を追いかけるなどもできるし、次は(決勝に)残りたいです」(有安のガイド・藤田佑平)
コンビを組んで3シーズン目の有安(写真後方)&藤田。ガイドの伝え方も進化中だ「日本での国際大会は4年ぶり。他の国の選手がいなかったら(日本の女子は2人しか出場しておらず)2人でレースをすることになるので、ウクライナの選手が来てくれて本当に良かったと思う。昨シーズンより力強く一歩を進めるようになった。いい大会だった」(立位の岩本美歌)
昨春、大学生になり、環境が変化したという岩本 次世代の育成が課題北京2022冬季パラリンピックから1年が経ち、北京大会で金メダルを獲得した川除は、今季ワールドカップで初の年間王者に輝いた。
川除は話す。
「北京以降、体幹トレーニングを継続して淡々とやってきたことが、今回のシーズンにつながっている。クロスカントリースキーはいろんな種目があるので、その中で全部が強いという選手になりたいです」
この春、新社会人になる川除。ミラノ・コルティナ大会では複数金メダル獲得を目指すそして、今季ワールドカップ総合3位の新田は、今大会で、5kmクラシカル、10kmフリーも含めて3種目で表彰台に立った。
現在42歳で、北京大会後も現役を続行する。
「選手でもあり続けるが、他の選手も見て、全体的な引き上げをするのが僕の役割。ただ、川除選手と私がチームを引っ張る形でシーズンが終わってしまったのは残念。10代、20代の選手たちに上がってきて欲しいです」
新田、川除に続く日本選手がワールドカップの表情台に上がる日まで、レジェンドの挑戦は続いていく。
「レースの後はみんなで頑張りを称え合う。その雰囲気がワールドカップとはまた違ってよかった」と新田text by Asuka Senaga
photo by X-1
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