車いすテニス・国枝氏とリオパラ金メダリストが明かす、超一流の思考法
パラサポWEB / 2023年5月10日 7時45分
「天皇杯・皇后杯 第39回飯塚国際車いすテニス大会(ジャパンオープン)」の決勝戦後に行われた「ITF UNIQLO 車いすテニスクリニック with 国枝慎吾&ゴードン・リード」。次世代を担う9歳から18歳のジュニアプレーヤー14名を前に、国枝慎吾氏とリオ2016パラリンピック金メダリストのゴードン・リード選手(イギリス)というトップオブトップの二人が思考法を披露。どの競技にも通じるヒント満載の充実した時間となった。
「引退後、テニスをサボっちゃった」という国枝だが「今日は覚悟しておけよ!」とトークで盛り上げ、参加者を迎え入れた 緊張をプラスに変換イベントの最初に行われた車いすテニスクリニックでは、国枝とリードがジュニアプレーヤーたちを相手に熱のこもったラリーを繰り広げ、実践を通じて上達のコツを伝授した。 その後、二人によるトークセッションを開催。司会者や参加者からの質問に答える形で、試合前から試合中、そして試合後に何を考え、大切にしているかが明かされた。
だれもが経験し、乗り越えなければならないのが「緊張」だろう。ここ一番、という試合の前や試合中はもちろん、練習でも「ミスしないで」と言われた途端に、体がかたくなってミスを連発してしまう、ということはよくあるもの。大舞台を何度も制してきた二人は、緊張とは無縁に見えるが、決してそんなことはない、と声をそろえる。
「試合前のウォーミングアップでうまくいかないと、イライラしてくる、ということが結構ありました」(国枝)
「僕も若いときは緊張して不安で、緊張しないようにするにはどうしたらいいのかな、ということばかり考えていました」(リード)
「試合経験を積めば、ここからこの大会で優勝する選手が出てくる可能性があるなと感じました」と国枝では、緊張とどうつき合ってきたのか。
「メンタルトレーナーのアン・クインに『どうにかならない?』って聞いたら、『試合に対して緊張してるから、一つのミスにイライラしているわけ。緊張イコール五感が研ぎ澄まされているということ。だから、緊張していたら戦闘準備に入っているんだと考えなさい』と言われて。それ以降、試合前は必ず緊張している自分をつくる。そのことで、『俺は戦闘準備に入ってるんだ。いつでもコートに行けるんだぜ』と自分自身で認識するということが、キャリアの中ですごく役に立った。そう考えると、緊張してどうしよう、とはならない。かたさはいつか解き放たれて、最高のショットが打てるはず、と考えればいいのではないかと思います」(国枝)
リードは「参加者のレベルが高くて驚きました。母国のイギリスに帰ったら、車いすテニスの団体に『日本はすごい選手が育っているよ』と、警告という形で伝えようと思っているほどです」リードも緊張を肯定する。
「緊張するということは、言葉を替えれば、情熱があるということ。いろんなコーチに会い、メンタルトレーニングを受け、練習を積むことで、緊張をプラスに活かせば、集中力が格段に上がるということがわかりました。だから、とにかく練習をする。そして、緊張をコントロールできるようになることが大切です」(リード)
また、試合前の過ごし方を問われ、対戦相手の分析をする、と答えたのは国枝だ。
「その試合でどう戦うか、しっかりと戦略を立ててから試合に臨みます」(国枝)
とはいえ、対戦相手もトップレベルの選手。3セットもすると、国枝が用意した戦略を破ってくるという。しかし、それも織り込み済みという国枝は、そこからが大事と力を込める。
「自分の引き出しの中に二の矢、三の矢を持っておくことがすごく大切。一つ目の引き出しは破られたけど、実はこっちもあるんだぜ、と、試合中に別の戦略を出していく。すると、相手も別の引き出しを開けて対応してくるわけです。トップレベルになるほど、引き出しの開け合いなんですよ」(国枝)
多くの引き出しを持つには、やはり練習が基本となる。
「試合で使うためのテクニックや戦略は、練習で一つひとつ築き上げていく。そうして、自分の中にたくさんの引き出しを持つようになると、一つの戦略に縛られることなく、試合中にどんどん修正できるようになる。結局、そういう選手が強いんだと思います」(国枝)
「天皇杯・皇后杯 第39回飯塚国際車いすテニス大会」の決勝戦後に行われた車いすテニスクリニック 負けたときこそ、成長のチャンス試合であれば、勝者もいれば敗者もいる。自分が負けたとき、ただ落ち込むだけではなく、悔しい気持ちをどう活かすか、ということにも話が及んだ。
国枝は、負けたときがチャンス、と語る。
「もちろん、負けた瞬間はへこみますよ。でも、シャワーを浴びて、ビデオを分析し、敗因を明確にする。なぜ負けたかということを理解すれば、次にコートでやるべきことがわかる。だから、負けたときほど、僕はモチベーションが高くなっていました」(国枝)
パラリンピック金メダリストの国枝(左)とリードという豪華な顔ぶれリードも同意見だ。
「みんな、必ずどこかで負けます。負けたときほど学ぶチャンス。自分が負けた試合を振り返って反省し、どうしたら乗り越えられるかを考えて次に活かす。そうしたら次の試合で必ずうまくいくと信じる力が出てくるし、メンタルを鍛えることで回復力につながります。ファイティングスピリットもさらに高まって、必ず次の試合ではもっといいものができると思っています」(リード)
国枝は、勝っているときの方がモチベーションを保つのが難しい、とも明かす。
「勝ち続けていると、『次、何したらいいの?』となる。でも、負けている選手はみんな僕を目指してくるし、やることがわかっている。勝った方がやることがわからないと、いつの間にか追いつかれ、追い越されちゃう。だから、結局、勝っても負けても、やることを見つけなくちゃいけない。負けているときほうがより簡単(に課題を見つけられる)と思うと、負けたことも受け入れられるし、よりポジティブに捉えられるかなと思います」(国枝)
目を輝かせながら聞き入るジュニアプレーヤーたちに、惜しみなくアドバイスを送る国枝とリード。それも自身の経験があってこそだ。
真剣な表情で二人のアドバイスを聞く参加者たち「どうしてもウィンブルドンで勝ちたかったのに、ゴードン(リード)に1回戦で逆転負けして、結構落ち込んだ年があったんです。その後、ちょうどユニクロのイベントでロジャー・フェデラーと話をする機会があった。フェデラーは芝の帝王といわれるほど芝が得意なので、グラスコートの戦い方を質問したら、『リスクを恐れるな。攻め続けろ』と。それは、彼に聞く前から僕もそう思っていたことなんです。でも、フェデラーが言うなら間違いないと思い、決勝戦で追い込まれたときに迷わず行ったら勝てた、ということがありました。そのとき、本当に強い方からのアドバイスは、頭や心の中に残り続けて、自分を助けてくれるなと感じた。みんなにとって僕らがそういうふうになれるといいなと思っています」(国枝)
これには後日談があるという。フェデラーにこのエピソードを伝えたところ、フェデラーは、「実は、だれにでも同じアドバイスをしている。シンプルなことだが、それを活かして結果に結びつけたのは、シンゴのすごさであり、超一流の証」と言ったそうだ。
今回のイベントで二人が語ったことを、しっかりと自分のものにできた選手が、次のトップ選手として台頭してくるかもしれない。
参加した矢野蒼大さん(高校1年)は「(一緒にラリーできて)とても楽しかったですし、一緒にプレーしたことが自信になります」text & photo by TEAM A
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