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パリを見据えて覚悟を口にする若手とベテランに注目! ワールドトライアスロンパラシリーズ横浜大会

パラサポWEB / 2023年5月17日 8時8分

5月13日、横浜市山下公園周辺特設会場で開催された「ワールドトライアスロンパラシリーズ横浜大会」。

エリートパラは昨年に続き、雨模様の中で行われた。スタートは予定より10分遅れ、朝7時に。海外の有力選手の参加する中、車いす(PTWC)の木村潤平が初優勝、東京2020パラリンピック銀メダルの宇田秀生(PTS4)が4位、同大会銅メダルの米岡聡(PTVI)は3位だった。

復帰2戦目で実感した競い合える喜び

東京2020パラリンピックの金メダリスト、銀メダリストが来日した女子PTS2クラスは、同日本代表の秦由加子が出場した。女子で唯一の日本勢。昨年は欠場し、沿道から同じクラスの仲間であり、ライバルのアメリカ選手に声援を送っていたが、今年は選手としてレースに戻ってきた。

スイムを得意とする秦。女子PTS2は強豪が集結した

右大腿切断の秦は、東京大会直後の2021年11月に右脚を手術し、しばらくの間、競技から遠ざかっていた。

スイムを得意とし、東京大会でも真っ先に水から上がった秦だったが、この日は2選手にスイムで先行された。レース後、「ついていきたかったが、けっこう先を行かれていて追いつかなかった」と振り返った秦。

「私の強みであるスイムで間を開けられ、バイクで周回を重ねる度にトップの選手と差をつけられた。世界の選手は強いなと感じた」と悔しそうに続けた。

最終順位は6人中5位。トップのヘイリー・ダンス(アメリカ)から14分遅れのフィニッシュ。それでも、フィニッシュ直前に見せた充実感に満ちた笑顔が強く印象に残った。

「久々にレースをしているのが、すごく楽しくて」

そう報道エリアで話しながら、思わず涙をこぼした秦。

「(レースに出られなかった期間、)一人で練習をしていると、ライバルがいないので、自分がどれくらい強くなっているのか、どれくらい練習の成果が出ているのかなかなか(現状が)わからない。健常者の中で練習をしていると常に後ろから追いかけるというような練習なので、バイクに乗りながら『レースって本当に楽しいな』と思いました」

約1年半前、秦は右足の大腿骨を3㎝短くし、筋肉で(内側から筋肉を引っ張ってきて)先端を覆う手術をした。ランで生じる右足先端の痛みに悩んでいたためだ。レース復帰までには日数を要したが、「手術をやってよかったかどうかは、自分次第と思っている」とパリを走る自身をイメージして前を向く。

昨年末に練習を再開。骨と筋肉のバランスが変わり、義足も作り直して再スタートした

前例のない手術は、パリ2024パラリンピックで結果を残したい気持ちはもちろん「一生、長くスポーツを続けていくためにも可能性があれば……」と決断して臨んだ。「走れなくなっても悔いなし」と選択した道だったというが、「足の状況はすごく回復してきている」と話す。

今回は、オーストラリアでのワールドトライアスロンパラシリーズ開幕戦に続き、秦にとって復帰2戦目。これまでは5㎞を走るランで「3㎞を過ぎたあたりで先端に痛みがあった」が、2戦ともに最後まで痛みは生じなかったという。

パリの選考レースには間に合った。大会前の記者会見で「今年1年は、すごく大事な1年になる」と意気込む一方で、3月の復帰戦の時点で「自分としては少し後退したような1年を過ごした」と不安を明かしていた秦。この日のレースで実感した悔しさとレースの楽しさが、次なるレースに向けた大きな糧になることは間違いない。

ハイレベルなPTS5でバトンをつなぐ

11選手が出走したPTS5男子は、23歳の梶鉄輝が同クラスで日本勢最高の7位に入った。

「普段から(佐藤に)早く抜けと言われていたのでやっとです」と梶はカラッとした表情でコメントした。

オランダを拠点にし、パリパラリンピックに向けて強化を図る梶

リオ2016パラリンピック日本代表で、日本のパラトライアスロンチームをけん引してきた佐藤圭一は9位。横浜大会で初めて梶が先着した。

クロスカントリースキー、バイアスロンの日本代表としても活躍し、夏冬二刀流のパラリンピアンとして知られる佐藤はスキーのトレーニングの一環でトライアスロンの挑戦を続ける。しかし、43歳の心は複雑だ。

「梶くんには『40代のおっさんはさっさと引退してよ』というぐらい強くなってもらわないと」と佐藤が言えば、「ちょっとずつ結果で表すことができたかな」と梶は言う。

それでも世界との差はまだ遠い。東京大会は出場できなかった梶は昨年夏からオランダに拠点を移し、パリを見据えて強化中だ。アイアンマンなどの長い距離のレースで持久力を鍛えた成果もあり、今大会では最後のランパートも苦しい中で粘ることができたという。課題としてるランのスピードアップが上位進出へのカギになるかもしれない。

「(雨によるコース変更で)スリッピーな赤レンガのコースはキャンセルになったが、得意のバイクでしっかり耐えることができた」と手ごたえを語った梶。

バイクが得意。「僕は雨で寒いの大好きなので」と気合十分で臨んだ

5月15日現在の世界ランキングは15位。1年前に目標と語っていた一桁には届かなかったが、いよいよ7月からパリに向けた選考レースが始まる。新たなパラリンピアンが生まれるか注目だ。

マウンテンバイクで泥や土のコースを走った経験があるため、「雨の路面もストレスがない」。ランで2選手に抜かれたが、まずまずのレース展開に手ごたえを感じていた

text by Asuka Senaga

photo by X-1

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