【追っかけコラム】同じゴールでもこんなに違う……ブラインドサッカー節目の大会で感じた競技力の進化
パラサポWEB / 2023年7月14日 15時32分
「勇気のさきに自由がある」「頂点は見えている 見えないサッカー日本一決定戦」「栄冠を焼き付けるのはその胸だ。」ブラインドサッカー(ブラインドフットボール)の日本選手権「アクサブレイブカップ」観戦を呼びかける、歴代ポスターキャッチコピーの数々だ。
それらのコピーからは、かつて無名だった“ブラインドサッカー”という競技の価値を高め、競技の本質的な魅力を伝えようという関係者の熱がひしひしと伝わってくる。
第20回大会は「パペレシアル品川」の初優勝で幕を閉じたその日本選手権は、クラブチーム日本一を決める国内最高峰の大会のひとつ。2023年2月に20回目の決勝が行われ、日本代表キャプテン川村怜率いる「パペレシアル品川」の初優勝で幕を閉じた。
優勝インタビューに応じた小島雄登監督は、20回という節目について「ブラインドサッカーを始めてくれた方がいるからこの舞台がある」と礎を築いた人たちへのリスペクトを表した。
川村と黒田の日本代表エース対決が盛り上げた直近の年で22チーム出場の日本選手権も、20年前は4チームで始まった。2003年の第1回大会は、関西地区の選手により構成された「西日本セレクターズ」が初の栄冠に輝いている。
当時の逸話が興味深い。ブラインドサッカーでは選手が相手に向かっていく際に危険な衝突を避けるため「ボイ!」という声を発するが、当初は各チームがオリジナルの言葉で声出しており、西日本セレクターズは「まいど、まいど」と言いながらプレーしていたという。
さらに、今大会の決勝で「パペレシアル品川」に0-1で敗れた「たまハッサーズ」のエース黒田智成は、「つくばアスティガース」のメンバーとして第1回大会に出場している。20年前は「半ズボンで出場しなくてはならないことを知らず、長ズボンでプレーしていた」という思い出話をする。
第1回大会から出場している現役日本代表の黒田 20年前の第1回大会では……第20回大会は裏方として走り回っていたJBFAの井口健司事務局次長は、第1回大会は観客として現地にいた。
当時を回想する。
「アイスホッケーのように壁が囲まれているコートを利用して大会が行われていました。実はコートのサイズがブラインドサッカーの規定よりも小さかった。でも、現在の日本代表のように縦横無人に走り回るわけではないので、窮屈そうには感じませんでした」
決勝戦は1-0。第20回大会と同じスコアだが、井口氏によれば「『得点になればラッキー』という感じのキックから生まれたゴールだった」という。
「西日本セレクターズ」を指揮していた風祭喜一監督は証言する。
「あの頃はシュートと言っても、ドリブルからの流れるようなシュートではなく、ボールをいったん止めてから『せーの!』とボールを蹴っていた。第1回大会は目の見えない選手がトラップをするなんて考えられなかったんですよ」
風祭氏によると、決勝点は西日本セレクターズ・天川哲史の偶然のゴール。「右のコーナーから誰にパスをだすのかなと思ったら、サッカーでいうところのセンタリングをするような形でそのままゴールに入っちゃったんです。たまたまですよ」
国内のトップ選手がトラップをして豪快なシュートを放つようになったのは2005年の第4回大会の頃。今では、ドリブルでフェイントを仕掛け、見えない選手が見えない相手を横にずらしてシュートするようなテクニックも見られるようになった。
たまハッサーズの田中(右) 東京パラリンピックで躍動した強豪クラブのエースたち長い年月をかけて進化したのはオフェンスだけではない。第20回大会で決勝ゴールを挙げた川村のシュートは、たまハッサーズの守備の要・田中章仁によって一度は弾かれた。
川村は「1本目は右足のトーキックで狙ったのですが、ブロックで入られてしまって、(田中について)さすがだなと思った」と振り返る。
しかし、川村はさらに上手を行く。ボールを奪い返すと、瞬時の判断で再びシュートを放ったのだ。
「いい形で体を入れて自分の前にボールを置くことができたので、あとゴールに流し込むだけだった。そこは冷静にシュートできたなと思っています」
大会MVPを獲得した川村2004年から2011年まで男子B1(全盲)日本代表監督も務めた風祭は言う。
「当時から黒田ら代表クラスの選手は、この競技の強豪ブラジルを真似て(ボールの音を消す)空中のパスやダイレクトシュートなど合宿や遊びでいろんなことを試していた。得点として決まったことはなかったが、東京パラリンピックの順位決定戦で川村の浮き球を黒田がハーフボレーで決める“奇跡のゴール”が生まれた。異次元に進化した彼らには驚きしかありません」
第20回のMVPを獲得した川村でも「ボールコントロールできるようになるには長い年月がかかった」という。個人技も組織力も進化中。クラブチーム日本一、そしてパリ2024パラリンピック出場を目指すブラインドフットボーラーたちを、これからも追いかけていきたい。
観声に応える選手たち。20年の年月を経て観られるスポーツになったtext by Asuka Senaga
photo by Sayaka Masumoto
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