2023年女子サッカーW杯の楽しみ方入門
パラサポWEB / 2023年7月19日 7時15分
東日本大震災による悲しみが日本中を包んでいたその年に、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップ(ドイツ大会)を制したことで、“NADESHIKO”の知名度は日本国内外を問わず爆上がりした。4年に一度行われるそのサッカーの祭典が、7月20日(木)〜8月20日(日)にオーストラリアとニュージーランドで共催される。あの興奮から12年、世界の女子サッカーの勢力図は大きく塗り替わった。そこで今回は、女子サッカー初心者に向けて、女子サッカー最新事情からW杯の見どころ、注目選手までを紹介したい。また、W杯のピッチではこれまでにも様々な形で社会的問題提起をする選手たちの姿を目にしてきた。アスリートの立場から明確な意思表示をする姿には一切のブレがない。そんなW杯らしい一面もぜひ探してみてほしい。
世界で今、女子サッカーが限りなく熱い!![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2023/07/18111839/9d0558352229f942c5d9b93a372247fa.jpg)
その陰にはヨーロッパ勢の急成長がある。前回の2019年フランス大会ベスト8の顔ぶれはアメリカ以外すべてヨーロッパ勢だった。2022年のヨーロッパ女子チャンピオンズリーグ準決勝ではFCバルセロナ対ウォルフスブルク戦で9万1648名もの観客を集めたことで世界を驚かせる。今年に入ってイングランドサッカーの聖地であるウェンブリースタジアムで行われたFAカップ決勝では7万7390名の観客を動員。今、ヨーロッパ女子サッカーは間違いなく熱い。
その要因の一つとして挙げられるのが国内リーグプロ化への着手、またはその充実だ。例えばスペイン。10数年前のスペイン国内リーグは当時なでしこリーグの覇者であるINAC神戸レオネッサと対戦しても全く歯が立たない状況だったが、プロ化へ向けてリーグ自体が国からの支援を受け、また世界的人気クラブである男子チームのビッグマネーも女子チームに投入され、瞬く間にチャンピオンズリーグで上位に名を連ねるチームへと変貌を遂げた。
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より刺激ある環境を求めて、熊谷紗希、南萌華(ともにASローマ)、清水梨紗、林穂之香(ともにウェストハム・ユナイテッド)、長谷川唯(マンチェスター・シティ)、長野風花(リバプールFC)らをはじめ、ワールドカップ最終メンバー23名のうち、9名が海外チームで活躍している。
W杯で期待が高まる、日本女子サッカーの飛躍![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2023/07/18111729/f4dee52d4b65dc33df74b9afd12c50e7.jpg)
世界で女子サッカーの勢力図が変わりつつあるとはいえ、まだまだ発展途上の域にある国や地域も多い。そのため、FIFAも今大会から新たにすべての参加選手に3万ドルを分配することや(チーム成績によって増額)、優勝賞金も29万ドルにまで引き上げるなど女子サッカーの価値向上に注力している。こうしたスポーツ界での動きは、昨今のジェンダー平等にも貢献していると言えるだろう。
日本も世界の潮流に取り残されないため、そして女子サッカー発展のために、2020年にプロ化に踏み切った。Women Empewerment League(WEリーグ)である。先進国の中でもジェンダー意識が低いと指摘を受ける日本の現状下であえて“女性活躍”を理念に掲げての覚悟の船出だった。とはいえ、社会問題でもあるジェンダー平等を日本スポーツ界で浸透させていくことは簡単ではない。選手のみならず、WEリーグに関わるすべてにおいて意識改革を行いながらその歩を進めているところだ。しかし、コロナ禍も重なり、2シーズン目の平均観客動員数は1401名と、目標に掲げた5000人を大きく下回り、世界のトップ選手が興味を持つリーグとなるにはまだ時間がかかりそうだ。それには、まず勝利する姿がなければ人々の耳目を集めることは出来ない。
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“なでしこジャパンの活躍”は必ずWEリーグを後押しするが、2011年のW杯ドイツ大会で遂げた初の優勝、翌カナダ大会で準優勝、ロンドン2012オリンピックで銀メダル……当時、なでしこジャパンに対する期待値は、最大限に高まってしまった。だが、そんな大きな期待とは裏腹に、リオデジャネイロオリンピック出場を逃してから、W杯フランス大会でベスト16、東京2020オリンピックで準々決勝敗退と、絶好のアピールの機会で成績が振るわず、なでしこジャパンは人々の興味の対象から外され続けた7年間だった。そんな厳しい状況にあるからこそ、日本女子サッカー飛躍のきっかけにしたいのが、今回のW杯オーストラリア&ニュージーランド大会なのである。
男子にはない日本女子サッカーの魅力、見どころ![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2023/07/18111802/d99f4e7096b6d087160e4e7b6d1cc742.jpg)
よく「男子よりスピード、迫力面で見劣りする」という意見を耳にする。確かに比べるとそういう意見も出るだろう。ただ別の競技と捉えれば別の角度で面白さは発見できる。2011年のなでしこジャパンが巻き起こした旋風は世界の女子サッカー界に影響を与えたと言っていい。男子のようなサッカーではなく、女子ならではのサッカーを見せたからだ。日本の選手は世界と戦うにはフィジカルでは分が悪い。それをアジリティや戦術でカバーしていく、いわゆる“柔よく剛を制す”を体現している。
男子の試合では一瞬で事が起き、卓越したテクニックで一気に勝敗が決するスピード感と臨場感が見る人を惹きつける。女子の場合はスピードがない分、ボールを持たない選手の動きや、選手同士の連動など、チームの戦術を時差なく自らの視点として見つけることが出来る楽しさがある。オンオフの表情が大きく変わるギャップも魅力の一つ。どの魅力を見いだすかは見る者次第なのだ。
W杯での注目選手は? なでしこジャパンのキーマン![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2023/07/18111821/34a6ac9b6bb63e2d598d87c652bfc015.jpg)
再び頂点を目指そうと奮闘しているなでしこジャパンにはカギを握る選手がそこかしこに存在する。もちろん、唯一世界一の景色を知るキャプテンの熊谷はその筆頭である。世界屈指のクラブチームであるオリンピック・リヨンでヨーロッパチャンピオンを経験し、チャンピョンズリーグ決勝で得点を決めた初の日本人選手——など輝かしい経歴だけでも彼女の存在の大きさを計ることが出来るだろう。
しかし、このチームが戦う集団になるためには殻を破る若い力が不可欠だ。あえて一人の名を出すなら、藤野あおばを挙げたい。
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昨年のU-20女子W杯準優勝メンバーで前線やサイドでのプレーに定評がある。U-20代表卒業後間もなくなでしこジャパンに招集されて今やスタメンに名を連ねる19歳。冷静なプレーに見えるが「感情が高ぶる性分」(藤野)と自己分析する。本人に自覚はないようだが、キックの精度が高く、池田太監督もU-20代表でもキッカーとして指名してきた。パワーで押される展開になったとき、セットプレーはチームを助ける。彼女のキック力がW杯レベルに引き上げられたなら、得点不足の現状を打開できる一手になるだろう。アシストだけでなく、自ら足を振れるのも彼女の強みだ。芯を食った重みのあるシュートはいつゴールネットを揺らしてもおかしくないワクワク感を抱かせてくれる。今はまだ周りを生かすことが第一選択肢となっているが、自分が生きることで生じる貢献度をしっかり認識すれば、藤野を取り巻いている殻など一気に吹き飛ばすことが出来るはずだ。本人も「思い切り暴れようと思います!」と腹も括っている。
中堅選手は自分たちが牽引する責任を背負わなければならない。若手は懸命に力を出し切らなければならない。自分が引く限界の先へ手を伸ばさなければ掴むことが出来ないものがある。世界と対峙しながら自らの殻を打ち破る選手が多く出てくればくるほど、再び見えてくる景色がきっとあるはずだ。
世界と戦うということはフィジカルに差のある相手と対峙するということ。なでしこジャパンがそこをどう攻略していくのか、ピッチ上での創意工夫されたプレーに注目してもらいたい。そして選手たちにはW杯という舞台を全力で楽しんでいる姿を見る人すべてに届けてほしいと思う。また、W杯では各国キャプテンが腕に巻くアームバンドは社会的大義を強調する8つのデザインがある。彼女たちが大舞台でどんなメッセージを腕に巻くのか、そこに出場国が抱える社会課題を感じ取ることが出来るかもしれない。
PROFILE 早草紀子
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からはJ2リーグ大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員。国際スポーツプレス協会会員。
text & photo by Noriko Hayakusa
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