習い事で人気のスケボー。教育的メリットは?
パラサポWEB / 2023年7月24日 7時0分
東京2020オリンピックでの大躍進もあり、今やすっかり世間に認知されたスケートボード。颯爽と滑走する選手たちに、多くの子どもが憧れを抱いたことでしょう。しかし親からしたら、「スケボーやりたい!」と言われても、「習い事としてはどうなんだろう?」とか「興味関心はあるけどどうして良いのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。そこで元プロスケーターであり、現在は理学療法士の資格を活かした独自のメソッドで有名選手を多数輩出している中坂優太さんに、スケートボードの教育的メリットと、子どもがスケートボードを始める前に知っておきたいことについて伺いました。
年々急増するスケートボードの子ども需要ーーなぜ今、子どもにスケートボードが人気なのでしょうか?
中坂さん(以下敬称略):単純にカッコいいからではないでしょうか? テレビやアパレル、広告でもよく扱われるようになり、スケートパークも増え、一般の子どもたちが目にする機会も増えました。身近なところで環境が変わってきていると思います。
その最たる要因はオリンピック競技採用でしょう。それで世間一般に幅広く認知され、競技性が加速したと感じます。昔と比べて不良がやっているという印象も薄くなって、子どもの競技人口が多くなり、親が抱く印象が大きく変わってきました。将来性といった意味でも、親が子どもにやらせるスポーツに選ばれるようになってきたのだと思います。
出典:NPO法人 日本スケートパーク協会「2023年 日本全国公共スケートパーク総数調査報告」よりーー実際にはどれくらい増えているのですか?
中坂:スケートパークの数とコンテストの参加者の推移を見ると一目瞭然です。日本スケートパーク協会さんによる調査では、2017年の時点で公共のスケートパークはおよそ100ヵ所だったのが、2021年には243ヵ所と急増し、今年は434ヵ所にまで増えています。
そして施設の数が増えれば、当然スクールの数も増えます。SNSを見ても全国的に多くなっている実感があるので、確実にキッズスケーターの数は増えてますね。
となると、必然的にコンテストへの参加者も増えます。僕が教えている子も出場しているFLAKE CUPという小学生以下限定の全国大会があるのですが、首都圏では東京2020オリンピック前の2020年は93名のエントリーだったのが、直後の2021年12月は倍以上の196名、さらに昨年は268名と、オリンピック前の3倍弱にまで数字が伸びています。
参加資格が小学生以下のスケートボードコンテスト「FLAKE CUP」の一コマ。東京オリンピック後から参加者が急増しているーーそこまで子どもたちを夢中にさせるスケートボードの魅力とは何でしょうか?
中坂:”成功体験”だと思います。スケートボードは難しいだけに、技ができるようになると楽しくて仕方ないんです。新しい技ができると、また次の新しい技へ展開していく。数日乗らない日が続くと、できていた技ができなくなって、また挑戦する。小さなステップを登ったり降りたりしながら、嬉しい、悔しいなど、気持ちが大きく動きます。そういったことの連続なので、良い意味で中毒性がありますね。
中には難しくて続かない人もいますが、ファーストステップをしっかりと踏めれば、みんな楽しめるようになると思います。親御さんも子どもが汗をいっぱいかいて夢中になる姿を見るのは嬉しいですし、「家でYouTubeを観るより、外で身体を動かしてる方が全然良い!」と、よくおっしゃってますね。
スケートボードの教育的メリットとは?元プロスケーターであり、理学療法士の資格も持つスケートボード指導の専門家、中坂優太さん
ーースケートボードは子どもにとってどんな学びや成長がありますか?
中坂:身体能力の面でいうと、スケートボードは横を向いてバランスを取りながらジャンプしたり回ったりします。その特性ゆえジャンプする筋肉や横の動きに使う筋肉が発達します。以前あった話ですが、スケートボードをしている小学生で、スポーツテストの垂直跳びと反復横跳びがズバ抜けて成績が良かったようです。他も同じような結果の子が多いので、やはり足腰が丈夫になり、バランスや瞬発力が良くなっていく傾向にあると思います。
ーーでは精神的な面ではいかがでしょうか?
中坂:スケートボードは上手くなればなるほど恐怖心との戦いになります。よくテレビなどで、プロ選手が試合会場にある大きな手すりを滑り降りるシーンを見ることがあると思いますが、あのような細いレールの上に初めて乗る時は誰でも怖いものです。ボードがすっぽ抜けてしまって転んでしまうんじゃないか!? 股を打つんじゃないか!? と挑戦する前はヒヤヒヤします。だからこそ、恐怖心を克服する「自分越え」を経験することで精神力も養われるのですが、そもそもケガのリスクがあることをこなすこと自体、とても難しいものです。
そこで重要になるのが「環境」です。その子に合った技の選択と挑戦できる場所を整えること(セクションと呼ばれる障害物の高さや角度を調整したり、転んでも痛みの少ない素材を使用した路面で行うなど)が大事なんです。いきなり高いところから降りようとしても怖さとケガのリスクしかありません。なので、高さやスピードを徐々にステップアップできるように、頑張ればちょうどできるくらいの環境を設定してあげることで、諦めないマインドをつくることができると思っています。
誰かが技を成功させれば、年齢、世代、性別の壁を超えて讃えあう。このようなハイタッチは、スケートボードの世界ではごく自然な光景であり、文化だーー他にはどんな学びがあるのでしょうか?
中坂:この世界では、技が成功すると周囲の人も同じように喜んでくれることがよくあります。イェー!とスケートボードを地面に叩きつけてバンッバンッ!! と音を出したり、近寄ってきてハイタッチしたり、世代を越えて話したこともない人とも喜びを共有するのは至福の瞬間です。そうして人との繋がりを感じることで、自然と仲間を大切にする意識が芽生えます。こういった素晴らしいマインドは独特の学びではないでしょうか。
子どもがスケートボードを始める前に知っておきたいこと中坂さんと、自身が運営するF2O PARKに通う子どもたち
ーースケートボードは何歳から始めることができますか?
中坂:ある程度歩行が安定して行える4~6歳くらいからが良いと思います。スケートボードはプッシュというボードを押し進める基本動作があります。これは板の上に片足を乗せてバランスをとる動作が必要なので、発達段階として、まずは地面で片足立ちができることが必要です。片足立ちができないと、スケートボードに乗ること自体に恐怖心を抱いてしまいがちなので、安定してできる4~6歳が目安だと思います。
ーースクールは何を基準に選べばよいでしょうか?
中坂:スクールは大きく分けて集団・少人数・マンツーマン・オンラインの4タイプに分けられます。初心者の場合は皆が同じような基礎を練習するので、仲間づくりの意味でも集団レッスンが良いと思います。その後ストリートやパークといったやりたい種目や、やりやすい回転方向などの得意な動きがわかってきたら、個々で指導内容が変わっていくので、少人数レッスンに移行していくのも手です。
オンラインレッスンは日頃の自主練習をサポートしてもらうのに最適ですね。ただ最近はこれら以外にも全国各地で気軽に参加できる体験会なども催されているので、まずはそういったハードルの低いものから参加して、感触を掴んでみるのも良いと思います。
ボードにうまく力を伝えるため、身体の傾きや膝の位置を誘導する中坂さん。こうしたできないことをできるようにする運動パターンの実践は、リハビリにも共通している。理学療法士ならではの指導法だーー先生選びはどんなところに気をつければ良いでしょうか?
中坂:教える技術はスケートボードの技術とは別物です。もちろん自身が滑走できることは教える最低限の条件になりますが、それだけでなく先生自体が多角的な目線を持って学び続けているか、どれだけ子どもと向き合おうとしてくれるかが重要だと思います。
私の場合、理学療法士としての医療の現場では、必ず患者さんの希望を伺い、それに対して必要なことを提案します。僕がスケートボードを教える時も、必ずその人の目指す目標や、得意分野に合った方向を示すようにしています。そのため一人ひとりアプローチの仕方や進むスピードが違います。個人に合わせた関わり合いができると、その分成果にも繋がりますよね。
ーーなかなか上手くならない時はどうしたらいいですか?
中坂:まず大前提に、スケートボードは練習してすぐに上手くなるものではありません。それを踏まえてできない理由を探ると、スキル、メンタル、発達、環境、道具の選定など様々な要因が考えられます。そこを的確に見定め、正しいアプローチをするのが上達の近道だと思います。
例えば、まだ地面で安定した片足立ちができない子どもに、基本動作のプッシュは物理的にできません。それを練習や気合いが足りないと言って子どもを否定するのは違います。原因は大人の知識不足なんですよね。そこを口酸っぱくいってしまうと逆効果です。もしご自身がスケートボードをされているのであれば、一緒にやって楽しむのも良いと思います。よく「好きこそものの上手なれ」と言いますが、とにかくお子さんが「楽しい」「好き」と感じられるように、一緒に成長していくつもりで接してあげてください。
私が運営しているスケートパークには、県外や海外から来場されるお客様が多く、初心者から国を代表するトップ選手までサポートしています。もし悩むことがありましたら是非お越しください。きっとお役に立てると思います。
プロスケーター & 理学療法士という中坂さんならではの知見を活かし、ボードの細かな形状から圧着までこだわり抜いて開発した自身のブランド「excellent」ーーデッキ(ボード)を選ぶ際のポイントを教えてください。
中坂:自分の身体に合ったものを選ぶことですね。それでやりやすさが大きく変わります。しかし、キッズ用と言われているデッキは市場には出回ってはいますが、根本的に子どものサイズに合っていない商品が多いと思っています。
ボードを立てた時に胸辺りまである長さや、片手で簡単に持てない重いものが主流です。これは大人のサイズ感と比べた時に違和感がありますよね。自転車のように身長別のサイズや種類展開があるべきだと思います。
このような悩みを解決したくて、「excellent」というブランドを立ち上げました。”上手くなるデッキ”をコンセプトに市場にはない6.5インチからラインナップしていて、軽くて、子どもでもコントロールしやすいシェイプを設計しました。初心者でもターンなどがしやすいものに仕上がっているので、ぜひ一度お試しいただきたいです。
中坂さんが運営するF2O PARKに通う子どもたちの多くが「excellent」を使っている。評判も上々だとのことーーケガの予防、身体のメンテナンスで親が普段から注意、サポートできることはありますか?
中坂:ケガの予防というところでは準備体操を習慣づけることですね。開脚したり、身体を反ったり、屈伸したり、基本的な準備体操はどんなスポーツにおいても大切です。実はトップ選手でも身体の痛みに悩まされる人は多いです。スケートボードはイレギュラーな動きが多く衝撃も強いので、ケガをする人が少なくありません。みなさん準備体操を怠りがちですが、子どもの頃からしっかり習慣付けることが身体を守ることにつながります。
また痛みを訴えるときは、何か異変がある時です。身体が出しているサインをしっかり受け取ってあげましょう。早めに対策ができれば変形や異常を防ぐことができるので、医療機関を受診するなどすぐに専門家に診てもらいましょう。
現在「新しいスポーツ」として注目を集めているスケートボード。東京オリンピックで話題になったように、個人競技でありながらも仲間意識や人とのつながりを感じられるのも大きな魅力といえます。ただ、いざ始めてみると、想像以上に難しいと感じることでしょう。でも今はスクールも充実してきて、気軽に始められる環境が整っています。そうして「自分越え」を経験することは、人生においても貴重な財産となります。
またスケートボードは多様性や自由な空気感も持ち合わせたアクティビティでもあるので、まずは気軽に始めてみてはいかがでしょうか? その先にはきっと今まで知らなかった「新しい世界」が待っているはずです。
【教えてくれた人】 中坂優太さん
プロスケーターとして活躍した経験を持ちながらも、理学療法士の資格も持つスケートボード指導の専門家。現在は静岡市内にてコンディショニングルームを併設したスケートパーク、F2O PARKを運営しながら、運動学に基づいた独自のシェイプを落とし込んだキッズデッキブランド、excellentを展開中。双方の知識と経験を活かしたオリジナルメソッドで行うスクールも好評を博している。
協力:F2O PARK(https://f2o-park.com)
静岡市葵区にある3階建て5種類のエリアからなる室内スケートパーク&ショップ。初心者からトッププロまで全国各地から様々な人が訪れている。
photo and text by Yoshio Yoshida
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