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ピンクのバッシュを履き続けるBリーグ選手、その心は?

パラサポWEB / 2023年10月5日 7時0分

日本人選手がNBAで活躍するようになったこともあり、国内でもますます人気が高まっているバスケットボール。そんな中、日本のBリーグのクラブ・アルバルク東京の選手たちが、毎年10月になるとピンクのバスケットボールシューズを履いて試合に出ていることが、話題になっている。チームで最初にピンクのバッシュを履き始めたザック・バランスキー選手にその思いを聞いた。

日本生まれのザック選手。毎年10月にピンクのバッシュで試合に挑む

アメリカ人の両親のもと、日本で生まれたザック選手は、4歳の時にアメリカに帰国。10歳で再来日し、小学校でバスケットボールを始めると、進学した東海大学第三高等学校(現在の東海大学付属諏訪高等学校)では、1年生ながら全国大会に出場。3年生の時にはインターハイでベスト4に進出した。その後、大学を経てトヨタ自動車アルバルク東京(現・Bリーグ アルバルク東京)に入団し、現在まで活躍を続けている。

そんな彼が2018年の10月にピンク色のバスケットボールシューズを履いてBリーグの試合に出場した。SNSにはファンが「かわいい」など単純にファッションとしてとらえるコメントを投稿していたが、後日彼はこんなメッセージを自身のSNSに投稿した。

https://twitter.com/zaaaack10/status/1049813515924455424

実は毎年10月はピンクリボン月間、つまり乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の重要性を伝える啓蒙期間で、ピンクはその象徴の色なのだ。

一人でピンクリボン活動を開始。今では半数近い選手が自主的に参加

アメリカではピンクリボン月間にピンク色のアイテムを身につけて、ピンクリボン活動に貢献しているスポーツ選手が多いという。

「アメリカに住んでいた子どもの頃、テレビでアメフトや野球、バスケの試合を見ていると、複数の選手たちが、チームカラーとは関係なくピンクのシューズを履いていて、母親に『なぜ?』と聞いたんです。その時にピンクリボン活動を知ったのですが、その頃はピンときていませんでした。でも成長してその意味がわかるようになった時に、母や姉など自分の周りの女性を大切にしたい、何か役に立ちたいという思いから、いつか僕もピンクリボン活動を始めようと考えるようになりました」

そして2018年、ザック選手はバスケットボールシューズを提供してくれていたアディダスに「ピンクのバスケットボールシューズはありませんか?」と相談。クラブには相談せず、ひとりでピンクリボン活動を開始した。その思いはファンやチームメイトにも伝わり、徐々に広まっていった。シューズを提供してくれているアディダスからはチーム全員にピンクのバッシュを提供しましょうか、という提案があったり、チームメイトの中には「全員でピンクのバッシュを履こう」と言ってくれたりする選手もいたそうだ。しかし、その提案をザック選手はあえて断ったという。

「すごく嬉しかったんですが強制はしたくなかったんです。選手全員にシューズを提供したり、チームの方針としたりしてしまうと、『履かなきゃいけない』と感じる人もいるかもしれない。そうじゃなくて自分が履きたいから履く、という方がその気持ちが見ている人に伝わると思うんですね」

アルバルク東京では、ピンクリボン活動に参加してくれたファンに、バスケットボールシューズをプレゼントするなどのイベントも開催。ピンクリボン活動についてはこちら 画像提供:アルバルク東京

それでも今では10月になるとチームの半数近い選手が自主的にピンクのバッシュを履いたり、アルバルク東京がザック選手プロデュースのチャリティグッズを販売し、その売り上げの一部を乳がん患者の会に寄付したりと、その活動は徐々に広がりを見せている。

「僕の気持ちを理解してサポートしてくれるクラブや、チームメイト、ファンの皆さんには本当に感謝していますし、ありがたいと思っています」

クラブが決めた上からの決定事項ではなく、自分たちが必要だと思うから自分たちで考えて行動する。だからこそ、説得力が生まれ、人々の行動に影響を与えているのではないだろうか。

ファンの命を救ったピンクのバッシュ
毎年デザインが変わるピンクのバスケットボールシューズを楽しみにしているファンもいる

こうした草の根的な活動を始めて5年が経ち、今年は6回目のシーズンを迎える。その間にさまざまな変化があったという。

「僕はもともと、バッシュが大好きで派手な色のものを履くことがあったので、ファンの方々も最初は『また派手な色のバッシュを履いてるな~』とか『ピンクのバッシュ可愛い』といった反応がほとんどでした。でも、最近は、10月がピンクリボン月間だということを初めて知ったとか、乳がん検診の大切さを改めて知ったという声も聞くようになりました」

さらに、この活動をきっかけに乳がん検診を受けたところ自身が乳がんであることが分かった、あるいは家族に検診を勧めたところ乳がんを早期発見できたという人から、感謝のメールが届くこともあるそうだ。

「ピンクリボン活動を知らず、あのまま検診をしていなかったら、早期発見できずに悪化していたかもしれない。検診を受けるきっかけを作ってくれて感謝していますという連絡をもらったこともあります。病気になってつらいのに、わざわざメッセージを送ってくださった方には、なんと返事をしたらいいのか分からない時もあるんですが、それでも『早期発見できました、ありがとう』と言っていただけると、この活動をしていて良かったと実感しますし、これからも1人でも多くの人に伝えて早期発見につながったらいいなと思います」

10月にピンクのバッシュを履くということは、乳がん検診の重要性を広めるだけでなく、実はすでに乳がん検診を定期的に受けている人たちにも役だっているそうだ。なぜなら、ザック選手がピンクのバッシュを履いているのを見て「ピンクリボン月間だから、検診を受けなくちゃ」と、リマインドになっているからだ。

おすすめは乳がん検診デート

ピンクリボン活動発祥の地、アメリカでは10月になると、各地でセミナーやシンポジウムなどさまざまなイベントが行われるという。その結果、アメリカの1989年から2020年における乳がんによる死亡率は、トータルで43%も低下したという。一方日本では全体の患者数は欧米に比べて少ないものの、患者数や死亡率は年々増加している。

厚生労働省 第82回がん対策推進協議会資料「がん年齢調整死亡率の国際比較」より

これにはさまざまな要因があるが、ひとつには諸外国に比べて乳がん検診の受診率が未だに多くないということがある。

「アメリカでは10月は乳がん検診に行こうというのが、当たり前になってきています。たとえば、ショッピングモールの一角に乳がん検診用の車両が駐められ、場所によっては無料で検診できたりします。日本でも、わざわざ病院に行くのではなく、そういう気楽に行ける場所などで検診ができるようになるといいですよね。たとえば、女性が一人で悩むのではなく、男性のパートナーが、一緒に行こうよと誘って映画デートをして、その帰りに検診に寄るというように、検診をデートプランに組み込むくらい普通のことになるといいんじゃないでしょうか。それに乳がんは女性だけでなく、男性もなる可能性がありますから、誰もが他人事じゃなくて、みんなが気軽に乳がん検診について話したり、検診を受けたりできたらいいなと思います」

ザック選手は2021年8月に元バスケットボール選手の石原愛子さんと結婚した。母親やお姉さんに加え、大切なパートナーができたことで、ますますピンクリボン活動の大切さを感じているという。家族はもちろん、ファンやその家族のためにも、これからもずっとピンクリボン活動を続けていきたいと話してくれた。

まずは知ることから。自分自身と大切な人を守ろう

ザック選手のパートナーである愛子さんも、当初はピンクリボン活動に関する知識はほとんどなかったそうだ。それでもザック選手を通して、その重要性を知ると「とっても素敵な活動だね」と、応援し協力してくれるようになったという。

「知らないことは、悪いことではないですよね。誰だって最初は知らないですし、それが当たり前です。でも早期発見の重要性、だから検診を受けた方がいいということ、どこでどんな検診を受けられるのかといったことを知るのはいいことですし、それを広めることで、多くの命が救われるのだとしたら、より多くの人に知ってもらえるように、これからも活動をしたいと思っています。スポーツ選手は、多くの人に注目され応援してもらえる舞台に立たせてもらっているわけですから、それを活かさなきゃいけないと思うんです」

そういうザック選手にとって、ピンクリボン活動は「やらなくてはいけないこと」ではなく、プロスポーツ選手である自分を支えてくれている関係者やファンに対する恩返しでもあるのだそうだ。今年のBリーグは10月5日に開幕する。ちょうどピンクリボン月間中なので、早速ピンクのバスケットボールシューズ履いてプレーするザック選手を見ることができそうだ。見てくれる人が元気になるようなプレーをしたいと意気込みを語ってくれたザック選手の今シーズンの活躍と、その足下に注目したい。


ザック選手の所属するアルバルク東京では、ザック選手の活動もきっかけとなり、運営会社の女性健康診断メニューには乳がん検診が追加されたそうだ。この記事を読んでいる人の中に、もしも未だに乳がん検診を受けたことがない、あるいは身近な人が受けていないという人がいたら、ぜひインターネットで「ピンクリボン」と検索して、その重要性を知ってほしい。ザック選手が言うように、まずは知ることが自身の、そして大切な人の命を救う第一歩につながるからだ。検診を受けることへの不安や、もしもがんだと診断されたら怖いという人もいるかもしれない。しかし、検診を受け早期発見をすることこそが、その怖さを回避できる方法なのだから。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

photo by Kazuhisa Yoshinaga

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