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産後の復帰、お金の話、キャリアプラン、次の妊娠…一児の母が語る競技復帰とこれから

パラサポWEB / 2023年9月29日 7時55分

競技への本格的復帰に向けて、第1子をいつ保育園に入れるか悩み中の、パラノルディックスキー・阿部友里香。ママアスリートとして1年先輩のパラ陸上・齋藤由希子は、この1年で保育園、子連れでの国内遠征、そして初めて子どもと離れた海外遠征と経験を積み重ねてきた。今回の対談では、ママパラアスリートの競技と子育てとの両立を考える。

阿部友里香(あべ・ゆりか)|ノルディックスキー

パラリンピック4大会目となる2026年のミラノ・コルティナ大会出場を目指している。「走りは得意ではないけど、いろいろな競技に興味あり。クロストレーニングでボートにも乗っています」。日立ソリューションズ所属。

齋藤由希子(さいとう・ゆきこ)|陸上競技

砲丸投げでパリ2024パラリンピックの金メダルを目指す。生涯自己ベストは12m96。「水泳はまったくですが、アルペンスキーにチャレンジしてみたいな。障害者野球をやろうか考え中」。SMBC日興証券所属。

子どもは遠征に連れて行ける!?

アスリート社員として企業に所属しているふたり。企業や競技団体によって産前産後のサポート体制も異なるようだ。早めの復帰にも共通の理由があった。

阿部友里香(以下、阿部):産休はどれぐらい取ったんですか?

齋藤由希子(以下、齋藤):2月の2週目ぐらいに産休に入って3月末に出産。そこから丸2ヵ月お休みしたあと復帰したので、3ヵ月半ぐらいでしょうか。

阿部:産後の復帰が早かったですね。

齋藤:これはひとえにお給料をもらうためです! 私はアスリート採用で、競技活動をすることでお給料がもらえることになっているんです。だんなに1年間の育休を取ってもらったのですが、その分、世帯収入が減ってしまったため、だんなの分も稼がなきゃと思って。阿部選手は、もう復帰しているんですか?

阿部:はい。スキーってすごくお金がかかるから働かないと。

齋藤:やはり、そうですよね。競技活動はお金が必要ですから。産前は自分の競技のことだけを考えればよかったのですが、産後、競技活動を本格的に再開すると、育児サポートにもお金がかかるようになりますしね。

「娘は夜もしっかり寝てくれるし、夜泣きもほとんどなくて助かっています。首が座ってから育児も少し楽になりました」と阿部

阿部:そうですよね。所属先が育児について金銭的なサポートもしてくれるんですか?

齋藤:私の所属先は理解がある方だと思います。社内には私以外にもママアスリートがいることもあって、遠征先に子どもと育児サポート要員を連れて行くために必要なお金を出す制度があるんです。

阿部:遠征はお子さん連れですか?

齋藤:国内では連れて行くこともあります。競技中はだんなが見てくれているのですが、子どもが気になって、「おむつを交換してね」って声をかけることもあります。それでも、むしろいい方向で集中できているという実感があるので、私にとって子連れで試合に行くことはマイナスではありません。

試合のアップ中、夫でコーチの恭一さんが娘の千遥ちゃんを抱きかかえながら齋藤にアドバイスを送る(写真は2023年4月の日本パラ陸上競技選手権大会)

阿部:では、海外遠征も?

齋藤:いえ、7月に世界パラ陸上選手権でパリに行ったときは、日本でお留守番をしてもらったんですよ。そうしたら、普段あまり夜泣きしない子が「ママ」って夜泣きしたみたいで。だんなとしてはそれがつらかったみたいで私に連絡してきたこともあったんですけど、時差を理由に気づかなかったことにして、あとで「大変だったね」って話を聞いてあげて(笑)

阿部:お子さんとだんなさんは、ずっとふたりきりだったんですか。

齋藤:ほとんどそうです。ただ、2、3日ほど母と弟に来てもらい、ご飯を作ってもらったりしました。手伝いをお願いするにも交通費などがかかりますから、その費用を所属先とスポーツ庁(国立スポーツ科学センターで行っている女性アスリート支援プログラム)から出していただいて、本当に助かりました。阿部選手は、普段はワンオペですか?

阿部:ほぼ、そうですね。うちのだんなは、お風呂と寝かしつけとミルク担当で。

齋藤:冬の競技って海外遠征が多いですよね。お子さんは連れていく予定なんですか?

阿部:じつは今、迷っていて……。1回ごとの遠征期間が長いですし、遠征先の環境もわからないので、母に一緒に来てもらうか、子どもを日本に置いていくか決めかねています。

photo by Tomohiko Sato 妊娠は4年に一度!?

無事出産し、競技活動に復帰しているふたりだが、保育園問題や次の妊娠、セカンドキャリア……など、悩みは尽きないようだ。

阿部:来年のパリパラリンピックはどうするんですか?

齋藤:悩んでます。パラリンピックは、世界選手権より遠征期間が長くなりそうですし、結局、子どものお世話は主人に全部任せることになるんです。だったら日本で保育園に通わせながらお留守番してもらった方がいいかなと思っているんですが。

阿部:そうなんですね。保育園に入れるのにもひと苦労じゃなかったですか。

齋藤:いろいろ調べましたよ。世界選手権の際も、実家で預けるとなったら、実家近くの保育園で一時保育を利用すれば親の負担も軽くなるかな、とか。

阿部:私もいま、保育園について調べているところなんです。競技がオフシーズンになる来年の4月からと考えていたのですが、それだと希望する保育園には入れなさそうで。だったら、月齢が6ヵ月になるこの秋から入れようかなと思ったんですけど、それだとちょうどスキーのシーズン中に風邪を引きそうですし。

齋藤:たしかに、うちの子は週の半分以上、お休みしていたこともありました。じきに落ち着きましたけど、大変ですよね。

「保育園に入れたばかりの頃はよく『娘さん、お熱出ましたよ』と電話がかかってきて週の半分はお休みでした」と齋藤

阿部:2人目は考えていますか? 私は競技を続けるにしろ引退するにしろ、産むなら4年に1回のつもりです。だから、次の子を考えるとしたら、2026年のミラノ・コルティナ大会が終わったタイミングだと思っているのですが。

齋藤:やっぱりお金と競技の問題があるので悩ましいです。とくにパリパラリンピックの後、さらに4年、競技をがんばってしまうと、2人目を考えるのが難しくなりそうで。だから、パリが終わったら、だんなと話し合おうと思っています。また、第一線で競技ができるのはあと10年ぐらいかなとも思っているので、引退後は、海外遠征にも帯同できるアスリート専属のシッターさんを事業化できないかな、とかも考えてるんですよ。

阿部:それ、いいですね! アスリートって練習や試合以外にもミーティングがあったりケアしたりと、結構忙しいんですよね。アスリートの気持ちや事情もくんで柔軟に対応してほしいと考えると、現状は母や知り合いに頼るしかないですから。

齋藤:2人目、3人目……と考えると、遠征や合宿があるたびに子どもと離れるわけにもいかないし、母親の精神面の安定のためにも子どもが一緒に行った方がいいはずですしね。

最後に、ふたりは自身の経験から同世代や次世代の女性パラアスリートの選択肢へと思いを馳せる。

阿部:もし妊娠・出産を考えている女性パラアスリートがいるのであれば、私のような人もいるんだよっていうことを発信することで何かの参考になるとうれしいですし、もっと道が開けるのでは、とも思っています。いまだに、女性アスリートは出産したら競技をあきらめなきゃいけないみたい雰囲気があるように思うんですよ。でも、女性アスリートだっていつまでも活躍できる可能性があるし、競技か出産・子育てのどちらか一つに絞らず、両方やってみればいいんじゃないかな、と思います。

齋藤:私の周りの若い女性パラアスリートは、競技を楽しんでいる人が多くて、結婚や妊娠・出産を強く望んでいる選手が見当たりません。でも、競技だけ、結婚・妊娠・出産だけと決めつけたり可能性を閉ざしたりせず、そのときそのときで柔軟に選択してほしいと思います。一見大変そうでも、私たちパラアスリートが工夫して競技や生活をしているように、何かしら方法はあるはずですから。

阿部選手の初めての出産ストーリーは完結!出産以降、自分の時間が取れず、正直、大変なこともありますけど、齋藤選手のお話を聞いて、改めて子どもを産んでよかったなと思えました。齋藤選手、楽しいお話をありがとうございました!

text by TEAM A

key visual by Hiroaki Yoda

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