実は親は子供の成長を邪魔しやすい存在?
パラサポWEB / 2023年11月13日 7時0分
スポーツの楽しさを知ると共に身体のみならず心の成長も期待できるユーススポーツ。そんな若い世代のユーススポーツにおけるコーチングとして注目を集めているのが“ダブル・ゴール・コーチ”。前記事では、コーチングの教科書として絶賛されている書籍『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)から、指導者のコーチングについてまとめた。ただ、若いアスリートにとっては、指導者だけではなく保護者の影響力も無視できない。今回は、そんな保護者が子どもたちにどう向き合えばいいかについて同書からご紹介しよう。
保護者は子どもの成長を邪魔する存在!?“ダブル・ゴール・コーチ”とは、簡単に言えば、スポーツすることのゴール(目的)を「勝利」だけに限定するのではなく、人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを学ぶ“2番目のゴール”を重要視する指導法のことだ。これは、指導者に限ったことではない。保護者も同様に考えなければいけない。
保護者であれば、子どものために一番いいものを与え、いい経験を積んでほしいと思う。そして、将来的には成功を収め幸せな人生を送ることを望むのは当然だ。しかし、保護者の行動は、真逆の効果となることも多い。本書の著者ジム・トンプソンは、数年前オハイオ州で行われたある試みについて以下のように紹介している。
保護者が子供のサッカー体験を台無しにしないように、革新的な方法を編み出した。彼らはそれを「サイレント・サンデー」(静粛な日曜日)と呼び、「試合中サイレントでいられるのであれば是非観戦しに来てください」と保護者に伝えた。
試合開始から終了まで、保護者は一言も発してはいけないのである。その結果はとても興味深いものだった。子供たちは、保護者の大声がない中プレーでき、心から楽しそうにしていた。
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
この「サイレント・サンデー」という概念は、まさに保護者が子どもの成長を手助けするのではなく、妨害することもあるということを象徴していると言えるだろう。ただ、ジム・トンプソンは、このように保護者がスポーツの現場から阻害されることには反対だと述べている。指導者ではなく保護者だからこそできることがあるからだ。ではまず、なぜ保護者はサイレントでいることができず、子どもの成長を邪魔してしまうのか。それは保護者が子どもの行為を見て、それに実際以上の大きな意味を持たせてしまうからだと言う。たとえば、以下のようなことだ。
・子供が人生でどれくらいの成功を収めるか(「私の子供は、ウイニングゴールを決めたわ。彼女は将来偉大な医師(または弁護士、教師、警察官など)になるに違いないわ」)
・保護者としての役目をどれくらい果たせているか(「二塁打を打ってサヨナラのランナーを返し、チームを盛り上げて勝利への道筋をつけたのは私の息子だ。私は彼の父親で、彼がこんなにいいヒッターになったのは、私が上手に育児してきたからだ」)
・保護者自身の価値(「私の子供は、二度フライングし、失格となった。私の何がいけないのか? 他の人たちの子供はそういうことをしないのに?」)
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
子どものスポーツでの活躍を見て嬉しい気持ちになるのは当たり前だが、それがこのようにいつの間にか自分の保護者としての価値にすり替えられてしまう。というのも、育児というのはいかに頑張っていても、人に評価されることがあまりない。だから、子どもの活躍がまるで自分への評価のように、多大な意味を持たせてしまうのだろう。
セカンド・ゴールを大事にする保護者を目指すでは、保護者はどのような存在であれば、子どもの成長を妨げずにすむのか。ジム・トンプソンが行うワークショップに集う保護者たちは、ダブル・ゴール、つまり勝つことだけを目標にせず、友達を作り、一緒に楽しみ、負けても気持ちを切り替えて頑張れるようになることなどを目標にすることがいいことであるのを理解している。それなのに、ひとたび試合が始まると、あっという間に勝つこと以外の目標が忘れられてしまうというのだ。そんな保護者に彼が勧めるのは“セカンド・ゴール・ペアレント”になること。
監督がダブル・ゴールを目指すのであれば、すなわち、チームが勝つために一生懸命やり、それと同時に、そのスポーツ体験を通じて選手たちの人生に役立つ教訓を教える、という二つの目標を目指すのであれば、監督を務めていない保護者も同じことをすべきではないだろうか。実はこの答えはNOだ。
(中略)保護者の主たる目標は、セカンド・ゴールであるべきなのだ。つまり、子供がより強く、より責任感があり、より自信をもった人間になって、人生において成功を収められるように、スポーツを通じて子どもが経験したことをうまく消化できるよう手伝うこと。それが保護者の第一の目標であるべきなのだ。
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
たとえば、子どもが試合などでミスをしてしまったとき、“勝つこと”だけをゴールにしている保護者にとってそれは悲劇でしかないが、“セカンド・ゴール”を大事にしている保護者なら、人生について教える、負けたことから何かを学ぶことができるまたとないチャンスになるということだ。
そんな“セカンド・ゴール・ペアレント”になるにはどうしたらいいのか。ジム・トンプソンは、3種類の関係の円滑な構築・維持に努めなければいけないと説く。すなわち、
- 子どもとの関係
- 指導者との関係
- 自分自身との関係
この3者との関係が良好になれば、子どもはスポーツ体験から最大限の学びを得られるようになる。
大事なのは、子ども、指導者、自分自身との良好な関係構築次に、この3者との関係を円滑に構築するためのポイントを簡単にまとめてみよう。
子どもとの関係は最も大事だ。保護者がやるべきことは“子どもに寄り添うこと”。これに尽きる。
Motivated Mindの執筆者のデボラ・スティベックは、両親が自分の味方であり、親と自分が一つのチームの仲間だと感じると、子供たちは学ぶのが好きになる、と説明する。どのような分野でも、その分野で突出した成果を出すためには、相当なエネルギーが必要だ。(中略)子供が持つエネルギーは限られているため、その貴重なエネルギーをあなたの批判に対する自己防衛のために使うのではなく、競技について学ぶために使えるようにしよう。
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
子どもに寄り添うこと、自分は子どもの味方であると理解してもらうこと。それには、子どもが今、成長のどの段階にいるのかを見極めたり、子どものお手本になるような振る舞いをしたりすることなど、いくつか方法はあるが、一番効果的なのはやる気を出させる会話術を身につけることだとジム・トンプソンは言う。そのポイントを著書では6つにまとめている。
- 1.目標を設定する―同輩として会話する―
- 2.「それから? もっと聞きたい」という態度で聞く
- 3.とにかく聞く!
- 4.話すタイミングは子供に任せる
- 5.アクティビティを通じてつながる
- 6.(あなたとの会話を楽しんでくれる子供がいるということを)楽しむ
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
とかく保護者というものは、子どもに対してなにをしなさい、なにはしていけないと、口うるさくなりがちだ。しかし、3などは特に象徴的だと思われるが、“聞く”ということがいかに大事であるかをジム・トンプソンは説いていることがおわかりいただけるだろう。
次に、指導者との関係性だ。たとえば学校で、保護者と指導者が協力すれば、子どもの成績が向上するのはよく知られていることだ。それはユーススポーツの世界でも同じなのだが、指導者が良い指導者であるか否かは、大いに気になるところだろう。指導に気に入らないところがあり、子どもに不満を漏らしたら良い結果をもたらさないであろうことは容易に想像できる。
結局、いい監督というのは、どのような監督なのだろうか。まず最も大事なのは、選手たちが常に楽しいと感じながら取り組むことができるような指導ができる監督だ。特に、勝つ試合よりも負ける試合の方が多くなっているとき、それができるかどうかが非常に重要である。お子さんのチームの監督がそれができている監督であれば、何か比較的小さな欠点があったとしても目をつぶってあげよう。最も大事な特徴を備えている監督で「よかった」と思うようにしよう。なぜなら、その監督は、お子さんにとって「いい」監督だからだ。
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
本書には、そんな指導者とどのようにコミュニケーションを取ったら良いか、指導に介入する必要があるときとはどんなときか、介入する際にはどのようなことに気をつけたら良いかなど、関係性のガイドラインも紹介されているので、興味のある方は一読をお勧めする。
そして最後の“自分自身との関係”の構築に関しては、疑問を持たれる方もいるのではないだろうか。しかし、自身のことは意外に自分では気づきにくい。そして、子どもが最大限の学びを得るためには、保護者が自己管理をし、子どもの力になれるように努めなければならないとジム・トンプソンは主張する。
セカンド・ゴール・ペアレントとしての役目を思い出させてくれるテクニックが、映画作りの世界にある。写す対象からズームアウトし、「引く」という撮り方である。
本章のはじめに説明したとおり、狭い視野を持ちズームインすると、そこに見えるのは小さな絵だ。ユーススポーツにおける小さな絵とは、「子供がどれだけ上手にプレーするか」である。全体像、すなわち大きな絵は、「ユーススポーツに参加することで、子供がいかに人生に役立つことを学べるか」。私たちは、子供が良いプレーをできないと苛立つ。そのようなときには、引いて、大きな絵を見るようにしよう。そうすることにより、子供がよいプレーをできていないときは、メンタルを強化し、立ち直り方を学ぶよい機会だということに気づくはずだ。
『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』(ジム・トンプソン著・鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊)より
ユーススポーツを通して、若いアスリートが勝利と豊かな人生を手に入れるための指導者のノウハウ“ダブル・ゴール・コーチ”について、第一人者であるジム・トンプソンの著書から、保護者に焦点を絞って紹介した。全8章のうち、1章が割かれただけではあるものの、とても濃い内容であることに驚かされた。ユーススポーツに限らず、子育て全般に通じる普遍的なアドバイスと言えるのではないだろうか。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
<参考図書>『ダブル・ゴール・コーチ 勝利と豊かな人生を手に入れるための指導法』
鈴木佑依子訳・東洋館出版社刊
子どもにとってスポーツとの出会いは、人生に多大な影響を与える重要な体験のひとつ。しかし、指導者や親の厳しい指導によって挫折し離れてしまう子どもも多い。そこで重要になるのが、勝利だけをスポーツのゴールとしない考え方。本書は、PCA(ポジティブ・コーチング・アライアンス)メソッドを提唱したジム・トンプソン氏がその理論を詳述し、全米を席巻したユーススポーツコーチングのバイブルの邦訳。すべての子どもたちがスポーツを通じて人生を豊かにするために指導者や親はどうするべきかがわかる実践的な内容が網羅されている。
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