3年で約70種!B1クラブのSDGs、成功の秘訣
パラサポWEB / 2023年12月13日 7時30分
今や多くの企業がSDGsに取り組む時代。それはスポーツ界も例外ではない。中でもプロバスケットボールB.LEAGUE B1のクラブ・川崎ブレイブサンダースは、2020年9月にSDGsプロジェクト「&ONE(アンドワン)」を立ち上げ、これまでにおよそ70種にも及ぶ取り組みを実施してきた好事例だ。地元川崎市と協力し市民やファンと共に持続可能なまちづくりを行う「&ONE」とは、どんな取り組みなのだろうか?
強いだけでなく、ファンに愛されるクラブに2019年、「持続可能な開発目標(SDGs)の推進に関する協定」を結んだ際の記者会見。川崎市の福田紀彦市長(右)と、川崎ブレイブサンダースの当時の代表取締役社長元沢伸夫氏(左 現在は取締役会長)
神奈川県川崎市に本拠地を置くプロバスケットボールチーム・川崎ブレイブサンダースは、過去にリーグ4回、天皇杯5回の優勝を成し遂げたビッグクラブだ。その一流のクラブがSDGsプロジェクト「&ONE」を立ち上げたのは、今から3年前、2020年9月のことだった。
「川崎ブレイブサンダースはプロスポーツクラブとしてファンの方に応援してもらいたいというのももちろんあるんですが、それ以外にも川崎に所属するクラブとして強いだけではなく、地元の方やファンの方に愛されるクラブになっていきたいという考えから、川崎市様とSDGsに関する協定を締結してスタートしたのが『&ONE』立ち上げのきっかけです」
と話すのは「&ONE」プロジェクトリーダーの、川崎ブレイブサンダース営業部の隠岐洋一さんだ。
「プロジェクト名の『&ONE』とは、バスケットボールの試合中にファウルを受けた際、1本のフリースロー(and one shot)を打つ権利が与えられるという、ビッグプレーを指す用語です。バスケットボールを通じて、いろんな他者がつながっていくことで、バスケットボールともうひとつ、このビッグプロジェクトを広げていこうというような意味も込められています」(隠岐さん、以下同)
2019年といえば、女性雑誌が特集を組んだだけで珍しいと話題になるほど、SDGsという言葉自体が日本社会にそれほど浸透していなかった。そんな中で発足したプロジェクトでわずか3年の間に大小合わせて70種類もの取り組みを行ってきたというのだから驚きだ。
「&ONE」で人気の取り組み事例川崎ブレイブサンダースの選手や、隠岐さんたちスタッフは「&ONE」を進めていくにあたり、まずは自分たちがSDGsについて知らなければならないと、日本におけるSDGsの第一人者である慶應義塾大学の蟹江憲史教授をアドバイザーとして招き、ゼロから学んでいった。そうした学びを経て実施されたたくさんの取り組みの中から、いくつか具体例をご紹介しよう。
試合会場でファンがSDGsを学び行動に繋げられるイベント『&ONE days』SDGsの17すべての目標にチャレンジするイベント。レギュラーシーズン中、30試合あるホームゲームのうち、2試合を「&ONE days」とし、過去3シーズン連続で行われている。
「試合会場にいくつもブースを出すのですが、クラブが主体になったものから、スポンサーである企業さんに出していただくものなど、さまざまです」
たとえば車いすバスケットボールを体験できるブースだったり、自転車を漕いで発電をして電気を作ることを学んでもらうブースだったり。あるいは、バスケットボールの端材を使ってキーホルダーなどを作ってリサイクルをしながらものづくりを体験してもらったりと、ファンが楽しみながらSDGsを学び、実際にアクションに落とし込む工夫がされている。
歩いて試合会場へ!ウォーキングラリー『&ONE WALKING』一試合あたり平均200名弱のファンが参加する『&ONE WALKING』
前出の「&ONE days」で行われていたが、人気のため2試合だけでなく、ホームゲーム全30試合で実施されるようになったイベント。最寄り駅から試合会場となる川崎市とどろきアリーナまでの間に予め3つのコースが準備されている。試合当日、観戦するファンは好きなコースを歩いて会場を目指し、途中に設置されたチェックポイントに準備されたQRコードをスマホで読み取る。すべてのチェックポイントを通過すると、景品の抽選に参加でき、当選するとオリジナルグッズがもらえる仕組みとなっており、ゴール直前に設置されたSDGsクイズの正解者は2回抽選に参加ができる。1コースが約1~1.7kmとなっていて、SDGsの3番目の目標「すべての人に健康と福祉を」につながる上、SDGsについて学ぶことができ、更には路線バスの混雑回避にも役立つ。
この他にも、
・ゲーム中の1アシストを1000円に換算し、レギュラーシーズンにおけるチーム全体の合計額を川崎市内の子どもたちのバスケットボール振興に活用する「&ONE ASSIST」
・小学生を対象にしたワークショップ「夏休みSDGs教室」
・食品ロス軽減のためにホームゲーム全試合で賞味期限まで1か月以上残っている食品を回収し、それを必要としている人達に届ける取り組み「フードドライブ」(これはSDGsの12番目の目標「つくる責任 つかう責任」に繋がる)
などといったさまざまな活動を行っている。
「&ONE」の成果は? ファンやスポンサーからの反響ホームゲームが行われる川崎市とどろきアリーナの前に出店する「出張セレサモス」の野菜販売はいつも好評
70種類の取り組みの中には、好評のためホームゲームの度に行われるようになったものや、反対に思ったような成果が出なかったものなど、試行錯誤の連続だったと隠岐さんは言う。それでも3年の間にはさまざまな成果が出ている。たとえば、ファンの行動変容がそのひとつだ。
「試合会場に来場された方のアンケートやSNSなどを拝見すると、ホームゲームを応援しに行くだけで、SDGsについて勉強できたり、体験できたりして、知るきっかけになったという声があります。また、普段の生活の中でも意識してみようというきっかけにもなっているようです」
また、川崎ブレイブサンダースを支援するスポンサーの数にも影響があったそうだ。
「現在、スポンサーの数は200社を超えていますが、その1割から2割ぐらいが『&ONE』をきっかけに繋がった企業さんです。活動の幅や取り組みを広げていく過程において、結果として、つながりが深まることで持続可能なプロジェクトになっていると感じていますし、クラブ単体ではできない取り組みが継続できていることに深く感謝しています」
その他にも川崎ブレイブサンダースを知らなかった人、バスケットボールに興味がなかった人たちに認知してもらうことにも役だっていて「&ONE」がもたらした成果は数え切れないほどあるという。
短期間で成果を出した、プロジェクト成功の秘訣選手によるトークショーに集まった子どもたち。選手の人気や知名度が「&ONE」の原動力になっている
今や川崎ブレイブサンダースはプロスポーツチームの中でもSDGsの取り組みに成功した代表的な組織として知られるようになった。なぜ、短期間でここまでの成果を出すことができたのだろうか?
「ひとつに企業からのニーズが多かったということがあると思います。例えばいろいろな企業様、経営者の方からSDGsを会社として進めていきたいけれど、何から始めればいいかわからないとか、やってはいるものの誰にも気づかれないといった相談をいただくことがあります。取り組み自体は素晴らしいのに、アウトプットをする場所がないという課題を抱える企業もたくさんありました。そういった企業に対して、私たち川崎ブレイブサンダースは年間を通じて多くのお客様に試合を観に来ていただく機会も場所もあり、影響力のある選手もいる一方で、我々だけでは取り組めることに限りがあることが課題でもありました。そういったお互いの課題を、一緒に取り組むことで解決しながら共にSDGsを推進することができているというのが、ここまでの成果に繋がっていると思います」
知名度、応援してくれるファンといった川崎ブレイブサンダースの財産を、いい意味で利用してもらい、より大きなプロジェクトへと発展させることができるのは、プロスポーツクラブならではの強みと言えるだろう。
「蟹江教授から、SDGsの取り組みは従来の社会貢献、地域貢献だけではなく、SDGsの活動を通じて経済を回していく取り組みをすることで持続可能な活動に繋がると伺いました。確かに、これまでの社会貢献や地域貢献活動は利益を生み出すものではないという認識が多かったように思います。企業としての責任を果たすためには重要でとても良い活動でも、費用がかかりすぎるとか、手間暇ばかりかかってリターンが少ないために活動自体がなくなってしまうということもあったと思います。その仕組みを変えるのが、社会貢献と経済の両輪を回しながら持続可能な取り組みとするSDGsの考え方なので、『&ONE』の活動もいろいろな方々と協力し、アクションすることによって、事業としてもしっかりと成り立たせながら、より大きなうねりを作っていけているのかなと感じています」
川崎ブレイブサンダースには「&ONE」専任の部署は存在しない。隠岐さんたち数名のコアメンバーが中心となり、各部署が横断的に協力しあっている。それは選手をはじめスタッフ全員が取り組みに対してモチベーションを持っているからこそ可能なのだろうと感じた。ちなみに隠岐さんのモチベーションを伺ったところ、オフィスの屋上で行っている農園作業を一例にあげた。JAセレサ川崎と組んで、オフィスの屋上にある農園で子どもたちと野菜の苗を植えたり、収穫の様子や楽しそうな姿を見て意義や喜びを感じるという。義務ではなく、喜びがあるからやる。こうした気持ちが一番の成功の秘訣なのではないだろうか。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:川崎ブレイブサンダース
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