深刻な除雪問題。雪かきのスポーツ化で解決
パラサポWEB / 2024年2月5日 7時30分
雪深い地域の人たちにとって欠かせない雪かきは、実はかなりの重労働。しかし高齢化がすすむ地域では、人手不足による除雪問題が深刻化している。そこで、北海道の札幌学院大学の学生たちが中心となって行っているのが、「国際スポーツ雪かき選手権」だ。雪かきをスポーツとして楽しむことで除雪問題の解決に取り組もうとする学生たちに話を聞いた。
除雪作業中の事故死者数は、なんと毎年100人以上国土交通省によると、豪雪地帯では人口減少、高齢化の影響で自宅の除雪作業ができない世帯が増加し、除雪作業の担い手不足が深刻化しているという。近年では雪による死者数が130人以上の年が続いていて、その4分の3が除雪作業中の事故なのだそうだ。
各自治体では住民が協力して互いの家や生活道路、公共空間を雪かきする地域除雪活動を推奨しているが、なかなか人が集まらない。そこで、札幌学院大学のまちおこし研究会の学生たちが中心となって北海道小樽市ではじめたのが、今年で11回目を迎える「国際スポーツ雪かき選手権」、通称スポ雪だ。
スポ雪は、雪かきをスポーツとして楽しめるようにすることで、若い世代が高齢者の手助けをするきっかけを作り、さらには地域の子どもたちと高齢者との交流を促進。小樽の地域コミュニティを活性化することを目的としている。
「高齢者に優しい」も審査に入るユニークな採点方法お年寄りが歩きやすいように、きれいに整地している参加者の皆さん
選手権を運営しているまちおこし研究会は、その名のとおり「まちおこし」に貢献できる活動をしているサークル。スポ雪以外にも高齢者の方にスマートフォンの使い方を教えるスマホ教室を行ったり、地域の夏祭りに参加したりと、大学生と高齢者の繋がりを大切にしているという。
そのためか、スポ雪は単に除雪量を競い合うのではなく、高齢者に優しいルールが採用されている。回を重ねるごとに内容がブラッシュアップされているそうだが、今年の最新のルールは以下の通り。
■1チーム3名以上5名以下のチーム制で得点を競い合う
■競技時間:30分(内、10分は雪かき、20分は整地)
■競技内容:雪かきでは2人が並んで歩ける道幅を確保し、整地では高齢者が転ばない、滑らない、怪我をしないように、道を仕上げる。各チームは抽選で決められた場所で競技を行うが、割り当てられた場所の状況によっては、雪で階段を制作する。
■採点方法:以下のABCで出た得点の総合得点を競い合う
A:センサーグローブの測定値メンバーの1人がセンサー付きのグローブをつけて競技し、仕事量を計測
B:消費カロリーの合計値A以外のメンバーは交代で活動量計(万歩計などに搭載されている消費カロリーを計測する機械)をポケットなどに入れて競技を行い、その合計点がチームの合計値となる
C:整地状態の審査点審査員が整地したコースを実際に歩き、2名が並んで歩けるか、高齢者にとって安全で歩きやすい道になっているかを採点
競技は中学生の部、高校生の部、一般の部の3部制で、地元住民でなくても、誰でも参加できるのだが、毎回、中学生から大人まで幅広い人たちが参加している。
10分以内に完成?手に汗握るスピード感で観戦も楽しいスポ雪ではチームの結束力も重要
雪かきをしたことがない人は「雪かきの競技時間がたった10分?」と思うかもしれないが、以前は20分だった雪かきの競技時間を今年から10分に短縮したのだそうだ。その理由を実行委員会の瀧沢友那さんはこう語る。
「防寒のため参加者は厚着をしている人も多いので動きづらいですし、汗もかきますから、10分でもかなりの運動量です。また、私の出身地の旭川に比べ、開催地の小樽の雪は海に面しているせいか、水っぽく重たい気がします。同じ雪でもその分、雪かきが大変なんじゃないでしょうか」
筆者は、競技の様子を動画で観戦したが、10分以内に2人が並んで歩けるだけの道幅を確保するということは、想像をはるかに超えるスピードとテクニックが必要で、まさにスポーツを観戦するような手に汗握る光景だった。
「前回は高校の女子サッカー部の子たちがすごく綺麗な階段を作ってくれました。体育会系の部活なので、その工程も顧問の先生が『誰々はこっちやって』など指示を出したり、選手も声かけをしながらやっていて、まさにスポーツといった感じでした」
と、参加者の様子を同じく実行委員会の外﨑幹奈さんは振り返る。
スポ雪をきっかけに広がる共助の心小樽の中学校でワークショップを行う、まちおこし研究会の皆さん
スポ雪の実行委員は、この活動を全国の自治体に広まるようSNSで拡散したり、雪かきの未来について話し合うシンポジウムを行うなどといったこともしている。
「昨年、小樽の中学校にお邪魔して、中学2年生の子どもたちに『キャリア教育・ふるさと教育(ワークショップ)』という特別授業をさせていただきました。そこでは、自分たちが住んでいる地域をもっと住みやすくする共助の取り組みを考えよう、などといったお話をさせてもらいましたが、授業後のアンケートでは、次回のスポ雪に参加したいなどといった回答もあって嬉しかったですね」(瀧沢さん)
またスポ雪の参加者の中には3年連続で参加してくれている中学生もいるそうだ。
「スポ雪を実施する小樽の高齢者の方からは、競技が終わった後に『助かったよ、ありがとう』とか『学生さんが来ると活気があっていいね』など、嬉しそうに言葉をかけてもらったのが印象に残っています」
と、外﨑さんが言うように、普段は接点のない中学生から前向きな感想を貰ったり、高齢者から直接感謝の言葉をかけられたりすることは、自分たちの活動のモチベーションにも繋がっているという。まちおこし研究会のメンバーのひとり茅根光さんも「色々な方から『ありがとう』と感謝されることが多く、僕たちの活動って、すごく影響力があるんだなと感じました。特に中高生から、大学生になったら私たちも実行委員をやってみたいですと言われたときは、嬉しかったですね」と、雪スポのやりがいを語ってくれた。スポ雪による共助の心は、小樽で確実に広まっているようだ。
社会課題の解決手法のひとつとして「ゲームのように夢中にさせ、アクションを促す」、ゲーミフィケーションが注目されて久しいが、得点を競い合うスポーツはゲーム要素もあるため、人々を夢中にさせるのにうってつけだ。辛くて大変な雪かきを、みんなで楽しめるスポーツとして確立するという逆転の発想で解決するこの試み、ますます高齢化が進む日本において、注目の競技となりそうだ。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:国際スポーツ雪かき選手権実行委員会
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