毎年約450校が廃校? 見事に転身した複合施設がスゴイ!
パラサポWEB / 2024年5月13日 7時0分
現在、政府が異次元の対策と銘打って取り組んでいる少子化問題は、私たちの生活の様々ところに影響を及ぼしている。そのひとつが小中学校の廃校問題だ。使われなくなった校舎をどうするのか? 多くの自治体が頭を悩ませている問題を、プロサッカークラブとの協力によって解決した茨城県の例を紹介しよう。
毎年450校もの学校が廃校に?photo by Shutterstock
少子化による児童数の減少などの影響で、全国では毎年約450校の廃校施設が発生しているという。使われなくなった校舎や体育館などの施設は、荒廃して街のイメージを損ねるだけでなく、解体または維持費の捻出や治安の悪化など様々な問題を抱えている。
その問題をスポーツの力で解決したのが茨城県城里町。少子化の影響で2015年に廃校になった七会中学校の校舎を改修し、2018年にJリーグの水戸ホーリーホックのクラブハウスと練習場、そして町役場の支所や公民館などが一体となった複合施設「アツマーレ」を作ったのだ。
プロサッカー選手と一緒にトレーニングできる一般人も利用できるアツマーレのトレーニングルーム
水戸ホーリーホックの監督室や事務室など旧七会中学校の教室を利用したクラブハウスエリアは一般人は立ち入り禁止だが、トレーニングルームはクラブの選手だけでなく、所定の手続きをすれば一般の人でも自由にトレーニング機器を利用することができる。
「プロスポーツの選手と一緒の空間でトレーニングができるので、利用者の皆さんは、選手を身近に感じることができているようです」
と、町民の皆さんの様子を教えてくれたのは、アツマーレの副センター長・山口成治氏だ。
「一般の方がトレーニングルームを利用する場合、事前に1度だけ講習会を受けていただく必要がありますが、その際に水戸ホーリーホックさんのノウハウを活用させてもらっています。利用者の中には選手と顔見知りになって会話をする方もいるらしく、試合前後の選手たちの緊張した様子やリラックスした様子などを直接肌で感じることもできる、といった話も聞いたことがあります。そうやってプロスポーツ選手が身近になったことから、町民の健康意識が高まっているようです」(山口氏)
プロサッカー選手と同じ空間でトレーニングをする機会など、普通はめったにないが、並んでマシーンを使えば、まるで自分が選手の一員になったような気分を味わうことができ、運動をするモチベーションがあがりそうだ。
スポーツを通じた健康づくりから交流人口増加まで、いいことずくめ2023年11月に行われた『選手と一緒にアツマーレであそぼう!』の様子
また、クラブハウスの建物のすぐ前には、水戸ホーリーホックの選手がメイン練習場として使っている天然芝のグラウンドが2面ある。こちらはグラウンド脇のベンチから、練習を見学することができる上、クラブの練習がないときは、一般の利用者がグラウンドゴルフを楽しんだりと、町内団体の活動で利用することができるという。町としてはアツマーレを拠点にスポーツを通じて町民の健康づくりを進めていきたいと考えているそうで、実際に有意義なイベントも行われている。たとえば2023年11月には『選手と一緒にアツマーレであそぼう!』というイベントが実施され、クラブのサポーターや町民の皆さんが、グラウンドで選手との交流を深めた。
アツマーレのBBQ場。休日には多くの地域住民が訪れる一方、アツマーレの存在は地域住民の健康面以外にも、多くのメリットをもたらしているそうだ。たとえば旧七会中学校の多目的広場だった場所は立派なBBQ場に生まれ変わり、様々な世代の人々が利用している。
「アツマーレに水戸ホーリーホックさんが来てくれたことにより、地域間、世代間の交流人口が増加しています。また選手の練習風景を見ようと町外からもサポーターの方が多く集まり、地域には活気が出ています。実際、アツマーレの近くにある町の物産センターも売り上げが伸びています」(山口氏)
廃校活用ならではの意外なメリット広大な土地を活用したアツマーレ
プロスポーツチームを誘致するとなると膨大な費用がかかると思われがちだが、城里町の場合、廃校を利用したことにより改修費約3億2800万円のうち、町が実際に負担したのは約8200万円。残りの約2億4600万円は地方創生拠点整備交付金やスポーツ振興くじ助成金といった補助金で賄うことができた。もしゼロから建物を建てたらさらに莫大な費用がかかっていただろう。また、廃校を解体して土地を提供するのではなく、建物ごと利用したのには、もちろん経費を削減できるという利点もあるが、理由はそれだけではなかったそうだ。
「廃校をどうするかを検討している際、地域の方々にアンケートを実施したのですが、『中学校の校舎に愛着があるので建て替えを望まない』という声が多かったんです。そこで最大限現状を活用したリノベーションを行いました」
その結果として地域住民の方々が親しみの持てる施設ができあがった。実際同校の卒業生からは「当時のことを振り返ることができる」「校舎の懐かしさがいいね」という声も聞かれ評判は上々だそうだ。
「多くの地域住民が通った中学校という場所は『アツマーレ』という施設名が意味する『ここに集まれ』という狙いにとって、非常に効果的だったのかなと思います。グラウンドを活用してスポーツをしたり、その他にも遊びや学び、仕事など、いろいろ利用の仕方をしてもらい、その活気をさらに町民の皆さんに還元できるんじゃないかなと思っています。ですから今後も積極的に施設を利用していただければありがたいですね」(山口氏)
スポーツはプレイするだけでなく、観戦したり、ひいきのチームを応援したりと、様々な年代の人が思い思いに楽しむことができる。一方で、学校も広い世代にとって愛着のある場所なので、スポーツと廃校の組み合わせはとても相性がいいと言えるのではないだろうか。今後はゼロから新しい施設を作るよりも、比較的安価に短い期間で作ることができるアツマーレのような施設が、日本の少子化問題の救世主になるかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:茨城県城里町
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