どうなるパリ2024大会!? “古くて新しい”フランスのスポーツイベント取材記
パラサポWEB / 2024年2月28日 7時55分
パリ2024パラリンピック開幕の約1年前にあたる2023年の9月。フランスに滞在したライターの生島淳さんは、現地で何を見て、何を感じたのか。パラリンピック半年前にあたり寄稿してもらった。
2023年秋、フランス。
ラグビーワールドカップ(W杯)の取材で、この地で6週間を過ごした。いちばん長く滞在したのはトゥールーズで、そのほか、マルセイユ、ボルドー、パリといろいろな街を転々とした。
フランスでの体験を端的にまとめると、こうなる。
困ったところも多いし、「もう最高!」というところも山ほどある。
フランスは「人を運ぶこと」が苦手!?はじめに困ったところを書いてしまうと、フランスは「人を運ぶこと」が苦手な気がする。
日常生活ではエレベーターの品質が最低で、6週間住んでいたアパートメントでは「ゴトン」と数10cm落下することを何度も体験したし、あるときには行き先階の表示が消え、エレベーターが勝手に上下しだして死を覚悟した。日本に帰国して、なにに感動したかというと、赤坂にあるTBSのエレベーターに乗ったら滑らかで静か、しかも扉が開いてからフロアとの間に段差がない。日本のエレベーターはすげえ、と感動してしまった。
パリ市内の地下鉄。時刻表はあってないようなものだphoto by AFLO SPORT(2023年9月撮影)それと、特急列車の定時運航率は感覚的にはイチローの生涯通算打率とどっこいどっこいのような気がする(メジャーでは3割1分1厘)。2時間、3時間の遅れはザラにあるので、旅の終わりを迎えるころには「5分の遅延は遅れでもなんでもない」と思うようになり、もはや感覚がまひしていた。
だから日本に帰ってきて、車掌さんが「ただいま、3分遅れで運転しております」と聞いたとき、謝らんでもいいと個人的には思った。
ただ、ターミナル駅では感心したことがある。改札からホームが直接つながっている昔ながらの構造で、車いすの人には使いやすいと思った(日本ではJR上野駅がこのような構造。鉄道黄金時代の名残りだ)。
ところが、フランスでは乗車する際には階段があるため、車いすはリフトで上げる形で列車内へと格納されるのを目撃した。
このように、フランスの仕組みはすべてが満点ということはなく、一長一短という場合が多い。
それと日本のみなさんに伝えておきたいのは、フランスは自転車旅の人には最高だということだ。改札とホームがつながっているから、そのままホームまで乗り入れられるのがまず便利。日本のように自転車を「輪袋」に入れて運ぶ必要がないので、みんなそのまま。しかも自転車専用車両まであるのだ!
フランスは人を運ぶのが苦手と書きましたが、訂正します。アイデアは良いのだけれど、運用が苦手なんだと思います。
環境の意識が高いフランスアイデア、発想力の豊かさは最高である。運輸だけではなく、それはW杯の取材の現場でも感じられた。
今回、とくに感じたのは「環境」については、日本よりもフランスの方が意識が高い。
まず、取材IDを受け取ったときに渡されるメディアキットにはタンブラーが含まれていた。
2019年のW杯日本大会を思い出すと、ペットボトルの水は飲み放題(それに加え、ヤマザキの「ランチパック」が数種類用意され、これが海外メディアに大人気だった)。
しかし、W杯フランス大会はプラスチックごみの削減に積極的に取り組み、各都市のプレスルームにはボルヴィックのタンクが用意され、自分のタンブラーに注ぐ形になっていた。
フランスでは驚くほど、ペットボトルがないのだ。
photo by X-1この流れは2024年のパリオリンピック・パラリンピックにも引き継がれ、組織委員会は「使い捨てプラスチックを使用しない、初のメジャーイベントにする」と宣言、環境問題に配慮した持続可能な国際大会にすることを目指す。それに対応して、主要スポンサーのコカ・コーラ社は、大会期間中は再利用可能なボトルと、200以上のソーダファウンテンを提供するという。
この発想はスポーツイベントだけではなく、私がボルドーのジャズクラブへライブを見に行ったときも、アーティストはマイタンブラーで水分補給をしていた。
ただし、この現実を目にしても、「フランス、いいね! 日本、遅れてる……」と単純には言えない。
日本ではなぜ、これほどペットボトルが普及しているのか。それはこの国が安全、安心だからだ。
駅、職場には自動販売機が設置され、それが破壊される心配はほとんどない。そしてコンビニエンスストアは全国各地に存在し、社会インフラとなっているが、この業態が広まったのは運輸網が発達し、かつ深夜の時間帯でも強盗被害の不安が少ないからだ。
つまり、ペットボトルの普及は、日本の治安の良さの証明なのである。
だから、フランスが良くて、日本が遅れているとは一概には言い切れない。
むしろ、日本がペットボトルの削減に取り組むとするなら、フランスよりもハードルが高いということになる。なんといっても、ペットボトルは軽くて持ち運びしやすいだけでなく、何種類もの飲み物が選べる。
これは豊かさの証明だ。
削減に取り組むとするなら、その便利さ、豊かさを捨てることになる。つまり、理性を働かせなければならない。21世紀、日本人に課せられた大きな課題なのではないか、とW杯の取材のあとに感じた。
ラグビーW杯開催期間中、外国人観光客でごった返すモンマルトルの丘。パリ2024大会で現地に行く人はスリやひったくりに気をつけようphoto by Shinji Akagi 花の都はどう変わる?2024年夏、パリオリンピック・パラリンピックという大会は、国際スポーツイベントの運営のスタンダードを決める意味では大きな意味を持ちそうである。
パリは古くて、新しい。
社会インフラには、19世紀のものがいまだに活用されている。それは持続可能という視点では評価できるのかもしれないが、現代の社会福祉ニーズに応えてない場合もある(メトロの駅にエレベーターが設置したくてもできない場合もあると聞いた)。
しかし、プラスチックごみの削減をラディカルに進めるあたり、刺激的でもある。
さて、「パリ2024大会」を開催することで、花の都はどう変わるのだろうか。
photo by X-1宮城県気仙沼市出身。1999年からスポーツライターとして活動し、ラグビー、野球、駅伝を中心に執筆。テレビ、ラジオにも多数出演。取材で印象に残っているパラアスリートは、女子マラソンの道下美里。
editing by TEAM A
key visual by Shinji Akagi
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