伝統の飯塚国際で優勝! 車いすテニス・上地結衣はパリで金メダルを目指す
パラサポWEB / 2024年4月19日 7時15分
いくつもの思いを重ねてつかんだ優勝だった。4月14日に男女シングルス決勝が行われた伝統の第40回飯塚国際車いすテニス大会(福岡県飯塚市)。女子シングルスを制したのは上地結衣だった。
決勝ではアニーク・ファンクート(オランダ、世界ランキング5位)に2-6、6-1、6-0で逆転勝利を収めた。2018年の第34回大会以来6年ぶり7度目のタイトルを手にした上地は「40周年記念というすばらしい大会で、自分自身にとって6年ぶりの優勝、そして皇后杯をいただけて大変嬉しく思います。たくさんの方に観に来ていただけてすごく嬉しいです」と笑顔でスピーチした。
第1セットはファンクートの強打とバックハンドスライスに手を焼いて2-6で落としたものの、そこからの修正が素晴らしかった。第2セットは6-1と取り返し、最終第3セットも6-0と圧倒した。
逆転勝利を呼び込めた要因として上地が挙げたのは相手のファンクートに得意なショットを打たせないための微調整。「彼女はバックハンドスライスが得意。高いところに打てばスライスでは抑えきれないので、そこにボールを集中させ、自分の展開に持っていくことを意識して、実際にそれができた」と胸を張る。
第2セットの終盤にはサーブミスが相次いだが、これは新たに挑戦している球種を試合で試したため。「回転やコースに変化をつけて、取られたとしてもその後につながるポイントにできたらいいと思って打った」と狙いを明かす余裕もあった。
世界ランキング2位の上地photo by SportsPressJP 一歩上の次元へ一方、新たな技術を身につけたことで見えてきた要素もある。上地は昨年、国枝慎吾さんからサーブを教わり、スピードが向上。しかし、サーブのスピードが上がればリターンのスピードも増すため、両刃の剣になることが判明した。
「自分は体も小さいので、速く打ったぶん速く返ってきたときに対応できるか。速さを追い求めすぎることが必ずしも正解ではないということに気づいた。それよりも自分は左利きなので、回転をかけることで相手の打ちづらい方向に曲がっていく。自分が読みやすいリターンを打たせるためにどうするか、という段階に来ている」
これらはサーブスピードが上がったからこそ気づき得たこと。向上心を持ち、進化を続けながら一歩上の次元へと自分を導こうとしていることが言動から伝わる。
photo by Asuka Senaga思い出の詰まった大会だ。兵庫県の中学2年生だった2008年。初めてこの大会にエントリーしたものの、“出場”はかなわなかった。理由は13歳という年齢。ジュニアのクラスがなかったため、年齢制限のなかった一般クラスにエントリーしたが、いざ大会前夜に現地に来ると自分の名前がなかった。エントリーが認められていなかったのだ。日本では当時、国際大会で大活躍しながらも年齢規定を満たしていないという理由で浅田真央さんが冬季オリンピックに出場できなかったことが大きな話題となっており、その影響による措置と見られた。
ただ、「海外の選手と練習試合をさせていただいたし、コンソレーションにも出させていただいたんです」と上地は言う。複雑な思いを抱いたであろうことは想像に難くないが、それ以上に、置かれた状況で最善を尽くしてくれた関係者に対する感謝の思いが膨らんだのが、飯塚でのファーストインプレッションだった。
それから18年。今回、1回戦で対戦した井上由美子は上地が10歳で車いすテニスを始めたばかりの頃、なかなか勝つことができず、壁として立ちはだかった選手の1人だった。
30歳の誕生日を目前に控える上地は、今年65歳になる井上との久々の対戦を純粋に楽しんでもいた。
「井上選手は私が(車いすテニスを)始めた10歳、11歳の頃に同じ左利きでなかなか勝てなくて悔しい思いした選手の1人でもあります。こうして今もまた対戦させてもらえるのは凄く嬉しい。井上選手にはいつも気にかけていただいている。自分が長く続けてるからこそ、こういうつながりがあるのだと思う」
当時、学生ボランティアとして大会を支えていたスタッフが、今は立場が変わって大会をまとめていることも感慨深かった。旧知のスタッフと会場で会えば心が和み、会話が弾む。その時間も上地のパワーの源となった。
「以前はみんながお兄ちゃん、お姉ちゃんだったのに、今は(周囲を見渡しても)私の方が年上。月日の流れを感じるけど、その(当時から支えてくれている)方たちがいまだに残って大会を支えてくださっていることも、自分がこの大会に戻ってきたいと思う理由の一つです」としみじみ語る。
世界女王を倒すためにパリ2024パラリンピックでは今回不参加だった世界ランキング1位のディーデ・デフロート(オランダ)を破って金メダルを獲得することが最大の目標となる。
(写真は昨年の飯塚国際車いすテニス大会)photo by Tomohiko Satoデフロートは2016年のリオパラリンピック以降、一頭地を抜く存在となった最大のライバル。打ち破ることのできない相手に対してこのところ徐々に力の差を詰めてきていることを感じているという上地は、今、デフロートに対してこのような思いを抱いている。
「考えれば考えるほど、彼女と自分の本来やりたいスタイルは似ていると感じる。彼女はパワーもあるし、速いショットを打とうと思えば打てるけれども無理をせずにしっかりと自分の時間を作って展開をしていく。自分もやりたいことと似ていると思うからこそ、やりたいことをどちらが先に崩せるか」
そのうえで上地が強化したいと考えているのは決定打の技術。現在はその差を埋めるためのひとつの方法として、車いすの座面を調整している最中だ。
2024年に入ってから全豪オープンでは硬めと柔らかめの2種類の座面を用意。今大会では全豪で試した柔らかめのタイプよりさらに柔らかいものを使用した。現在使用中の座面はただ柔らかいだけではなく、前後左右に激しく動くときのホールド感が備わっており、「自分の体に合っている。より動きやすくなったと思うし、操作性も上がった。ボールに入る位置が良くなったと思う」と相性の良さを感じている。
「デフロート選手は、私がもう一歩ギアを上げなければ勝てない選手。8月のパラリンピックでしっかりと結果を残し、金メダルを取って、またこの場所(飯塚)に戻ってくることが目標でもあります」
上地は言葉に力を込めて言った。
photo by Asuka Senaga今回は男子シングルスで連覇を果たした小田凱人とのアベック優勝。男女そろっての“日本人V”は上地と国枝が優勝した2015年の第31回大会以来だった。
「そろって優勝できたのは嬉しいし、パリでもそうなりたい」とは小田の言葉。
思い出の詰まった飯塚で上地が新たなエネルギーをチャージした。
※世界ランキングは4月14日時点
text by TEAM A
key visual by SportsPressJP
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【PLAYBACK PARIS】パリで躍動した日本代表選手が語ったパラリンピックの可能性
パラサポWEB / 2024年10月25日 6時32分
-
車いすテニス上地結衣選手、パリ・パラ金メダルの裏にターニングポイント 「変わらないと勝てない」努力と試行錯誤の日々が映画に
まいどなニュース / 2024年10月24日 16時55分
-
PARIS 2024で活躍した日本のメダリストたちが登場!WOWOWオリジナルドキュメンタリーシリーズ 「WHO I AM パラリンピック」 2024年12月スタートの最新シーズンラインナップ発表
PR TIMES / 2024年10月24日 14時45分
-
車いすテニス上地結衣「ひとつの集大成」「達成感」 “世界一、負けず嫌い”→パラ2冠、映画携え関西凱旋
ORICON NEWS / 2024年10月23日 15時56分
-
【10~11月のパラスポーツ注目大会】パリ2024パラリンピックで活躍した金メダリストに会えるチャンス!?
パラサポWEB / 2024年10月11日 6時32分
ランキング
-
1《小久保、阿部は納得できるのか》DeNA三浦監督の初受賞で球界最高栄誉「正力賞」に疑問噴出
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月7日 19時2分
-
2大谷翔平&真美子さん、ベッツ主催パーティーでバスケを楽しむ 真美子さんは美フォームでシュート成功
スポニチアネックス / 2024年11月7日 18時55分
-
3正力松太郎賞 特別賞は2年連続で大谷翔平「米国の選手に“参った”と言わせたのは大谷君が初」
スポニチアネックス / 2024年11月7日 17時1分
-
4大谷翔平がフジテレビ取材陣を険しい表情で拒絶、元木大介氏の手招きに目も合わせず 新居報道以降も大谷の怒りを再燃させたフジテレビ
NEWSポストセブン / 2024年11月7日 7時15分
-
5シーズン終えても…大谷翔平が並べた「52-122-93-124-1.012」 米ドン引き「ちょっと待って」
Full-Count / 2024年11月7日 10時42分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください