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地域ブランディングで県外から多くの来訪者

パラサポWEB / 2024年6月10日 7時0分

広島県呉市。瀬戸内海に面し、あの巨大戦艦「大和」が建造された地、海軍や海上自衛隊の拠点としても知られる。グルメなら海上自衛隊の部隊・艦艇で食べられている“呉海自カレー”を思い浮かべるかもしれない。そんな呉をアウトドアスポーツを通じて盛り上げようという動きがある。“SPORTS AND WONDER KURE”(以下、スポワンKURE)がそれだ。このプロジェクトはどのようにして生まれ、成果を挙げているのか、お話を伺った。

地域おこしにもブランディングが必要

広島県の南西部に位置する呉市は、瀬戸内海のほぼ中央部にあり、海に面する陸地部と、倉橋島や安芸灘諸島などの島嶼部から構成されている。温和な気候で、山や海などの自然が豊かなことから、以前からアウトドアスポーツが盛んで、トレイルランニング、サイクリング、SUPなど、県外からも多く人が訪れていた。そこに目をつけたのが市のスポーツ振興課。市内の競技団体やスポーツ少年団などと行政をつなぎ、地域のスポーツ推進委員の事務局を担うほか、体育施設の経営管理なども行っている部署だ。

「呉市では、以前からマラソンやサイクリングなど、いろいろなスポーツイベントを開催していましたが思うように人が集まりませんでした。誰もが知っている、テレビで中継されるような大会はすぐに定員が一杯になります。自然環境の豊かさから言えば、人気のある地域と遜色ないはずなのに、どうして人がなかなか集まらないのだろうと考えたときに、ブランディングが必要なのではないかという考えに至りました」

そう語るのは、市のスポーツ振興課の悦木忠徳氏。アウトドアスポーツのまち・呉をブランドとして発信し、地域のイメージアップにつなげて人を集めようと、同じくスポーツ関連の取り組みを支援している広島県に補助金を申請。それが通った2021年に“スポワンKURE”が立ち上がった。しかし、折しも21年といえば、コロナ禍の真っ最中である。呉市に限らず、人が外から訪れることによってもたらされるものに期待している地域は、多かれ少なかれ苦境に立たされた。だからこそ、ブランディングが大切だったのだという。

ブランディングを通してデザインにもこだわったスポワンKUREのサイトには、呉をこよなく愛するアンバサダーのコラムなどもあり、見ているだけでも訪れたくなる

「イベントをいくら開催しても、知られていなければ存在しないのと同じなんですね。だからこそ、“スポワンKURE”とブランド化してPRし、口コミで多くの人に知ってもらい、訪れてもらう。参加してリピーターになり、他の人も誘ってきてくれるような繋がりを増やしていきたいと思いました」(悦木氏)

呉の自然に触れ、非日常を体験することが大きな喜びに

県から補助金が得られることになり、県と市と半々で経済的にサポートしながらスタートした“スポワンKURE”。この実際の運営に携わったのが、呉市でスポーツイベントを運営するなど、スポーツツーリズムを推進している一般社団法人ITADAKIだ。お話を伺った前日も、ちょうど“とびしまウルトラマラニック”というイベントが開催されたところだという。

「“とびしまウルトラマラニック”は2018年に始まったんですが、最近映画の舞台としても有名になった“安芸灘とびしま海道”の7つの島を回る100kmのコースを巡り、瀬戸内海の絶景と地元の特産品を堪能しながら、とびしまの自然・人・グルメを満喫していただく大会です。私はスタッフとして95km地点のエイドステーションにいたのですが、参加者に“あと5kmですよ!”とお声がけすると、みなさん口々に“あと5kmか、しんどいけど終わりたくない、終わってほしくない”とおしゃっていたんです。疲れたから早く終わりたいんだけれども、もう終わってしまうのかという寂しさ、もっとこの場所にいたいという思いが伝わってきました」

100kmという大きなレースに挑むチャレンジャーの生の声を紹介してくれたのは、ITADAKIのマーケティングを担当する高橋晃司氏。呉の自然に触れ、体を動かしながらその良さを体感することを“非日常”と表現した。

「呉のことを知るには、ガイドブックやWebなど、情報を得る手段はいろいろあります。でも、やっぱり実際に来てみないと分からないことは、本当にいっぱいあるんですね。昨日ゴールされた方が言っていたのは、安芸灘とびしま海道に豊島大橋という橋があって、そこから見る夕陽が絶景で、“肉眼で見ないと、このすばらしさは分からない”“呉はこういう街だったんですね”などという声を多く聞きました。特に、都会に住んでいたりすると、こういう風景に触れる、体感する機会はなかなかありません。そんな“非日常”を体験できるのが“スポワンKURE”なんです」(高橋氏)

呉市スポーツ振興課の萬谷広輝氏は、この“非日常”、豊かな自然に溢れた環境は、“スポワンKURE”のスローガンともなる大きな柱として当初から意識していたことだったと語る。

「以前から、呉市のアウトドアスポーツイベントは、島嶼部で開催されることが多かったんです。高橋さんがおっしゃったマラニックもそうですが、海で行うSUP、山を走って駆け上がるトレイルランなどは、市の中心部から近い海や山でも可能だったのですが、それを押し出したところで意味はないですよね? 我々の武器は豊かな自然です。島嶼部でイベントを行えば、橋から海を一望できたりなど、見ることのできる景色が違います。特産の柑橘果物を食べることができるとか、呉ならではの体験もできる。それがリピーターの増加にも繋がっているようなので、さまざまな体験とともに“アウトドアスポーツをするなら呉”というスローガンが、より多くの人に定着していけば、このプロジェクトは成功と言えるのかなと思っています」

さまざまな人、場所を巻き込んで、持続可能な挑戦を

スポーツイベントは、多くの参加者が集まるのはもちろんだが、陰で支えるボランティアの力なしには成立し得ない。つまり、地元の協力だ。外から人が入ってきて、楽しい経験をしたから、また来たいとリピーターになってもらうには、イベントを盛り上げる地元ボランティアのサポートが不可欠だ。

「高齢化も進んでいて、ボランティアが毎回同じ顔ぶれだということも珍しくなく、“イベントを開催するのはいいんだけれども、手伝いは勘弁してほしい”という声も聞こえてきます。とはいえ、スポーツで呉市を盛り上げていくためには、どうしてもボランティアの力は必要なので、手伝ってもらえる方を地元だけに頼らず市外からも広く募ろうと。そこでも“スポワンKURE”というブランドが役立ちました」(悦木氏)

ボランティアに関しては、“スポワンKURE”のブランドの下に組織化されていることに加え、近頃は前回イベントに参加した人が地元の方の応援がとても嬉しかったので、今回は自分がボランティアとして協力したいと声を上げてくれるケースが増えているのだそう。

「“スポワンKURE”が立ち上がったのがちょうどコロナの感染拡大と重なったため、単純な比較はできないのですが、当初参加者はボランティアなども含め、地元や近隣の方が中心だと思っていました。ところが蓋を開けてみると、参加者は意外に県外の方が多いことがわかり、確かな手応えを感じられています。今後、ボランティア組織については広く周知し、アウトドアスポーツイベントが継続して行えるような運営体制が確立できるように、取り組んでいきたいと考えています」(萬谷氏)

より多くの人を呼び込むために、普段このようなスポーツになじみのない人に向けては“トライアルデー”という体験型アウトドアスポーツイベントも開催している。

「アウトドアスポーツをやってみたい気持ちはあるんだけれども、ちょっと敷居が高いという方は意外に多いんです。その点、“トライアルデー”は誰でも気軽に体験できるイベントになっているので、アウトドアスポーツを楽しむきっかけにしていただけるといいなと思っています」

と、呉市スポーツ振興課の小勝負宏氏は、初心者でも気軽に参加してほしいと呼びかける。高橋氏によれば、呉市と言っても広く、島嶼部のみならずまだまだスポーツの展開できる場所は多くあるのだそうだ。さらにいろいろな人を巻き込んで、もっともっと呉市を面白くしていきたいと氏は語った。

「市としてできることをいろいろ模索していきたいと考えています。そのひとつがインクルーシブな取り組みで、障がいがある方を含め、誰でも参加できるイベントも多く開催していきたいですね。たとえば、転覆しにくいヨットなどもあるので、それを使った競技などできることはいろいろあります。たとえ補助金がなくても継続してできる、持続可能な“スポワンKURE”のあり方を模索していこうと思っています」(悦木氏)


筆者は以前山登り(といっても、誰でも登れる低山だけれども)にはまったことがあったが、喜びの一つが途上や山頂で目にするなんとも言えない景色だった。“スポワンKURE”の参加者がこの景色を見たいと、リピーターになるのも頷ける。まだまだ呉市にはいいところがたくさんあるということなので、その地形に合わせた新しいスポーツが生み出される可能性もありそうだ。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)

写真提供:SPORTS AND WONDER KURE

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