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大谷翔平は子供時代に何してた?自己肯定感を高める方法

パラサポWEB / 2024年10月24日 7時0分

親ならば、我が子の才能を最大限に引き出してあげたいと思うもの。本稿前編では、『大谷翔平から学ぶ成功メソッド』や『わが子を天才に導くうまい子育て』などの書籍を多数執筆し、数多くのアスリートのメンタルトレーナーを務めてきたスポーツ心理学者の児玉光雄氏に、才能を引き出すためには自己肯定感が大切だという話を伺った。後編では、自己肯定感を高める方法について、より詳しく解説いただく。

まずはセルフイメージを大きくする

――前編では、子どもの才能を伸ばすためには、子どもの好きなことや、得意なことを早い段階で見つけることが大切だと教えていただきました。好きや得意が見つかったら、それをどのように伸ばしていけばいいのでしょうか?

児玉光雄氏(以下、児玉):才能を伸ばす際に大切になってくるのは、セルフイメージです。文字通り自分自身をどう捉えているかということですが、ほとんどの人が過去の自分のパフォーマンスから未来を推測してしまいます。たとえば勉強で言うと、小学1、2年生の時にこの程度の成績だったので3年生では同じ程度の成績しか上げられない、自分の成績はこの程度だと自分で勝手に推測してしまいます。蛇口から流れ出る水の量が努力だとすると、それを受け止める容器の容積の大きさがセルフイメージで、容器に蓄えられる水の量がパフォーマンスです。いくら努力しても肝心の自己イメージの容器の容積が小さければ、水はあふれ出てしまいます。まず努力をする前にセルフイメージという容器の容積を大きくする。つまり、自分の潜在能力、自分の才能はこんな程度ではない、もっとすごい潜在能力があるんだと自分自身が思い込むことが大切です。その上で努力をすれば、パフォーマンスとなって蓄えられ着実に成長していくことができます。

ですから、まず大人がやるべきことはたとえ1、2年生の時の成績が悪くても「あなたは50点や60点の成績で終わるような子どもではない、80点、90点を取れる潜在能力がある、努力をすればもっと成績は良くなる」といった言葉をかけて励まし、セルフイメージを大きくしてあげるということです。

目標は可視化する

――どんなに才能があっても、それを開花させるために努力は不可欠ですが、努力し続けることは大人でも難しいことです。何かコツはありますか?

児玉:大谷翔平選手が高校生の時からマンダラシートというものを使って目標設定をしていたことは有名な話です。91のマスの真ん中に最終的な目標である「ドラ1 8球団」(8球団からドラフト1位指名を受ける)と書いて、それを達成するために必要なことを書いていたんですね。目標達成のためには、このように書いて形に残すことが非常に重要です。大谷選手はこの他にも、父親と「野球ノート」という交換日記のようなものをやり取りしていたそうです。父親への質問や、その日感じたこと、できたことなどを書いていたというんです。たとえば自分の好きで得意なことに関して、思ったことや感じたことを書いて、それに対して両親や部活動などだったらコーチからアドバイスを書いてもらうなどするといいでしょう。

結果目標よりも行動目標

――目標設定をする際に、大事なことや、コツなどはありますか?

児玉:まず、非常に大事なのは小さな目標を達成することです。よく年間目標や月間目標を立てますが、一番大事なのは日課つまり日々の行動目標です。年間目標というのは、やる気を起こす意味では大事ですし、野球部やサッカー部などで「県大会で優勝する」などの結果目標を設定してスローガンにするといったことも大切です。しかし、それを達成するには行動目標が不可欠です。それは歯を食いしばって頑張らないとできないことではなく、日々やらないと気持ちが悪いようなこと、朝の歯磨きのような小さな行動でいいんです。そういう毎日やり続けられることをいくつか行動目標として、それを半永久的にやり続けるということが非常に大切です。

――なぜ小さな目標が大切なのでしょうか?

児玉:スタンフォード大学の心理学者、アルバート・バンデューラ博士が、7歳から10歳の子どもを40名集めて2つのグループに分けて行った実験があります。一定の期間内に258ページの算数の問題集をやらせるというものですが、グループAには、問題集を渡して「期間内に頑張って終わらせましょう」とだけ言います。もう一方のグループBには「この算数の問題を毎日必ず6ページずつやり続けてください」と言って渡したそうです。結果として、最後の問題まで完璧にやり遂げたのはグループAでは55%、グループBでは74%だったそうです。つまり、この問題集をやり遂げるという結果目標を与えるだけでなく、日々の行動目標として問題集を与えた方が、最後までやり遂げることができるということです。それに一日単位でベストを尽くすということを繰り返すと、自己肯定感も高まっていきます。大谷選手が、「打率のように日々上がったり下がったりするものはあまり好きじゃないし興味がなく、それよりもホームランや盗塁のように1つずつ積み上げて減ることがないものが自分にとっては非常にやりがいがある」と言っていることからも、小さな成功の積み重ねが大切だということがわかります。

達成意欲の強い子どもの育て方

――日々の行動目標を達成させるため、親はどんなことをしたらいいですか?

児玉:ある研究では達成意欲が強い子どもは、自己肯定感も強いという結果が出ています。では達成意欲を強くするにはどうしたらいいかというと、普段から失敗してもいいから自分で決めてやりなさいというアドバイスをすることです。例えば子どもに何か質問されたら、すぐに正解を教えるのではなく、まずはヒントを教えて自分で考えさせる、解決させることが重要です。

親鳥が卵を孵化させるとき、自らのくちばしで卵の殻を破って雛を外界に出させてしまうと、まだ外界に出る準備ができていなかったその雛鳥は死んでしまうそうです。だから親鳥は雛が自らのくちばしで卵の殻を破って出てくるまで我慢強く待つんです。それと同じように、人間も子どもが自ら考えて行動できるまで見守ることが大切です。

また、お茶の水女子大学の内田伸子先生は、難関大学に合格した子どもを持つ保護者と、残念ながら合格できなかった子どもの保護者を対象に調査をしています。それによると、難関大学に合格した子どもたちは小さい頃、公園などで思いきり遊んでいたそうです。小さい頃に自由に走ったり鉄棒にぶら下がったり、自分が選んだ好きな遊びをしている時間が長い子どもたちの方が運動能力も高かったし、自分の好きで得意なことを見つけ出す能力が育まれていた。そうした自主性によって勉強もできるように育っていったと考えられます。つまり、自主性を育むのは4歳から6歳くらいの時期だということがこの調査で分かったわけです。ですからこの時期は、将来子どもの脳を発展させることに貢献する非常に重要な時期だと考えて、自主的に遊ばせることが大切です。

比較は子どものやる気をなくさせる

――ここまで、大人が子どものためにやった方がいいことを教えていただきましたが、反対にやってはいけないことはありますか?

児玉:アメリカのロチェスター大学のエドワード・L・デシ博士は、他人と比較したり競争したりすることによって、人のやる気は失われるという研究結果を発表しています。デシ博士は、子どもたちにジグソーパズルをやらせたんですが、グループをいくつかに分けて競争させた場合と、自分1人だけで没入してやらせた場合では、競争しない方がやる気が失われず、見事に早くジグソーパズルを完成させたそうです。

たとえば「友達の山田くんはいい成績なのにどうしてあなたは出来ないの?」とか、「お兄ちゃんはあなたの年齢のときはもっと勉強できたのに」などと他人と比較してしまうと、ますます子どもはやる気を失ってしまうわけです。ですから、一時的な成績で誰かと比較するよりも、頑張ることの大切さや、昨日よりも今日、今日よりも明日、成長し進化することに手応えを感じられるようなアドバイスをすることが大事だということが実験によって証明されているんです。


スポーツ心理学者として多くのアスリートをバックアップしてきた児玉氏は、スポーツと勉強の関係について、自動車をたとえにこんな話をしてくれた。「自動車は4本のタイヤのどれか1本でも空気が抜けていると、まともに走ることができません。それと同じで運動と勉強、あるいはゲームと運動、そういった室内の作業と屋外の作業を両方やることで、勉強もスポーツも趣味もすべてがうまく動き出すんじゃないでしょうか」。将来プロのアスリートになれる子どもはほんの一握りだ。それでも、自己肯定感や達成感を得やすいスポーツは、子どもの才能を開花させるための手段としても、とても有益なのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

photo by Shutterstock

PROFILE 児玉光雄

スポーツ心理学者/追手門学院大学 スポーツ研究センター特別顧問/元鹿屋体育大学教授

京都大学工学部卒業。学生時代テニスプレーヤーとして活躍し、全日本選手権にも出場。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院で学び工学修士号を取得。米国オリンピック委員会スポーツ科学部門本部の客員研究員としてオリンピック選手のデータ分析に従事。過去30年以上にわたり臨床スポーツ心理学者としてプロスポーツ選手のメンタルカウンセラーを務める。また、日本でも数少ないプロスポーツ選手・スポーツ指導者のコメント心理分析のエキスパートとして知られている。主な著書は、ベストセラーになった『大谷選手 86のメッセージ』(知的生きかた文庫)をはじめ、『大谷翔平・羽生結弦の育て方 子どもの自己肯定感を高める41のヒント』(幻冬舎)など、200冊以上にのぼる。

<参考図書>『大谷翔平から学ぶ成功メソッド』/河出文庫

<参考図書>『わが子を天才に導くうまい子育て』/河出書房新社

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