月のべ700人参加!ド素人スポーツ練習会とは
パラサポWEB / 2024年12月18日 7時0分
バスケットボールやバレーボールなどのスポーツは、贔屓のチームや選手を応援するのも楽しく、自分もあのように仲間と一緒にスポーツに取り組むことができたら……と思うことはないだろうか。けれども、経験がない、体力に自信がないなどを理由に諦めてしまうケースは多いはず。しかし、そんなド素人でもバスケットボールやバレーボールなどに取り組める場を作っている団体がある。それがNPO法人ド素人スポーツだ。この一見地味に見える地域スポーツクラブが、今密かに盛り上がりを見せているという。同法人の渡辺亜美氏に、その魅力について伺った。
月会費なし、プレッシャーなし。いつでも好きな時に参加OK年齢性別さまざまな人たちが、思い思いに身体を動かす
ある平日の東京都大田区某所の体育館。午後7時から始まったのは“ド素人スポーツ練習会”だ。年齢は下は10代(10代の場合は、年齢制限や保護者同伴、保護者の同意書が必要なことも)から上は60代まで、競技経験問わず、誰でも一人からでも参加ができる。参加費は1人1回500~1500円。持ち物は競技によって異なるが、持っていなければ貸し出ししてもらえるものもあるので、参加へのハードルは低い。ホームページから希望の日に予約を入れ、当日その場所に行くだけでバレーボールなどのスポーツが楽しめるのだ。
「私たちのクラブに参加される方は20代から50代の方が多いのですが、働き盛りであったり、結婚や出産などで、継続してどこかのチームに所属するというのが難しい世代なんです。そこで好きな時にいつでも来て良いようなスポーツの場所を作ったところ、みなさん“こんな場所を探していた”っておっしゃいます。仕事が繁忙期に入ったら、それが終わってからとか、出産してからとか、気軽にやりたいように参加できる。都度参加型をとり、月・年会費などもなく、行かなければいけないというプレッシャーもありません。そういうものをすべてなくして、スポーツ素人さんが、気軽にやってみたい、ドリブルをついてみたいという軽い気持ちで来ちゃって大丈夫な場作りをしています」
と語るのはNPO法人ド素人スポーツの代表理事の渡辺亜美氏。
「都度参加」
「月会費不要」
「会員登録不要」
「専門的な用具を揃える必要は無い(一部用具が必要な練習会もあり)」
「ルールがわからなくても参加できる」
「疲れたらいつでも休んでよい」
「遅刻、早退OK(施設によっては不可のケースあり)」
「当日キャンセルOK、ペナルティなし」
このように良い意味で緩い決まり事だけの練習会のリピート率は80%と非常に高い。月にだいたい50~70人ほどの新しいメンバーの参加があるそうだが、その半分以上は2回目、3回目と回を重ねて参加するのだという。何度も参加したいと思わせる、ド素人のためのスポーツ練習会の魅力は何なのだろうか。
「参加する皆さんがまずおっしゃるのは、健康的な効果ですね。体重が減った、風邪をひきにくくなった、体力がついたとか。それは想定内ではあったんですが、それ以外で印象的だったのは精神的に前向きになれるという声でした。年齢も職業もバラバラな人たちが集まって身体を動かし、点が入ったら大いに喜び、ミスをしたら“悔しい! でも次は絶対に点を入れるぞ!”と大いに悔しがる。そもそもド素人のスポーツなのでミスは多いです。むしろミスは当たり前という空気なので、誰も責めたりしません。その代わり、それまでできなかったことができたりすると全員で喜び、みんなで大声を出したりものすごく笑ったりして、感情を外に出すのでストレス発散になり、ひいては前向きな気持ちを生み出すのかもしれません」(渡辺氏、以下同)
運動は得意じゃないけれども身体を動かしたい……そんな気持ちから始まった練習会近年競技人口が増えていると言われるバスケットボールも、ここなら誰でも気軽に楽しめる
ド素人スポーツの練習会は、職場の同僚や友達同士ではなく家族でもない、何のしがらみもない人々が集まる場所だ。そういった人たちがスポーツというひとつの共通項を通して笑ったり悔しがったり喜んだりするユニークな交流の場となっている。渡辺氏はどうしてこのような場を作ろうと思ったのだろうか。
「今から10年ぐらい前なんですが、運動不足もあって太ってきたなと感じていました。さらに肩こりや腰痛もひどく、通っているマッサージは回数券を買わないといけないほどの深刻な状態。運動をしなければいけないなと思ってジムに通っても続きません。ただスポーツを見るのは好きで、アメリカのあるバスケットボールチームを応援するコミュニティに入っていたところ、みんなでなんとなく自分たちもやってみようかという話になりました。でも、私は運動音痴でしたし、すぐに息切れして何もできなかったんです」
悔しくて一念発起した渡辺氏は、体育館のコートを借り自主練習を始めた。一人で始めたのは、指導してくれるサークルに入ってみたものの周囲が上手過ぎて、ジム同様に続かなかったからだ。しかし、一人での練習にも高いハードルはある。
「料金の安い公共の体育館のコートを借りるには、平日の朝に現地に行って予約をしなければならないので、仕事をしている私には不可能です。でも民間のコートを借りると、1~2万かかります。金銭的な負担を軽くするため一緒にやる人を見つけようと思いました。“本格的にではなくバスケットボールをやりたい人のみ、体育館代を割り勘にしてやりませんか?”という感じで友人に声をかけたり、ネットで募集をしたりしました」
すると“プロの試合を見てやりたくなった”“以前真剣に取り組んでいたけれども体調を崩し、以前のようにはできないけれどもリハビリがてらやってみたい”“50代で子育てが落ち着き、体力的にはこれがラストチャンスかも”など、動機はさまざま。1回に5人、10人と集まり始め、ひと月に200人も集まるようになってしまったのだという。運動は得意じゃないけどシュートができたら楽しいかも……ぐらいの感覚で始めた練習会だったが、渡辺氏と同じように、ド素人でもスポーツをしたいという人たちがどんどん参加するようになったのだった。
見る・する・支える、3つの楽しみ方を可能にするド素人スポーツ“する”人に加えて“見る”だけの人も。さまざまなかたちで参加できるのがド素人スポーツのユニークな点
「健康のために」運動をしようとしても続かなかった渡辺氏は、こうして仲間を募り、したい人がしたい方法でスポーツを楽しむ場を作ることにより、ボールで「遊ぶ」ことがいい運動になっていることに気がついた。いつの間にかマッサージの回数券も不要になっていたのだ。しかし、人数が増えれば、ある程度の決まり事を設けスケジュールなどの管理をする必要が出てくる。
「任意団体として4年ほど活動していたんですが、コロナ禍で活動を中断したら心身共に不調になり、やっぱり運動は大事だと再確認しました。自分と同じ働き世代の方々で同じように健康のために運動をしたいけれど続かない。仕事や家庭の事情でクラブなどに所属するのは難しいというような方が一定数いることはわかったので、そういう方を対象とした安心してストレスなく参加できるスポーツプラットフォームを作ろうと、私は仕事を退職して2022年に本格的に“NPO法人ド素人スポーツ”を設立しました」
専任は、代表の渡辺氏、副代表の児玉氏の2名。そのほかに役員が5名、「ドスポ応援団」という名称の支援者が100名ほどおり、法人を様々な形で支えている。ジムやバスケットボールのクラブはなかなか長続きしなかったと言う渡辺氏は、この場作りに関して、どのようなことを心がけているのだろうか。
「練習会は2時間半から長くて3時間程度。一人で来ている人が多く、夢中で身体を動かして、終わったらそのまま帰るケースがほとんどで、プライベートな話をする時間はあまりありません。話さなければいけないというと余計なストレスになりかねないので、それでいいのではないかと思っています。ただ、初めて参加した方に関しては、私が“今日初めて来てくれましたねこちゃんです。ド素人さんです。よろしく! イエーイ!”ぐらいの紹介はします」
ちなみに“ねこちゃん”というのは、渡辺氏がその方に付けたあだ名だ。つまり、この場では本名を名乗る必要もない。あとはその場の雰囲気任せだ。合間合間に“どうですか? 疲れたら抜けちゃって大丈夫ですよ”などの声がけは適宜行うと言う。まさにちょっとスポーツに挑戦してみたいと思ったら、すぐに参加できそうだ。渡辺氏が練習会を始めた当初、種目はバスケットボールだけだったが、現在ド素人スポーツにはそのほかバレーボールやビーチバレー、フットサル、異色なところでは“見るド素人スポーツ”なるものまである。
ビーチバレーの練習会の様子。バスケットボールから始まり、競技の幅は広がっている「スポーツ庁が見る・する・支えるという3つのスポーツを提示しています。まさに私たちの推しはこれだなと思って。スポーツをできない方でもいろいろな方法で楽しむことはできます。見て応援する、審判をするとかスタッフとして支える、お金を出して支援することによっても十分楽しむことはできるんです。寿命が延びている現代は、昔よりも健康を重要視してそれなりにお金をかける人が多くなっていますが、健康のために“頑張って”スポーツを続けるのではなく、“ド素人スポーツで遊んでいたらいつのまにか、健康になっていた!”“楽しいからつい来てしまう。気がついたらいつのまにか、週1でスポーツしている!”くらいのゆるい感覚で参加してもらえるような環境を整えていきたいと思っています」
運動の効用、スポーツも上手にプレーできれば楽しいことは誰もがわかっている。しかし、継続するにはハードルがある。時間・費用の問題、さらには人目もあるかもしれない。失敗したら笑われるのではないか、チームメイトに迷惑をかけるのではないか……など。そんな大小さまざまなハードルを一切取っ払ってしまったのが、このド素人スポーツだ。練習会に集まる人が多いのは、そんなハードルさえ取り払えばスポーツを楽しめるという人がいかに多いかを示しているのかもしれない。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:平田悠馬、Shota Takehara、NPO法人ド素人スポーツ
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