【名言】谷真海のスピーチで振り返る。いま試されるスポーツの力
パラサポWEB / 2020年6月15日 16時56分
世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスの感染拡大は、社会全体に先の見えない不安をもたらしている。この逆境をどう乗り越えるべきか? そのヒントはパラアスリートの困難に打ち克つ精神力やあきらめずに限界を突破しようとする力にもあるかもしれない。
そこで今回は陸上競技・走り幅跳びで3度のパラリンピック出場経験を持ち、東日本大震災からの復興下で東京オリンピック・パラリンピック招致に貢献した谷真海選手の歴史的なスピーチを振り返ってみたい。
選手それぞれができることを発信!新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、スポーツ界でも大会の中止や延期が相次ぎ、練習の場や機会を失った選手はパラアスリートにも多い。さらに東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が決まったことで、体調の維持や活動資金の調達などの面で課題を抱えている選手は少なくない。
さらにウイルス感染が収束せず、2021年の夏も東京オリンピック・パラリンピックが開催できない場合、再延期はなく、大会を中止せざるを得ないとの報道もあり、選手たちは出口が見えそうで見えない日々を引き続き余儀なくされている。
だが、逆境に強いのがパラアスリートでもある。病気や事故で体の機能の一部を失ったり、社会のバリアに対峙してきた彼らには、できないことよりもできることは何かを考え取り組む姿勢と知恵が身についているからだ。
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例えば、車いすラグビーのパラリンピアン三阪洋行さんは、「Power of Sports~乗り越えよう、スポーツの力で」と題したプロジェクトを発案。困難に直面している今だからこそ、力強いメッセージを発信したいとの思いで、Jリーガーやパラアスリートなど競技の枠を超えた選手から寄せられた動画をまとめた。3月22日の第1弾を皮切りに、現在第8弾までをYouTubeで公開している。
また、パラリンピックの水泳で24個ものメダルを獲得している四肢欠損のダニエル・ディアス選手(ブラジル)は、自身の子どもを抱きかかえながらトレーニングをする様子を披露。日本唯一のプロ車いすバスケットボールプレーヤーである、下肢欠損の香西宏昭選手も自宅での体幹トレーニングをSNSで紹介している。
Não podemos perder o foco...O importante neste momento é não ficar parado e adaptar para fazer os exercícios. Aqui em casa tenho 3 ajudantes…kkkk#fiqueemcasa #tokyo2021 #Mackenzie #Panasonic #timepetrobras #gs1brasil #adidas #teamvisa #bolsapodio #timesp pic.twitter.com/fzJqagThjG
— Daniel Dias (@DanielDias88) March 26, 2020
オリンピックとパラリンピック一体の取り組みもあった。JOC(日本オリンピック委員会)とJPC(日本パラリンピック委員会)の共同企画で選手たちが「#Staystrong」や「#いまスポーツにできること」を付けてその思いをSNS上で発信するプロジェクトだ。東京パラリンピックへの出場が内定しているカヌーの瀬立モニカ選手やテコンドーの田中光哉選手が自宅で過ごす様子などを発信した。
そんな中、パラスポーツ再開の光も見えてきた。
トップ選手の強化拠点のひとつで閉鎖状態となっていた「味の素ナショナルトレーニングセンター」(NTC)が緊急事態宣言解除に伴い利用を順次再開。NTCが全面的に使えるようになれば、東京パラリンピックの代表内定選手や代表選考を控えた選手たちは練習の場を取り戻すとともに、競技に向かうモチベーションを再び高めることができるだろう。
スポーツ界に広がる閉塞感は、9年前の東日本大震災当時に通じるものがある。あのときも日本全体が悲嘆に暮れ自粛ムードに包まれる中、アスリートをはじめスポーツに携わる者たちは「自分に何ができるだろう?」と苦悩した。
今だからこそ読みたい名スピーチ![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2020/05/27202940/GettyImages-179816007.jpg)
そのことを自身の体験と言葉で遺したパラアスリートがいる。東京オリンピック・パラリンピックの招致成功に貢献した谷(旧姓:佐藤)真海だ。
谷は2013年9月7日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれた第125次IOC(国際オリンピック委員会)総会に出席し、東京招致メンバーの最終プレゼンテーションに立った。約4分間のスピーチでは自身が19歳のとき骨肉腫で右足の膝下を失ったこと、一度は絶望の淵に沈んだがスポーツ(陸上競技)によって救われたことなどが前半で語られ、後半では宮城県気仙沼市で暮らす自分の家族が東日本大震災で被災したつらい経験と、被災地の復興支援にスポーツが果たした役割について、IOC委員と世界の人々に伝えられた。
この谷のスピーチは開催都市を決めるIOC委員の心をつかみ、東京大会の招致成功に大きく貢献したといわれている。
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2011年3月11日、津波が私の故郷の町を襲いました。6日もの間、私は自分の家族が無事でいるかどうかわかりませんでした。そして家族を見つけ出したとき、自分の個人的な幸せなど、国民の深い悲しみとは比べものになりませんでした。
私は、いろいろな学校からメッセージを集めて故郷に持ち帰り、私自身の経験を人々に話しました。食糧も持って行きました。他のアスリートたちも同じことをしました。私たちは一緒になってスポーツ活動を準備して、(被災地の人々が)自信を取り戻すお手伝いをしました。
震災から間もなくは医療や食糧などの供給が急務で、スポーツにできることは少なかった。しかし、時間が経つに連れ、運動やレクリエーションが次第に求められるようになり、スポーツのノウハウとアスリートの存在そのものが被災者支援に力を発揮するようになっていった。
その過程をアスリートとして、被災者家族として目の当たりにした谷は、震災発生から1年半後の招致プレゼンテーションに立ち、貴重な体験を語った。
震災当時の感情がよみがえり、時折言葉に詰まりながら訴えたスピーチの最後を谷はこう締めくくっている。
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そのとき初めて、私はスポーツの真の力を目の当たりにしたのです。新たな夢と笑顔を育む力。希望をもたらす力。人々を結びつける力。200人を超えるアスリートたちが、日本そして世界から、被災地におよそ1000回も足を運びながら、5万人以上の子どもたちをインスパイアしています。
日本が目の当たりにしたのは、これらの貴重な価値、卓越、友情、尊敬が、言葉以上の大きな力を持つということです。
その後、2014年9月に結婚した谷は翌年の出産を経て、2016年にトライアスロンへ転向。いくつものハードルを越えながら同競技では初、自身4度目のパラリンピック出場を目指している。
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再びウイルス感染が広がるかもしれない脅威にさらされながら、社会全体が未曾有のコロナショックから立ち直ろうとしている今、スポーツのある風景は人々の暮らしに日常と笑顔を取り戻す助けになるはずだ。その役割を担うアスリートの真の力が発揮されるのは、これからだろう。
text by TEAM A
key visual by Getty Images Sport
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