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内戦を止めた英雄・ドログバのメッセージから考えるスポーツの力

パラサポWEB / 2020年7月27日 19時55分

スポーツは、多くの人を楽しませ、熱狂させる。そして、単なる娯楽に留まらない力を持っている。人種や年齢を問わず、同じルールで競い、ときには助け合い、勝者を称えるだけでなく、敗者の努力も称える。スポーツマンシップは、人間の共存、共栄のために大切なことを思い出させてくれる一面がある。

今回紹介するのは、あるサッカーの試合を通じて発せられたメッセージが、その国の内戦を止めたと語り継がれる、奇跡のエピソードだ。

国の分断を乗り越えて……
2006年のワールドカップドイツ大会でプレーするコートジボワールのドログバ

2005年10月、翌年に控えたワールドカップ(W杯)ドイツ大会の出場権をかけて行われていたアフリカ大陸予選で、サッカーのコートジボワール代表は、敵地でスーダンを破り、W杯初出場を決めた。歴史的快挙を遂げたチームは歓喜に沸き、興奮は、ロッカールームに引き上げても収まることはなかった。

その喜びが選手やチームだけのものではないことが、重要だった。当時、コートジボワールは、2002年に始まった政府と反政府組織との争いによって南北が分断。内戦が長期化していた。争いは、次々に憎しみを生み出し、人を対立させる。しかし、W杯出場は、内戦の対立とは無関係に、コートジボワール国民全員の望みだった。

チームには、国民のヒーローがいた。世界的なビッグクラブであるイングランド・プレミアリーグのチェルシーで、エースとして活躍していたFWディディエ・ドログバだ。あらゆる国のサッカーファンから実力を認められるドログバは、国民の誇りだった。

2006年当時、多くのファンに囲まれるドログバ 国の平和を願うヒーローの訴え

悲願のW杯出場を決めて喜ぶロッカールームの中で、ドログバはテレビクルーのマイクを手に取ると、カメラの画面に向かって真剣な表情で語りかけた。

「コートジボワールの皆さん。北部の人も、南部の人も、中央部の人も、西部の人も。私たちは、今日、どの地域の出身者であっても共存し、W杯出場という同じ目標に向かって、一緒にプレーできることを証明しました。この喜びは、人々をつなぐものだと信じています」

そして、マイクを持ったドログバがひざまずくと、チームメイトも続いた。

ドログバは続けた。

「私たちは、ひざまずいて、心からお願いします。許しあってください。アフリカ大陸にある我々の豊かな国が、内戦状態に陥り続けていてはいけません。お願いです。武器を置いてください。選挙を行いましょう。そうすれば、すべてが良い方向に進みます」

願いは、通じた。同年、コートジボワールは選挙を実施。W杯翌年の2007年に、内戦は終結した。

チームが分裂すれば勝利はなく、チームが国を想わなければメッセージは生まれなかった。

ワールドカップドイツ大会に初出場したコートジボワール代表 人々をつなぐスポーツの力

一つひとつの試合には、誰かの努力、誰かの支え、そして協力がある。そこから生まれるドラマに観客は共感し、熱気は生まれる。

ドログバが内戦終結を願うメッセージを発したことを、W杯を通じて知った日本人も少なくないだろう。2014年にブラジルで行われたW杯の初戦で、日本がコートジボワールと対峙した際にも、メディアで多く取り上げられたからだ。彼とチームメイトの勇気ある行動は、コートジボワール国民のみならず世界中の人々の心に訴えかけるものがあった。

あらゆる垣根を取り払い、喜びや悔しさを分かち合う。そんな熱気の伝播こそ、スポーツが持つ最大の価値かもしれない。そこには、ときとして内戦さえ止めてしまうほどの力がある。大会の中止や延期など、新型コロナウイルス感染症のスポーツ界への影響は大きいが、人々の心をつなぐスポーツの力は、2021年に向けて大切にしたい希望のひとつだ。

コートジボワールの英雄は強いメッセージを発信し続けた

text by TEAM A

photo by Getty Images Sport

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