英知を結集! 東京2020大会公式スポーツウエアの秘密
パラサポWEB / 2020年8月26日 8時0分
東京2020パラリンピックで選手たちが身にまとうオフィシャルスポーツウエア。開催国の選手団が表彰台で着るウエアだけに、世界中から注目を集めるのは間違いないが、そこにはどんな工夫が凝らされ、どんな思いが込められているのだろうか。
1つのチームの中でも多様性を表現東京2020大会のオフィシャルウエアを手がけたのは、東京2020ゴールドパートナーでもあるアシックス。リオ大会、平昌大会に続いてウエアからシューズまで、選手が身につけるものを一手に担う。全部で16のアイテムが揃うが、基本的に全てオリンピアンとパラリンピアン向けに共通の仕様とされている。表彰式などで着用するポディウムジャケットなどは、胸元にJPC(日本パラリンピック委員会)またはJOC(日本オリンピック委員会)のエンブレムがそれぞれ入るが、円形のベースデザインは統一されているので、遠目には同じユニフォームに見える仕上がりだ。
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「もともとオリンピックとパラリンピック日本代表のエンブレムの形状は異なるのですが、1つのチームに見えるようにベースを円形の共通のかたちとすることを提案したところ、JOC、JPC両方の方々に受け入れていただきました」と語るのは、オフィシャルウエアの企画を担当したアシックス 2020東京オリンピック・パラリンピック室 戦略企画チームの山辺高大さん。
ポロシャツやTシャツなどのアイテムもこの点は共通。実は、JPCがJOCと同じスポーツウエアになったのは、1998年の長野大会からだが、小物類まで全て同じデザインになったのはリオ大会以降だ。
これについて、日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会の企画課長・黒田美穂さんは「自国開催のパラリンピックが後押しとなったこと、またJOCのみなさんのご理解もあり、自然のなりゆきで同一デザインになったと感じています。オリンピックとパラリンピックに違いがないことがアスリートたちのモチベーションアップにつながったらうれしいです」と話す。
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遠目には1つのチームであることが感じられるウエアだが、Tシャツ、ポロシャツ、ウィンドブレーカージャケットについては、近くで見ると1枚ずつ微妙にデザインが異なっている。「折形(おりがた)」や「かさねの色目」など日本の伝統文化を取り入れたグラフィックは1枚1枚入り方が異なっており、今大会オフィシャルウエアのテーマの1つである「ダイバーシティ」を表現。通常は切り返しの位置なども全て揃えることが多いが、あえてこの手法を採用することで、1枚の生地をより余すことなく使用することが可能となり、生地のロスも低減できるという。
「それぞれグラフィックの入れ方が違うので、日本代表に選ばれた選手が実際にウエアを手にしたとき、『私はどんな模様だろう』と楽しみにしてもらえるんじゃないかなと思っています」(黒田さん)
このデザインは、一般販売される応援Tシャツについても同様で、全てのデザインが少しずつ異なったグラフィックとなっている。
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パラアスリートは競技によって身体的な障がいの部位が異なり、その程度も様々。それぞれに専用品を用意したほうが、使い勝手などが良くなることもありそうだが、その点についてもアシックス社内では何度も議論が積み重ねられたという。
「実際にパラアスリートの方々からのヒアリングも重ねました。リオ大会の際に、候補選手全員の採寸もさせていただき、その場でお話を聞くこともできましたが、圧倒的に多かった意見は、『みんなと同じものが着たい』『カッコいいデザインのものがいい』という声でした」(山辺さん)
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ファスナーはスナップの部分を合わせてクリックすることで左右が組み合う新構造を採用し、指が引っ掛けやすいようにループを装備。実際にスムーズに着脱できるか、選手に意見を聞いて製作を進めたという。
今回からラインナップに加わったサンダルは義足でも外れてしまうことがないようにヒールストラップを追加するなど、細部に渡る配慮が行き渡っているが、これも全ての人が使いやすいユニバーサルデザインの考え方に基づくもの。
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黒田さんはこう明かす。
「最終的に、アシックスの方々が熱心に取り組んでくださったおかげでストラップの取り外しが簡単にできるサンダルになり、オリとパラの両方の希望がかなうものができたなと思います。これもひとつのバリアフリーですよね」
車いすアスリート用に袖先や丈などを調整したジャケット、パンツが用意されるが、それ以外のアイテムは全て共通としたのも、ユニバーサルデザインを追求した結果だ。
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「ヒアリングの過程では、視覚障がいの方に『選手村で自分のウエアがわからなくなった場合、どのような配慮が必要か』というようなことも聞いたのですが、答えは『その場にいる人に聞く』というものでした。言われてみれば、ウエアに名前を縫い込むといった対応よりも圧倒的にそのほうが早い。ヒアリングを重ねる中で、力を入れる部分とそうでない部分が少しずつ分かって、我々の意識も変わっていきました」と山辺さんは言葉を続ける。一時期、陸上競技・車いすの北浦春香選手と同じ部署で働いていたことも、こうした意識の変革に大きな影響があったという。
機能性だけでなく応援する側の思いも選手に最良のパフォーマンスを発揮してもらうための「コンディショニング」も開発時の重要なテーマだった。暑い時期の東京で開催される大会だけに、選手たちの肉体をいかに涼しく保つかに腐心し、大小のメッシュを組み合わせることで通気性を高める。さらに、ボディサーモマッピングによって体のどの部分が熱をもつか特定し、そこを効果的に冷やす構造「ACTIBREEZE-TECH(アクティブリーズテック)」を設計。こうした工夫を積み重ねることで、ポディウムジャケットはリオ大会のトレーニングジャケットと比較して約5倍という高い通気性を確保している。パラアスリートの中には障がいゆえに体温調整機能が失われている選手もいるので、通気性の確保はとくに重要だ。
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一方で「メッシュ生地は多用しすぎると透けてしまい”力強さ”が感じられなくなってしまいます。開催国の代表として、誇りや自信を感じてもらえるように、メッシュを2層とすることで透けにくい構造とし、デザイン性も高めることができました」と山辺さんが語るように、通気性を高めつつも強さを感じさせるデザインを両立させた。
生地についてのこだわりは、機能性やデザインだけにとどまらない。全国の人たちから、思い出の込められたスポーツウエアを集め、再生する「ASICS REBORN WEAR PROJECT(アシックス リボーン ウエア プロジェクト)」によって作られたリサイクル糸がオフィシャルウエアには縫い込まれている。今大会のオフィシャルウエアのテーマの1つである「サステナビリティ」を表現しつつ、応援する際に大会を少しでも身近に感じてもらうための取り組みだ。
「多くの人たちから、過去の大会で使用したものなど思い出のウエアを提供いただきました。初めて全国大会に出場したときに着ていたウエアですとか、チアの方が応援の際に着ていたものなど、それぞれにストーリー性のあるものばかりで、単にリサイクル素材というだけでなく、応援する側の思いが詰まったウエアに仕立てることができたと思います」と山辺さんも言葉に力を込める。
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1年後に迎える自国開催の東京2020パラリンピック。作り手だけでなく、応援する人たちの思いも込められたサンライズレッドのウエアを纏った選手が表彰台に昇る姿に、今から期待が高まる。
text by TEAM A
photo by X-1
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