再び、1年前を迎えて。東京パラリンピックを目指す選手の「今」
パラサポWEB / 2020年8月24日 15時24分
1年後の2021年8月24日に開幕を迎える東京2020パラリンピック。新型コロナウイルスによる活動自粛期間を経て、2度目の1年前を迎えるにあたり、1年後の大舞台を目指す選手たちの「今」の声をお届けする。
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「パラリンピックについてはいろんな思いがあります。人間の持っている可能性を多くの人に感じてもらいたいとか、東京に来てくれた海外選手に楽しんでいってもらいたいとか。もちろん金メダルも欲しい。でも、たいていのことは、自分が東京パラリンピックでいいパフォーマンスをすることで解決するんです」
そう語るのは、4年前のリオパラリンピックで銀2個を含む4個の日本選手最多メダルを獲得した水泳の木村敬一だ。
2018年から新たな刺激を求めて単身渡米し、ライバルでもあるアメリカ選手のコーチのもと2年間の武者修行で実力をつけた。しかし、2月終わり頃からアメリカでも新型コロナウイルスの感染者が増え始め、日本への帰国を余儀なくされた。その後、すでに出場が内定している東京パラリンピックの開催延期が決定。当時の心境を「選考戦も中止になっていたので、びっくりすることはなかった」と振り返る。
現在は、東京のNTCなどで「一年分、時間が巻き戻ったと思って」練習を行っているという。「もう1年トレーニングして速くなれるならそれでいいかな。来年という目標が照らされている限り、選手としてはそこに向けてがんばるだけです」と語り、金メダルを獲りに行く強い覚悟をのぞかせた。
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木村と同じ、S11(全盲)クラスで戦う富田宇宙は、2019年世界パラ水泳選手権の400m自由形と100mバタフライで銀メダルを獲得し、東京パラリンピックのメダル候補として期待されている。
新型コロナウイルスの影響で東京パラリンピックの開催が延期された状況について、「苦しい選手もいると思うが、僕は1年間という新たな猶予期間をどう活かそうか、という感じ。延期される前から、課題が終わっていないのに期限が迫っている、そんな焦燥感を持っていたので。期間が伸びた分まだまだやれるな、という感覚です」と前向きに考えている。
その“課題”のひとつは、泳ぎを大きくすること。たとえば自由形は、従来のピッチ重視の泳ぎではなく、大きなストロークで効率よく進むダイナミックなフォームに改良中だという。バタフライも呼吸やキックのタイミングを修正するなど、あらゆる泳ぎの欠点を取り除く努力をしている。
「パラリンピック本番も、あくまで自分の成長にこだわりたい。成長を披露した結果として金メダルがついてきたら、最高ですね」と明るく話していた。
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金メダルの期待が大きくかかる車いすラグビー日本代表。チームの屋台骨を担う池崎大輔は、4年前、2回目のパラリンピック出場となったリオ大会で、日本の車いすラグビー史上 最高の銅メダル獲得に貢献し、その後も海外で武者修行するなど世界一を目指して心身を鍛えてきた。
2018年の世界選手権で優勝し、自身もMVPを獲得。その後も連携プレーの精度を高めるため、「意識してたくさんメンバーたちと一緒に過ごし、互いの考えを理解できるように努めてきた」という。
それだけに東京パラリンピックでの金メダルへの思いは深まっていたが、新型コロナウイルスの蔓延で自粛期間に入ると練習はできなくなった。それでも池崎は「ラグ車に乗らない日はなかった。ロードワークなどして感覚を忘れないようにしていた」と話す。6月末に久しぶりに日本代表メンバー数名と体育館で再会。「自分も含めてみんな少しモチベーションが落ちているなと感じたが、少しずつ体力とともに上げていければいいと思った」と明かす。
アメリカにいるケビン・オアーヘッドコーチ含む日本代表メンバー全員が集まれる日はもう少し先になりそうだが、「東京パラリンピックが延期されたことは、日本チームにはチャンス。絶対に金が獲れる状況にはなっていなかったので、もっとチームとしての精度を高め、個人としての成長も詰めていきたい」と力を込めていた。
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車いすラグビー日本代表を主将としてけん引する池透暢は、延期が決まった瞬間、救われたような気持ちになったと明かす。「選手たちはみな、金メダルをとることだけを考えて自分自身を高めてきた。それを発表する場がなくなったときのことを考えると選手たちの存在価値まで失われてしまうのではないかという気持ちになっていたので、素直にうれしい」と、苦しかった胸のうちを吐露する。
池自身、ここまでのコンディション調整が順調で、予定通りに開催されていれば過去最高の自分で臨めた自信があった。だからといって、延期により「去年だったら」という言い訳は絶対にしたくないと語る。「(来年の本番で)今年でよかった、と言えるようにトレーニング計画を練り直しているところ」。今の目標は、来年1月のフィットネスチェックで最高値を叩き出すことだ。
モチベーションは高いままだ。「リオで日本チームとして初めて銅メダルを獲り、2018年の世界選手権では優勝したが、自分たちが世界一と認められるには、パラリンピックの金メダルしかない。そこへの思いは揺るぎないし、応援してくれている方たちに喜んでもらいたい」と、力を込める。
東京パラリンピック開催可否の議論については、「どちらも正しいという意見があると思うが、どういう結果になっても、自分たちが振り返ったときに納得できるよう過ごしていく」。そして、「不安の中、行われるパラリンピックになると思うが、その不安を払拭するぐらいの素晴らしいプレーを自分たちが見せたい」と意気込みを語った。
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2020年6月まで東京パラリンピックの出場権をかけたレースが続くはずだった。しかし、新型コロナウイルスの影響で世界選手権やワールドカップなど、大一番が中止に。東京パラリンピックに出れば4大会連続出場となる藤田征樹は、1年後の延長について、「驚いたが、心づもりはしていたので動揺は小さかった」と振り返る。
延期になっても、目標は変わらないという。すでに銀と銅の2色のメダルを持つ藤田が見据えるのは金メダル。自粛期間中もトレーニングは欠かさず、「家のなかで実際にペダルを回すローラートレーニングを行っていた」と話す。これは「普段も行う方法だが、景色が変わらないし、風も感じないからしんどいトレーニング」ともらす一方で、オンラインでのバーチャルサイクリングを取り入れ、他の参加者と競争するなど、楽しむ工夫をしていたという。
来年のパラリンピックについては「まずは、安全に開催をされることを祈りたい。予選はまだ終わっていないので、出場枠を手に入れていいレースができるように準備していきたい」と意気込みを話した。
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走り幅跳び東京2020パラリンピック日本代表の高田千明。延期を聞いた際も「もう、しょうがないよねと。中止ではなく延期だから、できることをやっていくしかない」と、気持ちを切り替えた。しかし、その後の緊急事態宣言で練習環境が一変。良き練習パートナーだった中学生たちと練習ができなくなったことは残念だったと語る。
とはいえ、1年後に向けてやるべきことは明確だ。出場したリオパラリンピック後、4年計画で練習を積み重ねてきた。今年はその最終段階のはずだったが、1年延びたことで、「ここから新しいことをどんどんやるのではなく、慌てずに今までやってきたことをやる。まだハマりきれていないことがあるので、今までやってきたことを一連の流れとしてできるように練習していきたい」。
パラリンピックは、「最高ランクの大会。自分のやってきたことを証明できる場所」と考えている。だからこそ、「5m超えのジャンプをして、表彰台の一番上で金メダルをかけてもらいたい。そして、競技パートナーと一緒に君が代を聞いて泣きたい」と、イメージを膨らませている。
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7月に日本代表内定が発表された卓球(知的障がい)の古川佳奈美。「本当は4月に発表予定だったが、なかなか発表されなかった。不安で、早く発表してって思っていたので、安心した」と安堵の表情を浮かべる。緊急事態宣言中は練習場も閉鎖されたため、ランニングや筋力トレーニングで体力強化を図ったという。また、ぽっかりと空いた時間を使い、お菓子作りも楽しんだ。「とくに、最初に作ったいちごのパンケーキはおいしくできて、家族にも好評でした」と、ほほを緩めた。
緊急事態宣言解除後は、これまで通りブロック強化を中心に練習に励んでいる。まだ試合はできていないというが、「いまの状態だと海外に行くのは怖いけど、試合はしたい」と、意欲的だ。
東京パラリンピックは、「本当は今年、開催してほしかったが、中止の可能性もある中、延期が決まって安心した」と胸をなでおろす。「家族や周りの人たちが応援してくれているので、後悔しないように練習をがんばりたい」。目指すは金メダルだ。
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東京パラリンピックからの新競技として注目を集めるテコンドー。日本代表の紅一点、女子58kg超級の太田渉子は、もともとスキーのパラリンピックメダリストで、2014年のソチパラリンピックで旗手も務めた実力者だ。ソチ大会後、引退。しかし、2018年にパラテコンドーと出会い、東京パラリンピックを目指して競技生活をスタートさせた。
スポーツはできないことができる時期が一番楽しいと語る。それだけにテコンドーも、「まだできないことが多く、身につくまで10年かかるかもしれないが、その分、挑戦できる。始めてよかった」と充実感をにじませる。
クロスカントリースキーで培ったスタミナを武器に、来年の本番に向け、基礎からステップを見直したり、新しいコンビネーションを身に着けることに取り組んでいる。
競技で楽しいのは、なんといっても試合だ。「テコンドーは四方を人に囲まれて応援してもらいながら行う競技なので、選手としてやりがいもある。スポットライトと声援を浴びながら試合をし、自分の蹴りでワッとなった瞬間は一番気持ちいい」といい、本番でも「後ろ回し蹴りという少し難易度の高い技を練習しているので、ぜひ見てほしい」とアピールする。また、コロナ禍を経験してのパラリンピックについては、「目標に向かってがんばることや、こういうときだからこそあきらめない、というアスリートのメッセージは響くと思う」と力強く語った。
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高校時代、車いすテニスを始め、2015年に世界を転戦し始めた田中愛美は、1年延期となった東京パラリンピックについて「時間的な余裕ができた。2020年のパラリンピックだったら間に合ってなかったと思う」と率直に心の内を明かした。
大会中止が相次ぐことには不安があり、「試合勘が落ちるし、世界ランキングを上げられない」と思いを口にする。ダブルスに関しても、「実戦のなかで2人が会話を重ねることで、新しい考えが見つかったりする場合もある。それができないのが残念」と話した。
それでも練習は前向きにできているという。今年に入ってから車いすのタイヤを27インチと大きくし、全体の重さが軽くなった。より速いチェアワークを求め、攻撃的なプレースタイルに磨きをかけているという。「私らしい先手必勝のテニスを目指したい」と前向きに話していた。
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車いすバスケットボール男子日本代表候補選手の豊島英は、8月16日、オールバスケットボール体制で日本を元気にするプロジェクトの第一弾イベント「BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE」に参加した。オンラインで視聴するファンに向けて「(車いすの)メンバーは揃っていませんが、楽しんでください」と呼びかけると、デモンストレーションとしてドリブルしながらコートを往復するタイムトライアルなどを行い、巧みなチェアワークや華麗なレイアップでファンを魅了。参加した4選手の中で最も早いタイムを叩き出すや笑顔をのぞかせ、最後に「バスケットボール全体を応援してほしい」とアピールした。
こうしたイベントが開催されたことについて、「僕たちプレーヤーにとってありがたいこと」と評価。日本代表候補選手たちは、普段は所属チームで練習しているが、「体育館も使えるところと使えないところがあり、練習環境の違いはあるものの、それぞれができることをしている」と明かした。
東京パラリンピック延期については、「今年開催できなかったことは残念だったが、みんな思っていることは同じ。開催を信じて前向きに取り組んでいきたい」と力強く語った。
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柔道男子66㎏級の瀬戸勇次郎は、現在大学3年生で特別支援学校の教員を志す。オンライン授業にも慣れてきたと話すが、目下の悩みは4年時の教員採用試験についてだ。「教員採用試験が東京2020パラリンピックと同時期にある。進路に影響するので、大学に残るか、いったん就職するか……、いろんな道を模索中です」
東京パラリンピック開催延期を聞いた際は、驚きはなかったという。道場以外での練習をしたことがなかったため、自粛期間中は「ランニングしたり、チューブトレーニングや体幹トレーニングはしていたが、モチベーションがなかなか保てなかった」と、一人で練習に取り組む難しさを痛感したようだ。
練習は7月から徐々に再開し、8月に入り、ようやく柔道着を着ての打ち込みが始まった。「やはりみんなとトレーニングできるのは楽しいが、本格的な練習ができないのは残念」と、以前のように思う存分、柔道ができる日が来るのを心待ちにしている。
練習量の減少も関係しているのか、普段は69kgの体重がお盆明けの時点で73㎏まで増えていた。「さすがにまずいので、食事の量を減らしたり、水泳をしてダイエットしている。まずは70㎏まで落とさないと」と苦笑い。
毎年行われている全日本視覚障害者柔道大会が今年は11月末に開催予定だ。「現時点では開かれるかどうかは分からないと思っている。それでもできる限り練習し、勝ちにいきたい」。「やってほしいし、やるなら絶対に出たい」という東京パラリンピックの代表権獲得を見据え、全力で挑む覚悟だ。
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パワーリフティング女子55㎏級の山本恵理は、東京パラリンピック出場のための標準記録突破を目指す最中、東京大会延期決定を聞いた。もともと2024年のパリ大会も目指していたことから、「(東京の)先があると考えることで、ポジティブでいられた」と話す。
自粛期間中は、他競技のパラアスリートのSNSから大いに刺激を受けたという。とくにできることが限られがちな自宅でのトレーニング(家トレ)について、「パラアスリートは、もともと自分の障がいの特性に合わせて競技を行っているだけあって、家トレもクリエイティブ。私もいろいろなアスリートからヒントを得て、洗濯物をかけた物干し竿をパワーリフティングのバーベルに見立てて持ち上げたりしていました」。
東京オリンピック・パラリンピックの開催可否を問う声が聞こえてくるが、それに対しても「パラリンピックに注目が集まっているともいえるので、ポジティブにとらえたい」と前を向く。「日ごろ車いすで過ごしているが、まだまだ共生社会とはいえない。パラリンピックは、共生社会の実現に無関心な人にもインパクトを与えられるはず。パラリンピックの魅力をどう伝えるか、自粛期間にずっと考え続けていた」と、パラリンピックをきっかけとしたソーシャル・チェンジにも思いを馳せている。
「周囲の選手を見ていると、パラ・パワーリフティングは成果が出るまでに10年かかると感じている。競技歴が4年と短い私は、伸び代しかない。東京パラリンピックでは(自己最高で、日本新記録となる)70kgを目指したい」と、意気軒高に語った。
自粛期間中もポジティブに過ごし、高みを目指して歩みを止めない選手たちの言葉から感じ取れるものも多い。どのような形であれ、1年後に東京パラリンピックが無事開催されることを祈りたい。
text by TEAM A
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