世界から注目される秘境の地に、なぜ若者が移住し起業するのか?

パラサポWEB / 2020年9月25日 13時1分

雄大な山並みに、ラフティングの名所としても知られる美しい吉野川の清流、平家落人伝説が残る大歩危・祖谷(おおぼけ・いや)など、自然と歴史で育まれた秘境の地として知られる徳島県三好市。日本ではあまり知られていないが、実はアメリカ大手旅行雑誌の「2018年旅行すべき50の場所」で、日本で唯一選ばれた場所でもある。

「特別なものは何もない」と地元の人がいうこの土地に、近年、UターンやIターンで移住してきた若者がセンス溢れる文化施設や交流拠点を続々とオープンさせているという。都会の若者を移住させるほど魅了する三好市の魅力とは? 三好市の地域再生推進法人である、社会福祉法人 池田博愛会の岡千賀子さんと木村公明さんに話を伺った。

若手が新しいことを始めやすい町
廃校をリノベーションして出来上がった「物・食・学」の機能を持つ複合施設、シモノロ・パーマネント。カフェや食堂、雑貨などの販売のほか、ようちえん&アフタースクールも写真提供:NPO法人Ubdobe 地域のお茶や野菜の加工食品、特産物などのフード類のほか、子どもの本や職人によるハンドメイドアイテムなども販売写真提供:シモノロ・パーマネント

――秘境の地、と呼ばれている三好市ですが、近年では地域一体となったユニークな取り組みが活発になり、Uターン組や移住組を中心とした若手によって、廃校を利用したカフェやゲストハウス、本格的なスウェーデンサウナなどがオープンしていると伺いました。どれも地域密着型であり、かつ感度の高いおしゃれな施設が多いですね。木村さんは、ご自身も香川県からUターンしてきたということですが、木村さんにとって三好市はどんな町でしょうか?

木村公明さん(以下、木村):まず、三好は人がみんな温かい。正直、不便なんですけど(笑)、でもこの自然の中で、不便さと一緒に生きていくのがすごく楽しいんです。何もないから可能性があって、やりたいことがやれる。何かを作り上げていく楽しさがある。土地に住む先輩方も、受け入れてくれる柔軟性があるから、若手が新しいことを始めて活躍できる場所なんじゃないかな、と思いますね。そういった風土は、実は三好に古くから根付いている“地域福祉”の文化からきているんです。

――“福祉” というと、高齢者や障がいのある方のサポートなど、自分には直接関係しない、というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、三好市は、地域全体で福祉をとても楽しんでいると伺いました。「福祉を楽しむ」という文化は、日本ではなかなか珍しいと思うのですが、三好市ではどのようにしてこのような風土が広がっていったのでしょうか?

岡千賀子さん(以下、岡):私たちが運営している池田博愛会は、昭和38年にできた福祉法人なのですが、障がいのある児童や大人、高齢者の通所といった事業を行なっています。当会がある三好市池田町の箸蔵(はしくら)地区に、「箸蔵福祉村」というボランティア組織があるのですが、昔からこの地域の有志の方々が、福祉を盛り上げようとお祭りや行事ごとに積極的に参加して活動してくれていました。そういった歴史から箸蔵地域には、障がい者も高齢者も、子どもも若者も、あらゆる人を受け入れる風土、コミュニティが育ってきたんです。

そこで、地域全体でそういった理解があることをベースに、福祉をメインとした「多世代型の地域再生」ができないか?という話が持ち上がり、約4年前に三好市から地域再生推進法人として指定を受け、私たちが「福祉を楽しむ」新しいまちづくりを行うことになりました。このまちづくりを積極的に盛り上げてくれているのが、木村のようなUターン組の若手で、新しい文化の風を吹き込んでくれているんです。

多世代で楽しめる、画期的なまちづくりのアイデアとは
地域交流拠点「箸蔵とことん」の交流スペースでは、阿波踊りの披露や作品展の開催といった、子どもからお年寄りまで幅広い世代が交流できるイベントを定期的に実施している写真提供:箸蔵とことん

――「福祉を楽しむ」まちづくりでは、具体的にどのような取り組みを行なったのでしょうか?

岡:まず、地域のみんなが世代を超えて交流できる拠点として、買って、食べて、遊べる「箸蔵とことん」という複合施設を作りました。地域の野菜が購入できる産直市場があったり、子どもからお年寄り、障がいのある方まで、塩分を摂りすぎない健康的で美味しい食事を楽しめる食堂などもあります。そして、元々この施設はワンフロアのホームセンターだったのですが、改修して2階建てにし、室内に木材をいかした子どもの遊び場も作りました。ここに来ればみんなが楽しめる、元気になれる場所にしたい!という思いで出来た施設で、まちづくり事業の一環となっています。

産直市の他にも、食料品、お菓子、飲料から日用品まで揃う「とことんマーケット」もあり。1年間保存可能なレトルト惣菜や手作りの巻き寿司など、体に優しい商品が人気写真提供:箸蔵とことん 温もりを感じられる木製の遊具やおもちゃが充実した「こども広場」。読み聞かせや作品づくりなどのイベントのほか、子育て相談ができるエリアも設置されている写真提供:箸蔵とことん

木村:他にも、三好市で生まれた子ども達全員に「サポートファイル」というものを作って配布しています。母子手帳のプラスαのようなもので、これから生きていく上で関わってくる人や町からの支援、イベントなどを記録できるものなのですが、町の人たちとの繋がりが視覚化されるファイルになっているので、大人になった時に、これまでどんな生き方をしてきたか、どんな人生を描いてきたかが分かるのが面白いですね。

三好市の子どもたちに配られるサポートファイル写真提供/社会福祉法人 池田博愛会 三好市の魅力を体験できる「お試し暮らし」
写真提供:NPO法人Ubdobe

――三好市では、県外からの移住者も積極的に受け入れているそうですね。

岡:木村のような他県からの移住組がうちの職員にも何名かいるんですが、本当に福祉を楽しんでくれていて。新しい目線と発想で、まちづくりを盛り上げてくれていますね。三好には、県外からの移住を考えている方向けに「お試し暮らし」ができる住宅が整備されているんですが、木村のような人材の発掘も兼ねて「移住ツアー」というプロジェクトも過去3年間実施しました。

三好市では、県外から来る人が移住を具体的にイメージできるよう「お試し暮らし」ができる住宅を整備している。趣の異なる丘の棟、ヤマの棟、マチの棟の3棟が用意されており、滞在中は空き家の紹介や地域の人・先輩移住者との交流などもサポートしてくれるそう(写真は、マチの棟)写真提供:三好市

岡:ツアーは、三好市を知ってもらいながら、面白い福祉をしているよ、楽しいまちづくりをしているよ、ということを体験してもらいながら、ゆくゆくは三好市に住みたい、という方を探そう!というプロジェクトで、NPO法人 Ubdobeさんと一緒に企画しました。Ubdobeさんは、「医療福祉エンターテインメント」と謳っているだけあって、すごく意外性のある発想をされる方々で、我々が考える社会福祉法人という枠からいい意味で逸脱していて、エンタメ視点で三好の地域福祉を盛り上げてくれる頼もしい存在です。

――この「移住」というキーワードですが、一緒に地域福祉をデザインしていくまちづくりの仕掛け人として、今年、クリエイティブコミュニティコーディネーターという新しい仕事が誕生したと伺いました。

岡:木村のような田舎の暮らしや福祉の仕事を楽しみながら、自由な発想でやりたいことをやる、そういった若者を県外から募集し、彼らのやりたいことを応援しながら一緒に三好を盛り上げていけたらと思って生まれた新しいプロジェクトです。2020年の2月から募集を始め、現在進行中ですが、地域福祉を楽しむ新しいアイデアが、またたくさん生まれると思うので楽しみにしています。


秘境の地と言われると昔ながらのイメージが先行するが、三好市は、町も人も驚くほど柔軟で先進的だ。だからこそ若者が好んで移住し、クリエイティブな発想を生かして起業するのだろう。そんな三好市から新しく生まれたクリエイティブコミュニティコーディネーター(CCC)という職業。後編では、そのCCCのワクワクするような可能性と魅力について、担当者に話を伺う。

この記事の<後編>はこちら↓

自由な発想でまちづくりを仕掛ける、移住コーディネーターってどんな仕事?【後編】

https://www.parasapo.tokyo/topics/27847

MEUTRAL Webサイト(社会福祉法人 池田博愛会とNPO法人Ubdobeとのコラボレーションプロジェクト) https://meutral.com/

text by Parasapo Lab

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