運動したくてたまらなくなる、世界中で活用される習慣化の秘策とは?
パラサポWEB / 2021年2月18日 15時12分
運動は継続した方がいいと、わかっていてもなかなか続けられない。そんな多くの人が挫折している“運動習慣の継続”に希望をもたらすのが「ゲーミフィケーション」というキーワード。聞き慣れない言葉だが、すでに私たちは知らない間に生活の中で実践しているという。そんな話題のキーワードを活用した新時代の「運動」について調べてみた。
運動が続けられないのはなぜ? やる気に火をつけるゲーミフィケーションとは?![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2021/01/22142116/shutterstock_436609381.jpg)
「ゲーミフィケーション」とは何か? その説明をする前に、運動に関するこんな数値を見て欲しい。
まず2019年の厚生労働省の調査(※1)によれば、日常的に運動習慣がある人は男性が33.4%、女性が25.1%。男性は3人に2人以上、女性は4人に3人は運動習慣がないということになる。
健康を維持するためには運動が有益だということは、みんなよく知っている。それでも体を動かす気になれないのはなぜなのか? スポーツ庁が実施したアンケート(※2)によると、運動やスポーツの実施を阻害する要因として、以下のような理由があげられている。
・仕事や家事が忙しいから
・面倒くさいから
・お金に余裕がないから
つまり、この要因を取り除かない限り運動を継続するのは難しいというわけだ。そこで近年注目されているのが先に出てきた「ゲーミフィケーション」という考え方。簡単に言うと「ゲームの要素をゲーム以外のものに使うこと」だ。
『ゲーミフィケーション 〈ゲーム〉がビジネスを変える』(井上明人著 NHK出版)には、日本のゲーミフィケーションのはじまりについて以下のような記述がある。
日本で江戸時代には、歩数計があったとされているが(中略)一九六五年にYAMASA(山佐時計器)が発売した『万歩メーター』が、日本で広まったものの第一号と言われている。このときから、日本のなかに歩くことが『ゲーム』として可視化される歴史がはじまったと言ってもいいだろう。移動手段が便利になっていくにつれて人々の運動不足が問題化し、『ウォーキング』が健康維持の手段としてより一般的になっていくにつれて、歩数計は広がっていく。このときすでに『歩くこと』にハマり、毎日どれだけの歩数を歩けるかをワクワクしながら遊んでいた人もいるかもしれない。
人は健康にいいからといって、ただ歩けと言われても習慣化することは難しい。しかし、そこにゲーム性が加わると、達成感が生まれ、やる気のスイッチが入るというわけだ。歩いた歩数が可視化されれば、誰かと競い合うこともできるので、よりやる気が起きるという人もいるだろう。ゲーム性を導入することで、こうした人間のやる気をアップしていく手法がゲーミフィケーションなのだ。
ゲームクリエイターに聞く、ゲーミフィケーションの魅力と運動習慣化の効果![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2021/01/22142644/DSC0211.jpg)
大手ゲームソフトメーカーでもこれまで、専用コントローラを使って身体全体を動かすことができるバランスゲームや専門家が監修した60種類以上のフィットネスを楽しみながら行える人気ゲームなど多くのヒット商品が誕生してきた。運動の習慣化とゲームがなぜこんなにも相性がいいのか?
2020年9月にリリースされた世界初のオンライン対戦フィットネスサービス「VS Fit」の第一弾、エンタメ型フィットネスアプリ「FITRIS(フィットリス)」の開発者でもある代表取締役CEOの田巻富士夫さんと、代表取締役COOの黄木桐吾さんに、ゲーミフィケーションの魅力、運動の習慣化への効果についてお話しを伺った。
――「ゲーミフィケーション」のおもしろさ、魅力ってなんだと思いますか?
田巻 「ゲーミフィケーション」というと難しく聞こえますけど、僕たちは日頃から、それに近いことをやっているんですよ。たとえば、ただのゴミ拾いを、どっちがゴミを多く拾えるか勝負しようぜ!といって競い合うのも一種のゲーミフィケーションです。勝負することで、より早くとか、たくさんゴミを拾おうとなってモチベーションがあがる。運動も同じで、継続するにはモチベーションを維持する要素が必要なんです。
黄木 ゲームって基本的にいくらやっても何のメリットもないじゃないですか。お金が儲かるわけでも、資格がとれるわけでもない。それなのに深夜まで夢中になってやってしまう。それは、プレイヤーがどんどんハマっていく仕掛けが仕込まれているからなんですね。何事も継続するには無我夢中でやれるということが大切だと思うんです。普通に運動をしていると、あと30秒とか、あと10回とか、自分との闘いのような苦しい感じになりますよね。
体を動かすことも、ゲームも大好きだという田巻さんと黄木さんは、このゲーミフィケーションという手法を自分たちがよく知っているブロック崩しゲームに取り入れ、フィットネスアプリ「FITRIS」を開発した。
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このアプリは、誰もが一度は見たことがあるブロック崩しゲームがベースとなっているのだが、従来のゲームと大きく異なるのはブロックを動かすのがプレイヤーの体の動きだということ。たとえば、ブロックを左に動かしたければ、スマホのカメラに向かって左手でパンチを繰り出す。ブロックを回転させたければスクワットをするといった具合だ。
黄木 以前僕が「FITRIS」で一番のハイスコアを出したとき、気づいたらスクワットを160回もやっていたんです。普通に今からスクワットを160回やれと言われても絶対に無理じゃないですか。でも「ゲームでハイスコアを出すぞ!」という方に意識が向かっているので、気づいたら160回もやれてしまったんです。
もちろん運動のプロの方から見たらフォームがなってないと言われるかもしれませんが、フォーム云々の前に、まずはやらないと始まらない。健康雑誌に載っているような10分間のワークアウトは毎日はできないけど、ゲームなら毎日できる。たとえフォームが正しくなくても、何もやらないよりは確実に体にいいんじゃないかと思うんです。
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――なぜスポーツとブロック崩しを融合させようと考えたのでしょうか?
田巻 学生時代、黄木はサッカーを、僕は陸上やバスケ、水泳などいろんなスポーツをやってきました。そんな僕たちでさえ日常的にスポーツを続けるのは難しかったんです。ジョギングや筋トレって、それだけをずっとやっていても楽しくないから続かないじゃないですか。実際に僕らもジムに通っても続かなかったですし。毎日ランニングをしたり、ジムに通ったりできるのはメンタルが強い、一部の少数の人たち。でも、僕らはもっと一般的というか、平均的な人たちが健康を維持するためのお手伝いがしたかったんです。
黄木 それで気づいたのが、スポーツを継続するにはいかに楽しくできるか、モチベーションを上げられるかということでした。そこで僕らが取り入れたのが「ゲーミフィケーション」。僕らはバリバリ“スーファミ世代”なので、スポーツが好きな一方で、小さい頃から日常的にゲームをやってきました。だから「ゲーミフィケーション」という考え方はごく自然でしたね。ブロック崩しは子供から大人まで誰でも知っているゲームですし、シンプルなのにみんながハマってしまうといういい意味での中毒性に惹かれました。
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――おふたりは運動が習慣化することで、どんなメリットがあると思いますか?
田巻 体を動かし始めると、せっかく運動をしているんだから食事も健康的なものにしようとか、体にいいことをしているんだから、早く寝て規則正しい生活をしようとしたりしますよね。そんなふうに運動をきっかけに他の健康にいいことにも興味がわいて、自分で調べたりしてハマっていくということが期待できるんじゃないでしょうか。
黄木 一般的にも言われていることですが、運動をしていると体だけでなく、心も健康になってハッピーになるんです。心の健康のためにも多くの人が体を動かすことを楽しみながら習慣化してくれたらいいですよね。「VS Fit」はオンライン型のデジタル競技場のようなイメージなので、世界中どこにいても、誰でも参加ができて、人とのつながりを感じながら、体にいいことや、運動を楽しめるプラットフォームにしていきたいと思っています。その第一段の「FITRIS」は昨年12月にUSでもローカライズしてリリースしたので、まずは日米対決をしたりして世界中のユーザーを巻き込んで、いずれはフィットネスゲームのオリンピックのようなことをしてみたいですね。
田巻 それから、習慣化という観点ではアクセスの良さも重要だと思います。アプリならスマホひとつでサッとアクセスできますし、大きなイベントをやるのに広い場所を借りたり、一カ所に人を集めたりする必要がありません。特にコロナ禍の現在、人を集めたイベントは難しいですがアプリならそれが可能です。まさにテクノロジーを活用しているからこそできることです。このアプリを通じてより多くの人に運動を身近に感じてもらえたらいいなと思います。
新時代の運動は楽しくて無我夢中になれること新型コロナウイルスを経験した現代人にとって、免疫力や体力をアップして、健康的な生活を心がけることは意識の高い人、特別な人たちだけのものではなくなった。そんなニュ-ノーマルな時代だからこそ、体を動かすことはつらく苦しいことではなく、楽しくて無我夢中になれることがであって欲しい。ゲーミフィケーションというシステムは、運動から遠ざかっていた人、苦手だった人たちの救世主となることだろう。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga
<参考資料>
※1「令和元年 国民健康・栄養調査」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf※2「令和元年 スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁)
https://www.mext.go.jp/sports/content/20200507-spt_kensport01-0000070034_8.pdfこの記事に関連するニュース
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