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驚愕!運動不足だと1日で2年分の筋肉が落ちるって本当?

パラサポWEB / 2021年3月16日 14時55分

コロナ禍で働き方や暮らし方が変わる中、心配されていることのひとつが運動不足。テレワークやSTAY HOMEの影響で在宅時間が長くなり、運動どころか歩く機会さえも減っている。そんな状況に警鐘を鳴らしているのが、早稲田大学スポーツ科学学術院の川上泰雄教授だ。運動不足がもたらす想像以上のリスクや、その解消法についてお話しを伺った。

何もしなければ、日々筋肉は減っていく
早稲田大学スポーツ科学学術院(スポーツ科学部・大学院スポーツ科学研究科) 川上泰雄教授

<第一部>の「脳の引き出しを増やす!3歳〜6歳までに必ずさせておきたいこと」では、幼児期にバランスよく運動をした子どもは、脳内にあらゆる動きの引き出しができるという話をご紹介した。その引き出しがあれば、大人になってから運動した時に、高いパフォーマンスを出すことができるというわけだ。では、大人になってから運動に励んでも手遅れということだろうか?

「運動が苦手だからといって体を動かさないでいると、ますます筋肉量が落ちてしまいます。筋肉はある程度負荷を与えると、その負荷に抵抗しようと頑張って肥大したり筋肉を増量したりといったプラスの適応反応が起こります。年齢に関係なく、青年でも高齢者でも、運動をしなければ筋肉は減ってしまうということです」(川上教授)

川上教授は以前、宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに長期滞在した場合、体がどうなるかという実験をしたそうだ。無重力の状態を再現するため、被験者に3週間、ほぼ寝たきりの状態で過ごしてもらった。その結果、実験開始から2週間目には太ももの筋肉が14%も減少したという。14日間で14%ということは、1日1%の割合で太ももの筋肉が減ったことになる。通常の成人の場合は加齢により太ももの筋肉が1年で約0.5%減るそうなので、1日で2年分も筋肉が減ったことになる。

怖いのは筋肉だけでなく、脳への影響

筋量が2年で1%減るのは20~60歳までの間。川上教授の調査によると、60歳を超えるとその減少スピードはいっきに5倍に跳ね上がる。スピードが加速する理由はいくつかあるが、日本の企業は60歳定年制をとっているところが多いことから、定年によって通勤などがなくなり運動量が減ることもその一因と考えられると川上教授は言う。ということは、コロナ禍で動きを制限され、テレワークが推奨される今、筋量や筋力が落ちるスピードが加速する分岐点が60歳よりも早く訪れる可能性があるということだ。寝たきりとは言わないまでも、このまま運動不足が続けば、体にマイナスの影響が出ることは想像に難くない。

「体重50キロの人の場合、太ももの筋量がペットボトル1つ分くらい、だいたい500グラムくらいにまで減ると自力では歩けなくなり、要介護状態になると推測されます。寝たきりの状態で筋量は14%減るとお話ししましたが、筋力(筋肉の出す力)が減るスピードはさらに早く、2週間で30%程度減少してしまいました」(川上教授)

しかも、さらに怖いのは運動不足は筋肉だけでなく脳にもマイナスの影響を及ぼすことだそうだ。

「脳は体に『動け』という指令を与える機会が少なくなると、その神経系にマイナスの適応が起きてしまい、思うように体を動かすことが出来なくなるんです。ですから、運動を続けるということは、筋肉を鍛えるとともに、神経系を刺激し鍛えるという意味もあるんです」(川上教授)

運動不足が続くと、体を動かす神経系やバランスの制御力も失われ、若くても靴下をはこうと片足を上げただけで転倒するといった可能性もあるのだ。

コロナ禍でもできる効果的な運動とは

体を動かさないことが重大なリスクに繋がるとはいえ、コロナ禍では自由に体を動かすことができない。では、せめて近所を歩いてみてはどうだろうと考えるが、普通の散歩程度では、筋肉や脳を鍛える効果はほとんど期待できないそうだ。

「人間の歩行は運動の中でもかなり効率がいいんです。効率がいいということは、大してエネルギーや筋肉を使っていないということです。ですから、普通に歩くだけでは筋肉のトレーニングにはなりません」(川上教授)

では、どんな運動が筋肉のトレーニングになるかというと、誰でも簡単にできるのが、段差を歩くことや、早歩きだ。たとえば自宅マンションや駅などでは、エレベーターやエスカレーターではなく階段を利用する。買い物にいくとき、途中で数分だけでも大股で早歩きをする。それだけで、太ももの筋肉の活動量がぐっと上がる。さらにこうした運動は日頃から運動をしている人よりも、運動に慣れていない人の方が効果が大きいと川上教授は言う。それは、脳に運動の引き出しがない分、効率のいい動きができないため、また、筋肉の量が少なくなってしまっているため、より大きな負荷が筋肉にかかるからだというから、なんとも皮肉な話だ。運動の強度は「気持ちいい」と「しんどい」の間くらい。1日おきでも効果はあるそうだ。さらに、コロナ禍ではできるだけ外を出歩きたくないという人のために川上教授が家の中で運動を習慣化するコツを教えてくれた。

「たとえば、靴をはくときやトイレで用を足すときなどに、ついでにスクワット運動を3回するだけでも違います。毎日必ずやることに運動を組み込めば、習慣化することができます。短時間であっても、強度が少し高めの運動を累積することで、筋力や持久力を向上させることが可能なんです」(川上教授)


現在、世界中の国々がコロナと戦っている。いつかワクチンが行きわたり、治療薬が開発されて、この戦いも終わる日がくるだろう。しかしせっかくウイルスとの戦いに勝っても、今度は運動不足によって寝たきりの人が増えてしまう可能性があるのだ。毎日30分などと張り切る必要はない、トイレで毎回3回のスクワット、買い物のときの大股早歩きが、あなたの未来を明るいものにしてくれるかもしれない。明日からと言わず今日から、運動を習慣化してみてはいかがだろうか。

PROFILE 川上泰雄教授

1988年、東京大学卒業後、同大学院修了。東京大学教養学部助手、同大学大学院生命環境科学系助教授、早稲田大学スポーツ科学部助教授を経て、2005年より早稲田大学スポーツ科学学術院(スポーツ科学部・大学院スポーツ科学研究科)教授。2017年から、早稲田大学重点領域研究機構ヒューマンパフォーマンス研究所所長、2020年に早稲田大学総合研究機構長に就任。人間の身体の形状と機能の関連性について、生体計測を中心とした研究している。またiPhoneアプリ「メタボウォッチ」(無料)を開発し、日本人の生活習慣と体形、認知機能の関係を探る研究も行っている。

この記事の<第一部>はこちら↓

脳の引き出しを増やす!3歳〜6歳までに必ずさせておきたいこと

https://www.parasapo.tokyo/topics/30561

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

photo by Kazuhisa Yoshinaga

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