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メシが食える大人に育つ、香川選手共同設立のサッカー教室が人気

パラサポWEB / 2021年4月7日 16時32分

世界で活躍するプロサッカー選手、香川真司氏と、豊富な幼児教育の知見をもつ花まる学習会が共同で設立したサッカー教室「Hanaspo(以下、はなスポ)」。その独自のカリキュラムには、サッカーに夢中になりながらも、サッカー以外の人生の可能性を広げる学びの場でありたいと考える香川氏の想いと、本物の幸せを感じて生きていける大人を育てたいという同学習塾の願いが込められている。そんなまったく新しいサッカー教室の教育メソッドとは、一体どんなものなのだろうか? このサッカー教室の代表、新山智也氏に話を伺った。

先の見えない時代だからこそ求められる、これからの教育とは?
香川選手(後列 左から3番目)と、花まる学習会の代表、高濱正伸氏(後列 左から2番目)の2人がサッカー教室設立の立役者。今回は、新山氏(後列 右)にお話を伺った

かつてのエリートコースが正解とは言えなくなっている昨今、子どもたちが社会で求められる力は大きく変わってきている。社会が複雑化し、先行きも不透明になった現代では、知識の詰め込みだけで勝負しようにも太刀打ちできないからだ。

あくまで重要なのは、自身で課題を発見して解決できる「自立した大人」になること。「はなスポ」の母体となる学習塾では、20年も前からこの問題と向き合い、子どもたちが自ら考え、未知の分野や自身の苦手に挑戦できるよう、独自の教育を提唱している。

「日本の教育は、言われたことはちゃんとできるけど、覇気がなかったり、意志の弱い大人をたくさん生み出してしまっています。そのため、私たちの塾ではそのアンチテーゼとして、『(自分で)メシが食える大人』を育てるというわかりやすいスローガンを掲げ、子どもたちが社会で活躍できる強みを見つけ、実力を付けていくプログラムを行っています」(新山氏)

「メシが食える大人」と聞いて、ハッと思わず膝を打った親御さんも多いのではないだろうか。教育の専門家やメディアはさまざまな能力の必要性を問いかけるが、子育てに勤しむ親の本音は、ズバリ、自分で「メシが食える大人」に育ってもらうことなのだ。事実、保護者からは「まさにそれ!」と、賛同の声が数多く寄せられたという。

「メシが食える大人」を育てるには、サッカーこそが最高の教材

では、「メシが食える大人」に育てるために必要なことはなんだろうか? 新山氏は次のように話してくれた。

「私たちのサッカー教室では、メシが食える大人になるための<人間力を磨くサッカー教室>を標榜していますが、まず基本的に必要になるのは、『意欲』と『思考力』です。意欲とは、『自分はこれがやりたい』という意志。思考力とは、自分の頭で考える力です。特に思考力は重要で、『見える力』『詰める力』『あそぶ力』の3つから成り立ちますが、サッカーは、それらを鍛えるのに適した最高の教材なんです。 例えば、刻一刻と状況が変わるサッカーは、あの子にパスを出して、それをあの子に返してと、常に見えない補助線を想像しているスポーツ。あそこに走っていったらどれくらいの軌跡を描くかということも自然と学びます。これは『見える力』そのものを鍛えているといっても過言ではありません。また、目標に向かってみんなでやり切ろうとする経験は、『詰める力』を強化してくれます。そして、これが一番大切なのですが、子どもにとって『あそび』であるサッカーは、勉強とは違い、やらされている感がありません。自分でやりたいと思ったことを没頭して取り組むことで、得られる学びが何倍にも膨らむのです」(新山氏)

サッカーもプロの教育者の手にかかれば、それはさまざまな能力を育む教材となる。サッカーをすることで、逆にサッカー以外の可能性も広げられる。それがこのサッカー教室の目指す理想なのだという。

人間力を磨くために必要とされる3つの力
サッカー教室は10歳未満の子どもたちが対象。10歳以上と10歳未満の子どもでは性質が大きく異なるため、この年齢層ならではのアプローチに徹底しているのも特徴だ

また、サッカーがもたらす思考力の向上に加え、ここでは、「人間力を磨く」ために必要となる力として、やりたいことに没頭する「夢中力」とさまざまな方法でトライ&エラーを重ねる「工夫力」、そして、自分の考えを周りに伝える「表現力」の3つをあげる。これらを10歳未満の子どもたちにふさわしいやり方で養ってもらうのが、新山氏をはじめ、幼児教育のスペシャリストである講師陣の腕の見せどころでもある。

『大人の渡し方勝負』が決め手の「夢中力」

「10歳未満の子どもたちは非常に飽きっぽく、ゆっくりしゃべると、それだけで飽きてしまい、話を聞いてくれません。子どもたちがずっと夢中でいられるように、説明のテンポ感やスピード感を上げ、同じ練習を繰り返すことなく、ポンポンとリズム良く授業を展開していきます。また、言葉選びもいかに子どもたちが喜ぶかということを突き詰めて、一言一言にこだわっています。例えば、『校庭10周走ってこい!』と言えば、罰のように感じますが、『すごいね、よくできたじゃん!校庭10周走ってきていいよ!」と言えば、ご褒美に変わります。私たちはそれを『大人の渡し方勝負』と言っていますが、それくらい伝え方で子どもたちの『夢中力』(を引き出せるかどうか)が変わってきてしまうのです」(新山氏)

カリキュラムに余白を残すことで生まれる「工夫力」

「サッカーはどうしても上手い子が主役となってしまうスポーツです。それでも10歳以上の子どもであれば、自分の役割を意識して、チームにこんな貢献ができたと満足感を得られるのですが、10歳未満の子どもはやはり自分が活躍できたかどうか一番重要な年頃。そのため、どうしたら上手い子を出し抜くことができるかを考えたり、こんな風にしたら面白いんじゃないかと想像できたりする子が勝つよう、カリキュラム自体に工夫ができる余白を残しています。また、10歳未満の子どもたちにとって、フルサイズ・コートでのプレーはあまりに選択肢が多すぎます。そのため、試合に使うコートの一人あたりの面積を調整するなど、一人ひとりにあった選択肢の数をデザインすることも『工夫力』を養うためには欠かせません」(新山氏)

『ヒーローインタビュー』で養う「表現力」

「サッカーの上達にはもちろん、サッカーで学んだことをサッカー以外に生かすためにも言語化は大切です。そのため、ここでは授業の最後に『ヒーローインタビュー』というカリキュラムを用意して、子どもたちにその日の授業の感想を聞いています。でも、10歳未満の子どもたちのほとんどが、はじめのうちは『楽しかった』の一言で終了するんです(笑)。そこで丁寧に言葉を引き出してあげたり、言い換えてあげたりするうちに、『今日は練習でこんな出来事があったよ』『次はこんな風にしてみたい』と自分の言葉で他人に伝える『表現力』を身につけます。また、『ヒーローインタビュー』が習慣化すると、これまで無意識で感覚的にプレーしていたことも意識するようになり、『工夫力』も高まっていきます」(新山氏)

この他にも、子ども一人ひとりの違いを見極めて、“平等にえこひいき”するという接し方にこだわっていたり、10歳未満の子どもに強い影響を与える“お母さんの力”を重要視し、年間何百回と保護者向けの講演を開催するなど、幼児教育ならではの独自のポリシーが数多く存在する。

ニートや引きこもりが社会問題化するなど、より生きにくさが増しつつある現在。これからの時代を生きる力が養えるコンテンツとして、「はなスポ」のようなサッカーを活用した教育は、今後もますます広がりを見せるのではないだろうか。

text by Jun Takayangi(Parasapo Lab)

photo by HANASPO

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